今週Instagramでご報告しましたが、Standartはこの8月に、コーヒー雑誌として世界で初めてClimate Neutral(クライメイト・ニュートラル)認証を受けました。クライメイト・ニュートラルは、低炭素社会への移行を加速させるために、二酸化炭素排出量の測定、削減、相殺(オフセット)を行う企業をサポートするNPO団体です。紙媒体を発行する出版社で同認証を受けているのは、世界でもStandartと他数社しかありません。私たちは雑誌の印刷から配送までに発生した二酸化炭素などの温室効果ガス出量を測定してオフセットすることで、100%カーボンニュートラルを達成しました。オフセットにあたっては、ミャンマーのマングローブの再生やブラジルと中国の森林再生・保護に取り組む国際的に認定された気候保護プロジェクトを支援しています。
最新号の裏表紙に追加されたロゴを見て気づいた人もいるかもしれませんが、今号より「FSC認証」(持続可能な森林活用・保全を目的として誕生した、適切な森林管理を認証する国際的な制度)を受けた木材を使った紙を採用しています。FSC認証を通じて適切な森林管理を行う林業者や地域を支援し、その生産品を原材料として使う企業や事業者を支持することになり、世界全体の森林保全へとつながります。
Standartが創刊して6年(日本語版は4年)。これまでずっと挑戦したいと考えていたことをようやく形にすることができました。これはすべて、日頃からStandartを応援してくださるコーヒー業界の方々や読者の皆さん、スポンサー、そしてコーヒーラバーの皆さんのおかげです。私たちを信じてサポートしてくださっていることを本当にありがたく思っています。
その一方で、認証取得はゴールではなく始まりだと考えています。これからもクライメイト・ニュートラル認証を取得する道のりで学んだことを活かしつつ、環境への影響を最小化しながらStandartを発行しつづけていくことが、コーヒー業界の発展につながるのだと信じています。
Standartが、クライメイト・ニュートラル認証を取得しようと考えた理由や、認証取得までのプロセスについて、ブログで詳しくご紹介しているので、ぜひ読んでもらえると嬉しいです。
それでは今週も良い週末を。
編集長 Toshi
This Week in Coffee
世界のコーヒーニュース
カフェイン由来のハニープロセス
カフェインによる覚醒効果は人間だけのものではないのかもしれません。The Guardianのこちらの記事によると、なんとカフェインを与えられミツバチが、通常より活発な受粉活動を行うことが分かったのだそうです。
今回の研究では、はじめにカフェインと砂糖、そしてミツバチに見つけてもらいたいターゲットの花(実験ではイチゴの花)の香り成分をブレンドし、実験対象となるミツバチの巣の中に漂わせました。その後、研究室内にターゲットの花の香りと、対照群として柑橘系の香りを付着させた造花を用意してミツバチを放ち、その後の行動パターンを調査しました。その結果、多くのミツバチが 巣の中に充満していたターゲットの香りがする造花に、はるかに大きな興味を示したそうです。またミツバチの寿命への影響はなかったことから、有毒性はないとされています。近年ミツバチや蝶のような野生の「花粉の運び手」の減少を背景に、農地にミツバチの巣を意図的に設置するフルーツ農家も増える一方で、受粉が行われるまでの不確定要素が多く、効果的な方法とは言い切れませんでした。そんな中今回の研究結果は、より安易で効果的な受粉技術に結びつくとして注目が集まっています。
しかし同時に目を向けたいのは、「花粉の運び手」の減少理由です。同記事やこちらの記事の中では、農薬使用や生息地の喪失に加え、気候危機よる気温上昇がミツバチたちの著しい減少を招いているとの指摘も。さらに栽培目的での過度な養蜂や、特定の作物の受粉活動が優先されることによる生態系への影響も気になります。気候危機という問題へのその場しのぎの対策になるのではなく、生態系全体にポジティブな循環を生むような手段として広がってほしいです。
その他の気になるニュース
▷ Aeropress Inc. がカナダの投資会社Tiny Capitalから大型出資を受けたと発表。出資額は非公開ですが、創業者でエアロプレスの発明者アラン・アドラー氏は出資後も引き続き経営に携わっていくそうです。
▷ ルイヴィトンがリユーザブルカップを発売?と思いきや、実はコーヒーカップ型のショルダーポーチ。間違っても中にコーヒーを注いでしまわないように。ちなみにお値段は日本円で約25万円。
▷ コーヒー器具の開発・販売を行なうVac Coffeeが、新たに生産国で焙煎されたコーヒー豆のサブスクサービスをローンチ。以前のニュースレターでも触れてきたコーヒー生産国での垂直型ビジネスの新たな動きとして注目が集まります。
▷ Kurasuがサイクリングに特化した京都市内のコーヒーマップを販売。嬉しいコーヒーショップ情報に加え、オススメルートや駐輪場案内、自転車レンタル料金の割引も付いてくるのだとか。
▷ 現UFC世界ヘビー級王者のフランシス・ガヌーの強靭さをもってすれば、たとえボディーブローを受けながらでも優雅にコーヒーをすすえてしまう。この映像はさすがにパンチ効きすぎ……いや、効いてないのか。
What We're Drinking
今週のコーヒー
アカアマコーヒーとは、「アカ族」の「お母さん」のコーヒーという意味。タイ北部の少数民族アカ族の村出身のオーナーが自分のお母さんのコーヒーを使ってチェンマイでカフェを開業したのが始まり。完全無農薬、森林農法で山の生態系を守りながら丁寧に高品質なコーヒーを栽培しています。お母さんのコーヒーから始まったアカアマコーヒーは、その美味しさとストーリーにたくさんのファンがつき、今では村のたくさんの家族がコーヒー栽培に夢中。フェアトレードの認証はありませんが、利益も村に直接還元されています。今回のコーヒー豆は、オーナーの奥さんのお父さんが作っているコーヒーです。
生産者:チャーリー
生産地域:タイ チェンライ県 ドイチャーン村(地図)
品種:ティピカ/カティモール
精製方法:アナエロビックハニー
テイスティングノート:レモン、パッションフルーツ、パイナップルジュース
編集長のコメント:
The Weekend Brew no.41以来のタイのコーヒー。タイで焙煎されたものを直送しているそう。最近は、生産国側で焙煎したものを消費国に届けるスタイルのビジネスも増えてきているようですが、より産地に近い現地の人が美味しいと感じるフレーバーを体験できるというのは、ある意味一番産地を感じることができる機会なのかもしれませんね。肝心のコーヒーはというと、豆を挽いた後、そしてお湯を注いだ豆からは、ビールのモルト香のような香りをモワモワと感じます。以前オーストラリアに住んでいた時に、よく訪れていた地元のビールブリュワリーで飲ませてもらった麦汁を思い出しました。フレーバーは、レモンティーを思わせ、鮮やかで奥行きを感じます。口の中にじゅわっと広がるレモンの風味と果実味。酸っぱいわけではなく、甘さを感じる酸味です。桃やプラムのようなニュアンスもかすかに感じ、パッションフルーツも見え隠れ。後味にはモルト感をまた感じ、面白いことにタバコの葉っぱのようなフレーバーのイメージも浮かびました。タイ料理は酸味と甘み、そしてスパイスがうまく調和した料理が多いですが、不思議と何か近いものを感じるコーヒーでした。そしてパッケージデザインがとにかく素晴らしいです。
Artists in Residence
Standartを彩るアーティストたち
アーティスト:三木 ジェイミー ウェブサイト|Instagram
プロフィール:香港出身の元フォトエディター。現在は東京を拠点にコーヒー、アート、旅行、ポートレート、イベントなど幅広い分野でフォトグラファーとして活躍中。写真を通じてコーヒー文化への敬意を表現するとともに、人々の生の感情が発露する瞬間を捉えることに情熱を注ぐ。
最新の掲載記事:Standart Japan第14号「Meet Your Barista: Hitomi Shima」
Inspiration
おすすめの本、映画、音楽、アート
『翻訳できない世界のことば』 エラ・フランシス・サンダース著、前田まゆみ訳
先日奥渋谷のSPBSを訪れた際に偶然出会った一冊。邦題の「翻訳できない」は、原題では「Lost in Translation」。つまり厳密には、「りんご=Apple」のような一対一で英語に翻訳できない言葉を指しています。例えばブラジル・ポルトガル語で「cafuné (カフネ)」は、「愛する人の髪にそっと指をとおすしぐさ」。他にもゲール語で「ウイスキーを一口飲む前に、上唇に感じる妙なムズムズする感じ」を表す「sgriob (スグリーブ)」など、世界中の”翻訳できない” 素敵な言葉たちが紹介されています。そして何より、それらの言葉の背後にある人々の文化的な価値観が感じられ、異なる言語を知るということは、その言語の根底にある文化を学ぶことに他ならないのだと再認識しました。ちなみにスウェーデン語で「Tretår (トレートール)」は、「三杯目の(コーヒーの)おかわり」を意味するそうで、Fikaでお馴染みのスウェーデン人のコーヒー好きが伺えて、思わずにやけてしまいます。
近年、「かわいい」や「エモい」といった包括的な表現を耳にする機会が増えました。もちろんそういった言葉の利便性は言うまでもありません。しかし同時に、自分自身の感情と深く向き合うことが、わずかな心の揺れを、丁寧に、そして少しずつ読み解いていくことに通ずるのではないでしょうか。こうして日々の暮らしの中で、意識的に言葉を選び、そして丁寧に紡いでいくことで、自己理解も深まる気がします。ふと昔の日記を読み返していると、長い間忘れていた感情や記憶が鮮明に思い出されることがありますが、今思うとそれは過去の自分の言葉が今の自分に語りかけてきた瞬間なのかもしれません。いつの日か訪れる再会に思いを馳せながら、これからも日々の思いの丈を、自分の言葉で書き留めていきたいなと改めて強く感じます。
Brewing with…
あの人のコーヒーレシピ
柴田 悠平 aka ガルテンビ
エチオピアを行ったり来たりしてコーヒー生豆のクオリティを現地で向上し、日本で販売しています!白ティシャツにハマり中。
セットアップ:
抽出器具:HARIO V60
豆量:13g
湯量:200ml 程度
挽き目:中粗(BONMAC BM-250N ミルの設定は5)
湯温:90度(沸騰したお湯を一度ケトルに入れ替える)
抽出時間:1分30秒
手順:
- ケトル、サーバーにお湯を注いで温めてから、ケトルにお湯を入れる
- 挽いたコーヒー粉をセットし、滴らない程度のお湯を注いでからタイマースタート。30秒蒸らす
- タイマーが60秒になる時に、抽出されたコーヒーの液量が30g※になるように、ゆっくり注ぐ
- 注ぐ量を増やし、1分半で抽出されたコーヒーの液量が180g※になるように注ぐ
- サーバー内のコーヒーをかき混ぜて出来上がり
※ 抽出に使う湯量ではなく、コーヒーの抽出液量
コメント:
コーヒー生豆屋です! 焙煎によって味がかなり変わるので抽出の仕方は限りなく一定にするようにしています。
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今週の The Weekend Brew は Standart Japan 第16号スポンサーの TYPICA、パートナーの Victoria Arduino x トーエイ工業、セラード珈琲、カラベラコーヒーのサポートでお届けしました。
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Standart Japan
(執筆・編集:Takaya & Atsushi)