#15: 捉われず、共に生きる

おはようございます。今週はどんな一週間でしたか?

コーヒー業界のキャリアパスについて考えるポッドキャスト番組「MAP IT FORWARD」が今週水曜日に公開したエピソードには、建設的な批判についてさまざまなヒントが隠れていました。

番組ホストのLee Safarさんとコーヒー業界では神様のように崇められているJames Hoffmannさんの、2時間にわたる対談が収録されたこのエピソード。ことの始まりは、以前Jamesさんが自身のYoutubeチャンネルで、Leeさんが経営するElixir Specialty Coffeeの商品をレビューしたことでした。その動画を受けてLeeさんとElixirブランドは、Jamesファンから否定的なコメントをなげかけられただけでなく、一部の卸売顧客を失ってしまったそう。権威を持つ人の言動が他者に及ぼす影響について、Leeさんの切実な問いかけにJamesさんが言葉をつまらせながら答える姿が印象的でした。

批判と向き合い、建設的な会話を通じて前に進むのは簡単なことではありません。ましてや業界のトップランナーであるお二人が、ここまでリアルな会話を公開するのには、とてつもない勇気が必要だったはず。過去にJamesさんのファンから攻撃を受けたことがあるLeeさんは、なおさら不安を感じていたことでしょう。それでも業界の未来を考えて公開に踏み切った2人には感謝したいです。

終盤でLeeさんが放つ「この対話の目的は過去を掘り返すことではなく、変化のきっかけを作ること」というコメントが今も心に残っています。気になる方はぜひ聞いてみてください。

Team Standart Japan

 

This Week in Coffee 
世界のコーヒーニュース

多勢に無税

ラスベガスにベジタリアンコーヒーショップ、Golden Fog Coffeeがオープン。このお店の大きな特徴は、植物性ミルクやヴィーガンフードがほかの商品より割高で販売される、通称「Vegan Tax」を無くし、全メニューがアプローチしやすい価格で提供されるという点です。
 
プラントベースのライフスタイルは動物愛護の観点だけでなく、全世界の温室効果ガス排出量の約14.5%が畜産業に起因するという背景から、気候変動へのアクションの意味合いでも多くの支持者がいます。ではなぜVegan Taxが存在するのか。この記事によると、まだ一般的とは言えないプラントベースの商品は廃棄を踏まえ大量購入できないことから、最終の提供価格が上がってしまうのだそう。
 
一方で米国の動物愛護団体のPETAはスターバックスの株主となって株主総会でVegan Tax撤廃に向けた提言活動を行い、スターバックスもそれに対し前向きに返答しました。また以前本誌でも取り上げたOnyx Coffee Labは、動物性ミルクを使用したメニューに対してCarbon Tax(炭素税)を上乗せしています。
 
気候変動によるコーヒー危機は現在進行形で起きています。日本ではカリオモンズコーヒーロースターが紙コップやレジ袋などの消耗品の価値を見直すReworthプロジェクトを行うなど、そのアプローチはコーヒーのように多種多様です。一人ひとりが社会問題を自分事化する、その最初の「一杯」がコーヒーであることを願っています。

 

再考し再構する

イギリス・ロンドンの国立近代美術館テート・モダンが出したHead of Coffee(コーヒー責任者)の求人が物議を醸しました。その年間給与は「39,500ポンド(約540万円)+ボーナス 」。これはロンドン地域のキュレーターの平均給与37,373ポンド(約510万円)を上回っており、SNS上では怒りを露わにするコメントが相次ぎました。

しかし Head of Coffeeの求人詳細を見てみると、主な業務内容に「テートが管理する4つのギャラリーで提供される全てのコーヒー関連業務のマネジメント、サプライチェーンの管理から焙煎に至る全てのディレクション、及び焙煎機の貸出しやコーヒー豆の卸売、OEM契約を含む外部収入源の責任・管理」とあります。このような高い専門性と幅広いスキルが求められるポジションであれば、上記の給与も批判が噴出するほどには映りません。
 
社会学者Pierre Bourdieu によると、人の社会経済的地位は3種類の資本によって決まり、そのうち文化資本はオペラやアートをはじめとした「ハイカルチャー」との結びつきが特に強いといわれています。この視点に立つと「ハイカルチャーに属すアートキュレーターを上回る給与をもらうバリスタなんてけしからん」という考えが、一部の批判の後ろに見え隠れします(実際にそういった主旨の批判もあった模様)。コーヒーにまつわる職業の社会的地位に関して複雑な思いが交差するニュースですが、新型コロナによる大きな社会構造の変化は、私たちに物事の「価値」を再構するきっかけを与えているのではないでしょうか。

 

その他の気になるニュース

▷ 通称「昆Tuber」のかずきさんがSanwa Coffee Worksの監修の下「コオロギを引き立たせるコーヒー」を発売。ちなみにStandart Japan最新号には昆虫食ブランドAntcicadaの代表を務める篠原さんのインタビューが掲載されています。

▷ 焙煎日はできるだけ新しい日付の方が良いと思っていませんか? コーヒーのおいしさと鮮度は必ずしも一致せず、むしろ焙煎豆に含まれるCO2が放出されるよう、時には10日ほど寝かせるべきなのだそう。他にも鮮度にまつわる情報がこちらの記事に掲載されています。

▷ イタリアでは今も1ユーロ(約120円)ほどでエスプレッソを飲むことができます。このインフレを無視したようなコーヒー価格の背景には、かつて議会が設定した「必需品」の販売価格に関するルールや、苦味と濃度を好む消費志向が関係しているよう。

▷ 豪雨で被災したルワンダのコーヒー農園の復興支援を目的とするクラウドファンディングキャンペーンに、1600万円もの寄付が集まりました。Weekend Brew vol. 1でも触れたこのキャンペーンの資金は、復興作業や救援物資の配給に使われています

▷ ノルウェー人のネイチャートラベラーFalke Omdalさんが、毎朝世界のどこかでコーヒーを淹れるASMR動画。細かい説明は不要です。とりあえずヘッドフォンで音を聴きながら映像を見てみてください。

 

What We're Drinking
今週のコーヒー


 

TsukiCafe
山形

スペシャルティコーヒー の素晴らしさを東北で広めるTsukiCafe。山形市内でカフェを2店舗とロースター兼販売所「TsukiCoffee」を運営しています。お店毎に、同じ豆でもローストプロファイルを変えたコーヒーを提供していて、それぞれの店舗で違った楽しみ方ができるのも魅力。

生産者: 
ルイス・アルベルト

生産国:
ニカラグア ヌエバ・セゴビア県、ハラパ(地図

品種:
パカマラ

精製方法:
ウォッシュト

テイスティングノート:
オレンジ、アプリコット、ビワ

編集長のコメント:
お湯を注いだ直後に立ち上がってくる微かなバラや烏龍茶っぽい香りから、フローラルな味を想像していましたが、柑橘系の果物が頭にぽんぽん浮かんでくるような酸味のなだらかな変化が楽しめます。レモン(どちらかというとティーの方)のような酸味から、甘みがましてきてバレンシアオレンジに変わり、上品な甘みがしばらく続いてから少しキレのあるフィニッシュで八朔のようなニュアンスを感じました。すっきりした爽快感を感じるコーヒー。エアロプレスで淹れるとおいしそうだなと豆がなくなった後に気づき落胆しました。超個人的ですが、16時くらいに飲みたくなるコーヒーです。


Inspiration
おすすめの本、映画、音楽、アート

ATLANTIS Issue 1 - THE BORDER
ウェブサイトインタビュー

トラベルカルチャー誌 NEUTRALそしてTRANSITの元編集長である加藤 直徳さんが2018年に創刊した雑誌ATLANTIS。「境界」をテーマに、国境や目に見えない様々な物事の境目、そして物理的な境界などを深堀りします。創刊号しか発行されていませんが、2020年の今もなおこの創刊号は輝きを放ちまくっており、ソーシャルディスタンスのような見えない境界に対して考えるきっかけになります。TRANSITの雰囲気が好きな人にはオススメなのは間違いありませんが、何よりこの雑誌が面白いのは、創刊する前の年の2017年からATLANTIS zineというプロジェクトをスタートして、雑誌が創刊するまでの道のりをコンテンツとしてZINEにまとめているところです。No. 1~6までのZINEが販売されていて、雑誌のタイトルやコンセプトの検討から始まり、特集やコンテンツを考えたり、判型(サイズ)の選択、レイアウト、そして表紙を決めたりと、雑誌作りやそこに注ぎ込まれる情熱(&苦労)を学べます。ZINEを作りながら、色々と試していく中で、だんだんとATLANTISのアイディアが具現化していくライブ感がたまりません。Standart Japanを創刊したばかりのちょうど2017年に、雑誌作りのど素人だった僕をいろんな意味で助けてくれたZINEです。そして、創刊号の冒頭で加藤さんが語る「紙の媒体はクラシックだけど、アナログな時間の手触りにこそ文化が宿ると信じている。長く時間をかけたものは、やはりすばらしい。」という言葉に、何度も背中を押してもらいました。リトルプレスなどに興味がある方はぜひ。 - Toshi



こんにちは未来
SpotifyAnchor

『真面目にマリファナの話をしよう』の著者として知られるジャーナリストの佐久間裕美子さんと、コンテンツレーベル黒鳥社の若林恵さんが、アート、政治、ビジネス、ライフスタイル、メディアまでさまざまなトピックについて喋り合うポッドキャスト番組。ニュースについて意見交換したり日常生活における気づきを基点としてエピソードが始まったりと、聞いていると友人同士の会話を盗み聞きしているような感覚を覚えます。この番組の魅力は、自分がある程度理解していると思えるような話題についても「あ、そこ考えてなかった」と新しい着眼点をもらえるところ。例えば「動物との共生」と題されたエピソードでは、ネズミなど都市に住む害獣の扱いについて議論され、「ポスト・トゥルースとはなんなのか?」では音声情報と文字情報の真実性に話がおよびます。この番組が誕生した背景について、佐久間さんは2018年のSXSWを振り返りながら「イノベーションはフェイクニュースの台頭を許し、ドナルド・トランプ政権の登場を許してしまった、という自省のムードが漂うカンファレンスのあとで、『結局のところ、イノベーションが、貧困、難民、格差といった問題を解決できなかったのは、それ以前に解決しなければいけない人々の感情やエンパシーといった、よりウェットな価値基準の問題があるからではないか』」という考えがあったと語っています。ちなみにこの番組は黒鳥社と青山ブックセンターの協働によって書籍化されているので、聞くより読む方が良いという方はこちらからどうぞ - Atsushi 


Brewing with…
あの人のコーヒーレシピ 

 

田上凜太朗

福岡県出身。Blue Bottle Coffeeでバリスタとして働く傍ら、自身のブランド Barista Base蜃気楼珈琲の代表として活動。
シアトル留学中に出会った一杯のコーヒーに感動してバリスタの世界へ。アイスクリーム作りと左官のYouTube見るのにハマっている

セットアップ:
抽出器具:v60 02
豆量:16g
湯量:240cc
挽き目:中細挽き
抽出温度:90~94℃
抽出時間:2分10~30秒


手順:

  1. 3投に分けて注湯。
  2. 1投目は、40ml フィルターに当たらないように注ぎ、30秒程蒸らす。
  3. 2、3投目は100mlずつ。円を書くように、ゆっくりと。
  4. 3投目終了後、Raoスピンで縁についたコーヒーの粉を落とす。

        ポイント:
        ▷ 10回淹れて、10回同じクオリティのものができるように、極力シンプルなレシピにしています。
        ▷ 豆によってレシピを変えるというよりは、焙煎度合いによってレシピは微調整します。
        ▷ 常にクリーンなカップを意識してレシピは作ります!

        一言:
        蜃気楼珈琲というシェアリングコーヒースタンドを11月2日に始めます。実店舗を持たない駆け出しの #インディーズバリスタ たちが日替わりでお店をシェアし、挑戦して、失敗して、成長する場所を目指しています。絶賛出店者募集中です!


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        Standart Japan

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