#52: 阿膠、パラソル、コーヒー

#52: 阿膠、パラソル、コーヒー

おはようございます。今週はどんな一週間でしたか?

毎朝短い運動をしながらポッドキャストを聞くのが好きなんですが、たまに運動する時間よりも聞きたいエピソード探しに時間をかけてしまうことがあります。そういう時は若干いつもより負荷をかけて追い込むことがあるんですが(笑)、先日は逆に面白いエピソードでついつい最後まで聞き入ってしまったものがありました。

アメリカを中心にスタートアップやテクノロジー、VCなどに関するニュースを発信しているOff Topicのポッドキャストで、2週にわたってホストの二人が話してくれたのはスターバックスについて。創業物語や店舗拡大と買収、そしてテック企業へとシフトチェンジした同社の巧みな経営戦略についてのお話でした。

スターバックスがテック企業だと言われている背景には、同社の経営戦略の大きな要でもある次の3つの要素があるからだそう。
① エンゲージメント率の高いアプリ
② AI(ディープブリュー)を活用したプラットフォーム
③ ネオバンク化

ざっくり言うと、ロイヤリティプログラムであるStarbucks Rewardsをアプリで展開→それをAI技術で顧客一人一人にカスタマイズしていく→そのビッグデータを利用して売り上げ&効率アップ、店舗戦略を立てる→客は増えお店に行くからアプリ上に入金(ネオバンク化)という無敵のループで成長している、というお話。アメリカの売り上げの50%以上がアプリから発生していて、アプリのアクティブユーザーは世界中で2300万人いるんだとか(ちなみにマクドナルドの同様のロイヤリティプログラムは2000万人程度!)。スターバックスのオペレーションやカスタマーサービス、そして経営戦略などからは、いちコーヒーショップやロースターに加え、我々を含むコーヒー関連企業も多くを教えてもらえそうです。

最後に、7/27(火) に「コーヒーと私たちのこれから」というイベントがオンラインで開催されます。企画などの検討で昨年から少しだけご協力させていただく機会がありました。もともとは、コーヒー業界に関わる環境問題を考える場として2018年に始まった「コーヒーとプラスチックのこれから」というイベントでしたが、プラスチック問題だけにとどまらない問題に焦点を当てるために名称を変更し、今回はオンラインにて開催されるそうです。スピーカーの方達は業界を代表する方や業界外で活躍される方で構成されていて、きっと学びの多い時間になるはずです。こちらのアンケートに協力するとイベントに無料で参加できるようになるそうですよ。お時間合う方はぜひ。

それでは今週も良い週末を。

編集長 Toshi

 

This Week in Coffee 
世界のコーヒーニュース

二つのCが揺さぶる市場

最近さまざまなメディアがコーヒー先物価格(通称Cプライス)の高騰について報じており、フィナンシャル・タイムズのこちらの記事では、Cプライス急騰の背景要因と今後のコーヒー取引の行方についてまとめられています。

まずこの度のCプライス高騰の要因として挙げられているのが、今世紀最も深刻と言われるブラジルの干ばつ被害や、以前のニュースレターでも紹介したコロンビアでの抗議デモです。さらに大きく変化する価格を背景に投機筋の動きも活発化しているとのこと。一時はアラビカ種の先物価格が、前年比で約70%も上昇したそうです。現在市場で取引されているコーヒーの多くは前年度の収穫分であることから、取引価格や小売価格の上昇といった本格的な影響は今夏から年末にかけて見られると予想されています。さらにコンテナ不足などの物流の問題や、ポスト・パンデミックの不透明なコーヒー需要など、あらゆる不確定要素が折り重なり、多くのロースター・バイヤーは新たな取引に及び腰のようです。

そして本来農家の収益拡大を意味するはずのCプライスの上昇も、その変動性が大きい(=不安定である)場合、未成熟なコーヒーチェリーの収穫を助長して品質低下につながる場合や、生産者協同組合の負担増加につながる可能性があるとDaily Coffee Newsは指摘します。改めて今回の一連の流れからも、世界のあらゆる事象がコーヒーの市場価格を左右し、そして産業を支えているはずのコーヒー生産者たちが、市場価格の変動に常に左右される「プライス・テイカー」であるという事実が浮かび上がったと言えるでしょう。

 

その他の気になるニュース

▷ 米ノースウェスタン大学が発表した研究結果によると、1日一杯以上コーヒーを飲む人は、そうでない人に比べてCOVID-19の感染率が約10%低いことが分かったそうです。なんでもコーヒーに含まれる数十種類の免疫成分が関係している可能性があるのだとか。

▷ コーヒーメディアPerfect Daily Grindが、コーヒー業界の全ての人々を対象としたe-Learningプラットフォーム「PDG Education」をローンチ。各コースの修了後には修了証明書も授与され、将来のキャリアアップなどに活用できるとのこと。

▷ 近年中国の若年の間では、過重労働を強いる社会的なプレッシャーへの対処法として、不健康な (パンクな) 生活習慣を健康食材などで相殺させる「パンクヘルス」がトレンドなのだそう。徹夜パーテイー後の健康茶や阿膠(あきょう)入りコーヒーなど興味深い事例がぞろぞろ

▷ 200種類以上のマキネッタを集めているマキネッタコレクターことチアイノさん。中でもお気に入りは、丸みが特徴的なLa Signora Caffettieraだそうです。

▷ 突然の豪雨の中、テラス用パラソルを傘代わりに車椅子のお客さんを送っていくカフェバーの店員フランキーへの賞賛の声が集まっています。最高だよ、フランキー。

 

What We're Drinking
今週のコーヒー

 

SPARK COFFEE ROASTERS
宮城

“おいしいコーヒーで、一日が輝く” -Good coffee sparks your day- そんな体験をお届けしたいという思いで、夫婦で営む自家焙煎コーヒーショップです。 先月娘が産まれました! 毎日音声配信(stand.fm | podcast)もしています。

生産者:カミーロ・メリサルデ

生産地域:コロンビア カウカ県ポパヤン (地図

品種:イエローブルボン

精製方法:ゴールドウォッシュト(果汁を利用した嫌気性発酵を含むウォッシュト)

テイスティングノート:スパイシーなアロマとミントやライムを思わせる爽やかな風味が特徴です。 クリーンかつ甘さを引き出す焙煎で、ジンジャエールやモヒートのような味わいを楽しめます。

編集長のコメント:

ニュースレター#34で飲ませていただいた生産者のおそらく同じ精製方法のコーヒーでした。嫌気性発酵の中でもまた特殊な精製方法で作られていて、今回も同様にコーヒーの枠から片足はみ出すようなフレーバー体験に役得を感じずにはいられません。豆を挽いた後から香るカルダモンのようなスパイス香。梅酒のお湯割りのような香りとスパイス感が醸し出す妖艶な雰囲気を感じながらすくい上げたコーヒーを啜ると、フローラルでグリーンティ、そしてライムのフレーバーが口と鼻腔を支配します。そのフレーバーは次第に濃いブラックティへと変化。面白いことにこのブラックティのキーワードが前回同様、Standart Japan制作担当の温と昔旅行したことのあるイスタンブールで飲んだブラックティを思い出させてくれました。ずっとかすかに感じていたカルダモンのフレーバーは、ベルガモットの爽やかな後味とオレンジキャンディのような柑橘系の甘さに隠れ、あの時イスタンブールでふかしたシーシャの煙のように消えていきました。クリーンですが、軽くなく、しっかり一杯と向き合えるコーヒーでした。個人的に、ファミコンのカセットのデザインを思い出すようなSPARKさんのラベルがいつも好きです。

 


Artists in Residence
Standartを彩るアーティストたち

  

アーティスト: 髙城 琢郎 - ウェブサイトInstagram

プロフィール:1989年生まれ。神奈川県在住。広告制作会社でグラフィックデザイナーとして働いた後、2016年にイラストレーターとして独立。2017年3月・2020年3月にギャラリー・ルモンドにて個展を開催。現在は広告を中心に、雑誌やTVなど幅広い媒体で活動中。

最新の掲載記事:Standart Japan第13号

「最後の手紙」


Inspiration
おすすめの本、映画、音楽、アート

Softer - Satellite June

先日たまたま本屋で見つけたこちらの写真集はオランダのフォトグラファーSatellite Juneによるもの。幼少期に耳の形が変わっているとからかわれ続けた彼女は、12歳のときに初めての整形手術を経験しました。以後も他者との比較から自分の身体が「普通」の枠組みに入るのか否かを気にし続けてきた彼女は、数年前からセルフポートレイトを通じて、自分の身体をそれまでとは違う角度から見ることに。すると徐々に、自分の身体を受け入れ、愛せるようになってきたそうです。同じ悩みを抱える人たちにこのブレイクスルーを体験してほしいと感じた彼女は、プロジェクト「Softer」に着手。そしてこの写真集が発表されました。普段の生活ではあまり目にすることのないアングルやポーズで撮影された身体の写真からは、どこか風景写真や静物画のような雰囲気が漂います。そして光や周囲にあるもの、その質感と調和する身体を眺めていると、傷跡やシワや贅肉も目を背けるべきものとしてではなく、個々のキャラクターとして光を放っているような感覚を覚えました。リンクしたウェブサイトに一部の写真が掲載されているので、ぜひチェックしてみてください。


Brewing with…
あの人のコーヒーレシピ 

 

長澤 ゆかり

Nagasawa COFFEE立ち上げからのスタッフとして今年で10年目 今ではお客様からの人望も厚く店舗の要として日々奮闘している。現在は麻婆豆腐作りにハマっている。

セットアップ:

抽出器具 : カリタウェーブ
豆量 : 17g(浅煎り) , 18g(中〜深煎り)
湯量 : 200g
挽き目 : EK 10.1 , wilfa フィルターから一つ粗い位置
湯温 : 87°c
抽出時間 : 1'30(投入終了)

手順:

  1. 計りの上にドリッパーサーバーをセットし ペーパーをリンスする
  2. (浅煎りの場合) 粉17g入れお湯25g-30gを粉全体に注ぎ40秒蒸らす
  3. 40秒後お湯を細めに中心から円を描くように注ぎ150gになったら、真ん中一点にドリッパーの2〜3㎝高い位置から少し太めにお湯を200gまで注ぎ終了

                    ポイント:

                    • 浅煎りの場合は150gからのお湯の注ぎは沈んだ粉を掘って舞うようなイメージ
                    • 中〜深煎りの場合は蒸らし30秒 お湯の注ぎは120gまで細めそれ以降少し太めに最後まで円を描き注ぐ
                    • 湯温が低めなのでリンスは多めに器具もしっかり温める(カップを温めておくのもお忘れなく!)

                           


                           

                          今日のShout outは、東京の日本橋人形町を拠点とするハンカチーフ専門店CLASSICS the Small Luxury。同ブランドの想いや哲学が詰まった、ドキュメンタリーちっくな映像「More than a handkerchief」に、Standartが小道具として登場します。ありがとうございました!🙏

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                          今週の The Weekend Brew は Standart Japan 第16号スポンサーの TYPICA、パートナーの Victoria Arduino x トーエイ工業セラード珈琲カラベラコーヒーのサポートでお届けしました。

                          LOVE & COFFEE✌️
                          Standart Japan
                          (執筆・編集:Takaya & Atsushi)