#59: 初デート、添加物、コーヒー

#59: 初デート、添加物、コーヒー

おはようございます。今週はどんな一週間でしたか?

今週、Japan AeroPress Championship 2021の福岡予選が開催されました。ご存知の方も多いと思いますが、この大会はエアロプレスという抽出器具を使い、誰が一番おいしいコーヒーを淹れられるかを競うもの。日本では福岡と東京で予選が開催され、勝ち上がった競技者たちが全国大会へ、そして日本チャンピオンが来年3月の世界大会に臨みます。

一昨年までは競技者が全国から集まるお祭りのようなイベントが開催されていましたが、去年はキャンセルとなり、今年は代理抽出者が競技者たちのレシピに沿ってコーヒーを淹れる少し特殊なリモート形式での開催となりました。エアロプレス・チャンピオンシップ特有の、ナイスな音楽と歓声、ビールやワイン片手に楽しむゆるくピースフルな空間は、残念ながら今年はありませんが、それでもコーヒーカルチャーを盛り上げようとリモートでも開催することを決めた運営の皆さんに感謝しかありません。みんなでコーヒーを盛り上げよう、楽しもうという気概がこの業界にはあり、それが飲み物としてのコーヒーとはまた別の魅力の一つでもありますよね。

光栄にも、私が個人的に運営しているコーヒーショップを開催場所に選んでいただき、ジャッジも務めさせていただきました。2015年にオランダで開催された同国のエアロプレス・チャンピオンシップの会場に初めて行ったときのことを鮮明に覚えていて、そのときからいつかあの空間に関われる日が来るといいなと思っていました。形式は違えど、ついにその夢が叶うこととなりとても感慨深い1日でした。関係者の皆さん、貴重な体験を本当にありがとうございました。(ちなみに、2015年のオランダの大会の様子を探そうと検索していたら、Sprudgeの記事に掲載されていた大会写真がありました。群衆の中に見覚えのある顔が……笑)

そして今週は、Standart Japan最新号のMeet Your Baristaでインタビューさせてもらったバブロス・コーヒー・ロースターの山岡 清威さんとのインスタライブを開催しました。ランビアンでの生活やコーヒーの生産事情をお伺いすることができ、私だけでなく日本のコーヒーラバーにとっても貴重なお話だったのではないでしょうか。当日ライブにご参加いただいた皆さん、ありがとうございました! 見逃した方、IGTVでアーカイブをご覧いただけますのでよければぜひ。

それでは良い週末を。

編集長 Toshi

This Week in Coffee 
世界のコーヒーニュース

フレーバーにも透明性を

さまざまな生産国で取り入れられている発酵技術によって、かつてない特徴的なフレーバーを持つコーヒーが生み出されています。しかし私たちは同時に、技術の普及が孕むリスクについても考えなければいけません。こちらの記事では、炭素ガスが充満した環境でコーヒーを発酵させる精製方法「カーボニックマセレーション」の第一人者であり、2015年WBCチャンピオンのササ・セスティック氏が、コーヒーの精製過程でコーヒー以外のものを加えることの問題点とこれから業界が直面するであろう課題について語っています。

彼によると、近年競技会で使用されるコーヒーの中には、稀に生豆の情報に記載された精製方法では生まれるはずのない強いフレーバーを持つものが見られるのだそう。断言はできませんが、これらのフレーバーは微生物による発酵の結果ではなく、精製過程でトロピカルフルーツやシナモンなど強いフレーバーを持つものを意図的に追加した結果生まれた可能性が高いとセスティック氏は述べています。コーヒー以外のものを添加すること自体への賛否はさておき、公表された情報とは違うかたちで精製されたコーヒー豆が増えていくと、透明性を重視するスペシャルティコーヒーの根底が揺らぐだけでなく、コーヒー農家全体への不信感に繋がる可能性さえあります。現にエクアドルの品評会では、過度なトロピカルフルーツの特徴が感じられるコーヒーがあり、成分分析を経て、そのコーヒーは失格になったそうです。

精製過程の複雑化は、未知なるフレーバーの可能性を開くとともに、透明性の確保を難しくさせています。またその背景として、「新しい」フレーバーを求める市場が生産者に与えるプレッシャーも無視できません。業界全体としてイノベーションの推進と情報管理の徹底をどのように両立していくのかが、今後の鍵を握りそうです。

 

その他の気になるニュース

▷ 現在ベトナムでは、ホーチミンで発令されているロックダウンの影響によって、港へのコーヒー輸送が滞っているとの報告が。政府は対応策として輸送手続きの簡素化を地方当局に求めていますが、今後のサプライチェーンへの影響に緊張が高まっています。

▷ Alphabet(Googleの持株会社)傘下のドローン企業Wingは、昨年豪州ローガン市にて1万杯ものコーヒーをドローンで配達したのだそう。コーヒーが空からやって来る日はすぐそこかも? ちなみに同社は米・バージニア州の学区と連携し、自宅で授業を受けている学生に向けて図書館から本のドローン配達も行っていました。

▷ 最新の市場レポートによると、2020年に発売されたコーヒープロダクトの約半数が、少なくとも1つのエシカル、または環境的な取り組みを売りにしているとのこと。なお同レポートは、それぞれの社会的な取り組みの成果を評価するものではなく、取り組みの数にのみ焦点を当てています。

▷ 台湾では、昨年度一人当たりのコーヒー消費量がお茶の消費量を上回りました。農園からカフェまでの物理的な近さが特徴の同国。お茶からコーヒーに転作した農家も多く、コーヒーが国民的な飲み物としての地位を確立しつつある模様。

▷ 専門家によれば、初デートは30分ほどのカフェデートがおすすめとのこと。時間を浪費するリスクや気まずさを避けられるのがその理由なのだそう。コーヒーは少し甘酸っぱさが増しそうです。

 

 

What We're Drinking
今週のコーヒー

 

warmth
群馬(地図

2021年6月、群馬県高崎市にオープン。 老幼男女 少しでも人生の余白を大切に感じられる事が出来る、寄合所の様な場所に。 柔らかに、穏やかに、じんわりと五感を大切に。

生産者:313 smallholder farmers (Danche WS)

生産地域:エチオピア 南部諸民族州 ゲデオ地方 ゲデブ郡 チェルベサ(地図

品種:ウォリショ、クルメ、デガ

精製方法:ナチュラル

テイスティングノート:心の赴くままに自由に感じ、楽しんでください☺︎

編集長のコメント:

エチオピア イルガチェフェ地域のコーヒーはThe Weekend Brew #30以来で久しぶりでした。相変わらず期待を裏切らないエチオピアの豆たち。洗練されたその風味いっぱいの液体に感激しました。あまりのキュートな豆面に誘惑されて、豆を一粒口の中に放り込んでガリガリ食べてみると、シナモンやブルーベリーマフィンのような香りが鼻に抜けていきました。その香りはお湯を注いだ豆からも感じ、なおかつなぜかカレーの上に乗せた福神漬けのような香りも浮かびました。一口啜ると、ジューシーでフレッシュなもぎたてブルーベリーを食べているよう。優しく絶妙なバランスの酸は嫌味なくスッと体に入ってきます。口の中で転がる液体から香る花のブーケのような甘くフローラルなアロマが口から鼻に抜けていきます。温度が下がってくるとストロベリーの味が強くなり、とろりとしたベルベットのような質感を際立たせます。繊細かつ力強いフレーバーは長く口と心を満たしてくれました。

 


Artists in Residence
Standartを彩るアーティストたち

  

アーティスト:マイケル・ハダッド ウェブサイトInstagram

プロフィール:カナダを拠点に活動するイラストレーター兼アートディレクター。デザイン会社に勤務後、オタワのブリュワリーBeau’s Brewing Co.にてデザイン、アートディレクションを担当。 伝統的なテイストにポストモダン的なひねりを組み合わせながら、ユーモアに富んだコンセプチュアルな作品を制作している。現在は、New York Times、Monocle、Wiredなど、大手メディアをクライアントにグローバルに活躍中。

最新の掲載記事:Standart Japan第13号「ウシュウシュに魅せられて」

Inspiration
おすすめの本、映画、音楽、アート

NOSE(ノーズ) 調香師 ‒ 世界で最も神秘的な仕事

香水の原料や香りのインスピレーションを求めて世界中を旅する、ディオールの専属調香師フランソワ・ドゥマシーに密着したドキュメンタリー映画。調香師という職業がそもそも存在するんだというところから、香水が作られるまでの工程やそこに携わるプロフェッショナルたちの情熱を知ることができる本作品。個人的に昔から色んなものの匂いを嗅ぐのが好きだったこともあり前から気になっていた映画でした。自然の恵みが人々を魅了する香りに変わっていくプロセスは壮大な旅路を見ているような感覚を抱かせ、そして何より映像が美しい。インドネシアのスラウェシ島の山の中ではパチョリ畑に、ジャスミンやローズの畑が広がる南仏グラース、ベルガモットを育てる南イタリアのカラブリアなど、色彩豊かな画から香りが香ってきそうなほど。ジャスミンを摘み取っている風景は特に美しく、目に焼き付いています。劇中、ウィットな言葉をたくさん残してくれるフランソワですが、イタリアを訪れた時に車の中で発した言葉が印象的でした。「殺人者が殺人現場に戻ってくるのと同じようなもの。匂いを嗅ぎ、触れるのが重要なんだ。なぜなら環境は素材の一部だから」。コーヒーも農園に訪れることで、生産に関わる人々や動植物などを含む、原料が育った環境を知ることができ、それが素材の一部となっているのを飲み手としても実感しています。映画を見た前日に、毎年コーヒーの産地に出向いているある焙煎家の方とお話する機会があり、コロナで産地に行けないことが「どこか不安だ」という言葉を漏らしていました。その時はどういう意味なのかはっきりとわからなかったのですが、この映画をみて少し腑に落ちたような感覚がありました。香りは記憶の記録装置であり、感情的で、一人一人のアイデンティティなんだと考えさせられる良質なドキュメンタリーでした。


Brewing with…
あの人のコーヒーレシピ 

 

齊木 龍一郎
aka チャッピー

AND COFFEE ROASTERSのお客として通い、その後スタッフとなり7年目のバリスタ。趣味は映画鑑賞、カメラ。最近は北野武監督の初期作品から見返してます。

セットアップ:

抽出器具:HARIO V60
豆量:15g
湯量:240g
挽き目:中挽き
湯温:88℃-92℃(深煎り-浅煎り)
抽出時間:2:20-2:40

手順:

  1. ペーパーをリンスし、ドリッパーにコーヒー粉をセット
  2. お湯30gを注ぎ、30秒蒸らす
  3. 0:30-0:40 60g注ぐ
  4. 1:00-1:15 70g注ぐ
  5. 1:40-1:55 80g注ぐ

コメント:

▷ ドリッパー内のお湯が落ちきったら、お気に入りのカップに注いで完成です。 深煎りの豆は湯温を少し下げることでクリーンな味わいになります。

 気張らずに目の前のコーヒーを味わって楽しみましょう。


 

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今週の The Weekend Brew は Standart Japan 第16号スポンサーの TYPICA、パートナーの Victoria Arduino x トーエイ工業セラード珈琲カラベラコーヒーのサポートでお届けしました。

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Standart Japan
(執筆・編集:Takaya & Atsushi)