#32: 未来への途中

#32: 未来への途中

 おはようございます。今週はどんな一週間でしたか?

今週、銀座蔦屋書店にてKinfolk Japanのオンラインイベントがありました。Kinfolkはインディペンデントマガジンの新たな盛り上がりを世界中で生み出すきっかけとなった雑誌のひとつで、2011年の創刊以来、さまざまな雑誌や出版社のクリエイティブに影響を与えています。私自身もその世界観に影響を受けた1人。日本語版の編集長である圓角航太さんのお話を聞ける貴重なイベントということで迷わず申し込みました。

海外で生まれた雑誌の日本語版をつくるという意味ではStandart Japanと共通点も多く、学びの多い時間になったわけですが、お話の中で強く印象に残ったのは雑誌の創刊ストーリーでした。人との繋がりがきっかけを作り、行動することで一歩前進し、情熱に身を任せ、不安と時に湧いてくる根拠のない自信とを行ったり来たりしながら、目の前にあることに全力を注ぐ。どんな雑誌や新しい事業全般にも言えることかもしれませんが、始まりはいつもどこかドラマチックでグッと来るものがあります。この3月で4周年を迎えるStandart Japanですが、初心を忘れないようにと改めて感じる機会になりました。

それから今週はInsatgram上で、コーヒー豆のプレゼント企画を実施しまし。最新号の記事「ボスでいるということ」に登場したベルリンの老舗ロースターThe BarnのオーナーRalfさんよりいただいたコーヒー豆をゲットした皆さん、おめでとうございます! 残念ながら今回は当選を逃してしまった方や、そもそもそんなのやってたの知らなかったよという方は、今後もSNSやニュースレターを通じてこういった企画を実施するので、ぜひ楽しみにしていてくださいね。The Barnが始めたレアな豆が手に入る新しいサブスクも要チェックですよ〜!

編集長 Toshi

 

This Week in Coffee 
世界のコーヒーニュース

種をまく人々

ニカラグアのコーヒー生産地域で、質の高い教育へのアクセス向上を目指す公益財団法人Seeds for Progress。同団体は先日、コーヒー生豆企業Mercon Coffee Groupと連携し、児童労働防止へのイニシアチブ「Cultivating Education Program」の新たな拠点開設を発表。今年中には合計6つの拠点が開設される予定で、今後約400人以上の子どもたちの受け入れが可能となるのだそう。

同プログラムの最大の特徴は、コーヒー収穫期のピッカー家庭の子どもたちに向けて、食事・健康サービスを含む無料の教育機会の提供を行うという点。コーヒー栽培において特に人手が必要となる収穫期は、児童労働を含むサステイナビリティへのリスクが高まり、昨年は大手スターバックスやネスプレッソのサプライチェーン内で、13歳以下の子どもたちがピッカーとして働いていたとの調査結果が報告されました教育が貧困から抜け出す手段である一方で、世代間の経済格差を背景とした教育機会の不平等が問題視される中、同プログラムのような児童労働への構造的なアプローチに大きな意義を感じます。

そして改めて、生産国の抱える社会問題に長期的な視点から取り組む姿勢が問われています。コーヒーの生産額の増加は、富裕層の子どもたちには影響がない一方、中所得・貧困層の子どもたちの労働・退学率の増加をもたらすという調査結果が示すように、 生産国の「経済的成長」という指標が、必ずしも教育機会の創出や貧困問題の解決を意味するわけではありません。本当の意味で生産国の繁栄を考えるとは、短期的なリターンではなく、豊かさが分配されていく継続的な仕組みを築くということなのです。

 

Give and Takeout

先日英国では段階的なロックダウンの緩和方針が発表され、予定だと3月8日から全ての学校が再開、さらに2人であれば公園等の屋外公共スペースでピクニックやコーヒータイムが許可されるとのこと。コーヒーを介した屋外での交流が待ちわびられるところですが、外で飲むコーヒーといえば私たちの知るテイクアウトカップとはどのようにして生まれたのでしょうか。

時は20世紀初頭。南北戦争を機に発展した禁酒運動によって、米国ではビールやリキュールに代わって飲料水を飲む習慣が拡大。しかし伝染病研究が進むに連れ、当時の共用カップによる健康被害が明らかとなり、感染防止を目的に生まれたのが紙カップでした。コーヒー用のカップとしては後に発明されたスチロール製カップがその地位を獲得。その後1964年には、7-Elevenがチェーン店で初めて開始した持ち帰りカップでのコーヒー販売を皮切りに、米国内でコーヒーを持ち歩く文化が浸透しました。しかし環境運動の活発化によって徐々にスチロール製カップはその地位を失い、続く80年代、事業拡大を推進するスターバックスが紙カップとリッドを導入したことで、米国のコーヒー文化は、紙カップと共に新たなテイクアウト時代へと突入したのです。

そして今日では紙カップの環境負荷や健康被害を背景に、マイカップ・マイストローの持参をはじめ、リユーザブルなドリンクウェアへのシフトが起こっています。外出自粛の緩和から今後新たに育まれていくテイクアウトコーヒー文化が、環境負荷削減はもちろん、コミュニティ間の結びつきや人々の笑顔を運んで行く、そんな未来に繋がっていくことを願っています。

 

その他の気になるニュース

▷ コロンビアのスタートアップがコーヒーチャフと再生プラスチックを混合した建築材を開発。低価格、軽量且つ耐久性も兼ね備えた同建材によるプレハブ建築は、昨年のハリケーンイオタの被害地域でも活用されています。

▷ SCAが運営するグローバルロースターコミュニティThe Coffee Roasters Guild(CRG)が19日、インスタグラム上でグアテマラのコーヒー農園を訪れるバーチャルオリジントリップを開催。アーカイブはこちらから

▷ 日本茶の歴史と現代のライフスタイルが融合した沈殿抽出式ティードリッパー「刻音」が誕生。特に茶葉が開く空間設計がコーヒードリッパーとは異なる一方、刻音の奏でる癒しと安らぎの抽出音にはどこか共通するものを感じます。

▷ バングラディシュで政府と研究所の主導の下、コーヒーの商業生産に向けた大規模プロジェクトが進行中。コーヒーの試験栽培自体は既に20年以上も取り組まれており、栽培に適した気候や土壌環境、着実な成果の報告も。

▷ YesとNoの主張は大切ですが、インドのとあるカフェレストランのメニューに示される「あまりに大量のNoリスト」には、人々からも驚きの声が。かつてこの店で何が起こったのか、それを聞くのは今のところNoではなさそう。

 

 

What We're Drinking
今週のコーヒー

 

townsfolk coffee
石川

金沢市のスペシャルティコーヒーショップ。NOZY COFFEE(東京・三宿)、Prolog Coffee Bar(デンマーク・コペンハーゲン) にてバリスタ / ロースターとして経験を積み、2020年7月にオープン。日本とデンマーク、両方のコーヒーカルチャーの良さを取り入れながら、美味しいコーヒーを届けてくれている。

生産者:
サンチュアリオ農園 カミーロ・メリサルデ

生産地域:
コロンビア カウカ県ポパヤン (地図

品種:
ティピカ

精製方法:
ウォッシュト

テイスティングノート:
マンダリンオレンジ、スムースマウスフィール

編集長のコメント:

香りとフレーバーがピッタリ合致する体験というのは、なかなか出会えなかったりするんですが、今回のコーヒーはまさにドンピシャでした。お湯を注いだ時からその周りの空間を支配するように広がっていくアロマ。鼻から入ってきた香りが記憶として鮮明に映し出してくれたのは、鍋一杯の煮詰まり始めた苺とそこに絞り入れようとするレモンを鷲掴みにする様子でした。じわっと口の中に唾液の湿りを感じ、期待値高めで一口啜ると、口の中で解けていくように広がったのはまさしくその苺とレモンのフレーバー。半ば仰け反りながら声にならない声をもらし、喜びに震えました。フローラルな蜂蜜っぽさや、ぽんかんのような甘い柑橘も、温度の変化で楽しめました。


Inspiration
おすすめの本、映画、音楽、アート

Kissa by Kissa
Link

ライター、フォトグラファー、そして「ウォーカー」として活躍するCraig Modさんの本。日本で20年以上過ごしてきた彼は、学生として初めて来日したとき寿司や納豆はおろか、ラーメンさえ苦手だったと言います。そんなCraigさんが母国アメリカと日本の架け橋のように感じた食べ物がピザトーストだったそう。この本には日本中を歩きながら文章を書き、写真を撮り、喫茶店でピザトーストを食べてきた彼の道筋が記録されています。ところで彼が「ウォーカー」になったのは、ある講義がきっかけだったそうです。歩くという行為は他の交通手段と違ってその場所の文化や人々と、ある種強制的に関わりを持つことになる。だから自分が知っていると思っていたことのメッキがはがれ、本当の意味で自分が住む場所や、そこに根付いているものについて知ることができるのだとCraigさんは言います。遠出しづらい状況の中、つい意識が外へと向いてしまいがちですが、今こそ近所を歩くことでこれまで気づかなかったこと、知っていると思っていたものの意外な一面が見えてくるかもしれません。


Brewing with…
あの人のコーヒーレシピ 

 

千々木 大介

愛媛県今治市、大島(しまなみ海道)の自家焙煎コーヒーと本の店、「こりおり舎」のコーヒー焙煎師。 会社員時代にコーヒー屋を目指すべくカフェに転職。転職先のカフェで修行した後に移住。 テントでの露店営業、キッチンカーでの移動販売を経て2020年4月に夫婦で開業。 移住後、我が家に迎えた保護猫3匹に毎日夢中。

セットアップ:
抽出器具:HARIO V60(プラスチック)
豆量:24g
湯量:投入量330g(※抽出量は240g)
挽き目:中挽き〜中粗引き
抽出温度:85〜88℃
抽出時間:2:00〜2:20


手順:

  1. ケトル内にお湯が用意できたらカップに注ぎ、カップとケトルの注ぎ口を温める。ペーパーリンスは無し
  2. 1投目30g注ぐ。粉にお湯を載せるイメージで優しく。30〜40秒蒸らす。粉が膨らみきり、ぽつぽつと穴ができてきた時が2投目開始のタイミング
  3. 2投目170g注ぐ(計200g)
  4. サーバーの1つ目の目盛(120ccの方)まで抽出液が溜まったら、3投目70g注ぐ(計270g)
  5. ドリッパー内のお湯が凹んだら4投目60g注ぐ(計330g)

      ポイント:
      豆の種類や焙煎度によって、湯温と挽き具合は都度調整します。 遅くても2:30までに抽出が完了するように。

      一言:
      昨年4月、珈琲屋も本屋も無い瀬戸内の島にお店を開業しました。 焙煎したてのフレッシュな豆と、想いを込めてセレクトした本を届けています。 地元の人、旅人、観光の人など、さまざまな人が交差し、交流するお店を目指しています。 コーヒーはとても自由な飲み物です。 コーヒーが生み出す多様性をぜひ島でも体験してほしいと思いながら毎日豆を焙煎し、コーヒーを淹れています。


       

      今週の The Weekend Brew はいかがでしたか?

      第15号が続々と皆さんのお手元に届く中、COFFEE ARCHIVEというYouTubeチャンネルを運営されている方が、動画でレビューを公開してくれていました! MAMEのサンプルコーヒーを飲みながらStandartについて語ってくれていて、チルな雰囲気が最高です。

      バックナンバーを含め、The Weekend Brewの感想やコメントはぜひ #standartjapan のハッシュタグと共にシェアをお願いします! 質問はメールでお待ちしております。またお友達やご家族など、The Weekend Brew を一緒に楽しんでもらえそうな方にこのメールを転送していただけると嬉しいです。

      Standart JapanのウェブサイトInstagramFacebookもぜひチェックしてみてくださいね。

      今週の The Weekend Brew は Standart Japan 第15号スポンサーの 兼松株式会社、パートナーの Victoria Arduino x トーエイ工業Paradise Coffee RoastersPrana ChaiTypicaのサポートでお届けしました。

      LOVE & COFFEE✌️
      Standart Japan 
      (執筆・編集:Takaya & Atsushi)