おはようございます。今週はどんな一週間でしたか?
今週は、以前Standart Japanの記事の撮影などでお世話になったAtsushi Tannoさんの、福岡で開催されている Solo Exhibition "偶然の蓄積 無限の片隅"に行ってきました。最近こういった感性を揺さぶられるような空間にあまり行けていなかったので、大いに刺激になりインスピレーションをもらいました。
Tannoさんの作品で構成されたStandart Japan 11号のフォトエッセー「他視点と多視点」では、コーヒーから浮かび上がる情景と情景から浮かび上がるコーヒーを表現していただいたのですが、あの作品からも見て取れるようにTannoさんの作品はテクスチャーを感じるものが多くあります。滑らかなものだったり、幾何学的でざらざらしたものだったり、ツルツルしていたり。そして写真の被写体や撮影状況などの説明を伺ってからまた作品に目をやると、視覚から入ってくる情報が音に紐づいたり、言葉に紐づいていたりして、最新号の記事「香りを味わう」に出てきたクロスモーダル現象のような体験に変わる楽しみも感じられました。
作品のフレームやキャンバスなどの素材や形にも、写真に映る被写体のテクスチャーや構図が反映されていたり、これまで撮り溜めた撮影された時代が違う写真同士を組み合わせて配置することで一つの作品に落とし込んでいる様子は、フレーム内や展示空間全体で表現するいわばグラフィックデザインのようでした。「写真自体に意味はない」とTannoさんはおっしゃっていましたが、その意味のない写真同士を組み合わせていくことで意味を持たせていて、ただの写真展とは違う発見や楽しみ方があるなと感じました。エキシビジョンは今日までなので、ご都合の会う方はぜひ。
今週のStandart Japanは、10月に開催されるSCAJ2022の準備や次号の制作を進めていました。SCAJでは、今年もCoffee Villageのビジュアルを担当させてもらっていて、Villageにも出店するのでぜひ遊びにきてくださいね! また日にちが近くなってきたらご案内します。
それでは今週も良い週末を。
編集長 Toshi
This Week in Coffee
世界のコーヒーニュース
誰もがうらやむ称号
パプアニューギニア首相に再選したジェームズ・マラぺ氏が、先日新たな内閣人事を発表。英国ガーディアン紙は、この度(おそらく)世界初となる「コーヒー大臣」が任命された報じています。マラペ氏は同国のニ大農産物であるコーヒーとパーム油のそれぞれに特化した大臣を配置することで、農業のさらなる発展を目指すそうです。
近年パプアニューギニア産コーヒーの需要は、オーストラリア、米国、日本のカフェを中心に増加傾向にあることから、政府は国内コーヒー産業の再建、および輸出収入の拡大に乗り出したようです。現在パプアニューギニアの年間コーヒー生産量のうち、約85%を農村地帯に住む小規模農家が担っており、コーヒーを収入源とする国民は約200万人(人口の約4分の1)。今回の政策転換が小規模農家の支援に繋がる可能性に期待が高まる一方、国民の多くが自給自足生活を送る現状を踏まえると、商業的農業の拡大がもたらす国民生活への影響について、慎重に考える必要があります。さらにパーム油生産に起因する環境破壊や人権問題についての批判も軽視できません。
同国の今後の方針・施策について、引き続きニュースレターを通じて追っていきたいと思います。そして、同時にどうしても気になるのは、コーヒー大臣のコーヒー事情ですよね。
気になるニュース
▷ 5月にロシアからの撤退を発表したスターバックスの元店舗で、新たにロシア資本のコーヒーショップ「スターズコーヒー」がオープン。ラッパーとレストラン経営者が立ち上げたの同ブランドのロゴは……どこかで見たことがありますね。
▷ ニュースレター#67で扱った、大手チェーン・プレタマンジェ(Pret A Manager)の売上データから見る主要都市の経済分析が、最新版にアップデート。今年7月14日時点で、ロンドンのヒースロー空港の売上がパンデミック前から40%増加していることからも、旅行・出張需要の増大がうかがえます。
▷ 「循環経済を実現する蒸留プラットフォーム」を目指すエシカル・スピリッツが、2億円の資金調達を発表。コーヒーの出がらしからできたクラフトジンが主力商品の一つで、今年6月には東京・大手町にコーヒー&ジンスタンドをオープンしました。
▷ 焙煎機メーカー・プロバットのPシリーズに、全電気式の1kg焙煎機「P01」が登場。先日ウェブ上で行われたプレスイベントでは、デパートメント・オブ・ブリュオロジーの手がけた限定デザインが公開されました。
▷ モカマスターとシュプリームのコラボモデルがドロップ予定。こちらの”Supreme価格”は、一体おいくらなのでしょうか。 (ちなみに通常モデルの日本での価格は6万円弱)
物足りないあなたへ
非営利団グリッター・キャット・バリスタ(Gillter Cat Barista)が、約2年ぶりにBarista Bootcampをオフラインで開催予定。アサヒホールディングスが、東南アジアでミルク系RTD飲料ビジネスの拡大へ。コーヒー好きで有名な千葉ロッテ・荻野外野手の1000本安打を記念して、オリジナルブレンドコーヒーが発売されました。
What We're Drinking
今週のコーヒー
MOOD coffee&espresso 茨城(地図)
茨城県水戸市南町に2021年11月オープン。地域に溶け込む小さなコーヒーロースターとして、コーヒーを通し、ゆったりとした時間や、日常の流れにフォーカスをあてた『雰囲気』を提供いたします。MOODのテイストに合わせた穏やかな印象のスペシャルティコーヒーと落ち着いた空間をご用意しております。人それぞれの、日常使いされるお店として存在し続けていきます。また、MOODのフィルターを通したスペシャルティコーヒーは店舗、オンラインストアでも販売しております。
生産者: マルティン グティエレス氏 ガンボア農園
生産地域:コスタリカ サン・ホセ州ドタ郡サンタマリア(タラス地区)(地図)
品種:カトゥーラ
精製方法:ブラックハニー
テイスティングノート:オレンジ/青リンゴ/ハチミツ/シルキー
編集長のコメント:
個人的に結構好きな味わいのコーヒーに出会うことの多いコスタリカ。久しぶりの登場でした。ようやく先週からの体調不良から解放されて鼻も通るようになった状態で嗅ぐコーヒーの香りは、鼻腔のてっぺんまですすすーっと入って直撃するようなインパクトを感じます。焼きたてのオーツクッキーのような甘さを感じる香りがたまりません。これこれ、いいね! スプーンの中でゆらゆらと輝くコーヒーを啜ると、口に入った瞬間から感じるジューシーさと甘さにうっとりします。青リンゴがしっかりと感じ取れ、口いっぱいに広がります。かすかに甘さのある柑橘の味わいも。こんなに甘く感じるのかと思うほどに、終始柔らかい甘さが口の中を優しく包んでくれて、テクスチャーも少しとろりとしているからか全体的に軽すぎない程よいボディを感じます。まるで低反発のクッションのような、柔らかいんだけど、力強さや包み込む包容力を感じる印象。ずっと口の中を抱きしめられていたい。アプリコットのような少しパフュームっぽい香りが口の中にとどまっているのも面白いなと思いました。あぁ〜美味しいコーヒーだなぁ、と思いながらテイスティングノートを見るとほぼそのまま書かれているコーヒー体験をしたことがわかり、このコーヒーを全力で楽しめたんだとうれしくなりました。何度でも飲みたくなるコーヒーでした。ごちそうさまでした!
Artists in Residence
Standartを彩るアーティストたち
アーティスト:
アーノルド・ビュン Instagram|ウェブサイト
プロフィール:
過去にニューヨーク大学コーヒークラブを創設し、現在はL.A.を拠点にコミュニティビルダー兼起業家として活動。10年以上に渡るホスピタリティ業界での経験を生かして、最新のホスピタリティ情報についてのコラム執筆を行う。
最新の掲載記事:
Standart Japan 第21号「ホスピタリティ最前線:奇奇怪怪」
Inspiration
おすすめの本、映画、音楽、アート
『わたしたちの登る丘』
帰省の度に立ち寄っている、神戸・本町の本屋「1003」で購入した一冊。同書は22歳の詩人アマンダ・ゴーマン氏が、米国・バイデン大統領就任式で朗読した詩の全訳です。詩の原文(英語)が対訳として掲載されているほか、今回翻訳を担当した鴻巣友季子氏と小説家・柴崎友香氏の対談も収録されています。
まずこの対談が非常に面白く、詩の一節とアメリカ合衆国憲法の全文の関係に始まり、米国におけるスポークン・ワードの潮流、アマンダ・ゴーマン氏と大統領婦人ジル・バイデン氏の交流など、この詩を取り巻く環境についての詳細は興味深いです。一つ一つの言葉の背景にある真意と、その言葉たちが何百年に渡って過去の先人たちから紡がれてきたという歴史を知るにつれ、詩から溢れ出す「言葉」の可能性を感じずにはいられませんでした。
また「訳者あとがき」の中でも言及されている、この作品の翻訳をめぐる国際的な騒動は、かねてから興味のあったトピックでした。その要点は、この詩の翻訳 (代弁者)の資格を誰が持つのか、ということ。実はゴーマン氏が、同じ若き書き手へのエールの意味も込めて指名した翻訳者 (詩作を発表したことがない白人)が、原作者との経験・属性の違いから批判を浴びて降板していたのです。鴻巣氏は、詩が文字表現だけでなく、米国で浸透する「スポークン・ワード」、つまり口承芸術として特色を強く帯びていることとの関連性を指摘しており、ハッとしました。翻訳を巡る複雑な政治性については、今後もチェックしていきたいトピックの一つです。
Brewing with…
あの人のコーヒーレシピ
今村 詩織 aka SORI
東京を拠点にSSW・SORIとして音楽活動、ライブ活動をしながらCOFFEE SUPREME JAPANでバリスタとしても働いています。
自分の中のテーマは”音楽とコーヒー” 私の人生には欠かせない2つです。
5 questions
今気になっている問いは?
「朝にコーヒーを飲む理由」
私は朝お店に立つことが多いのですが、朝から毎日コーヒーを飲みにきてくれる方、今日はここのコーヒーを飲もう!と目的地にしてきてくれる方。たまたま通りがかった方。ワンちゃんのお散歩の帰りの方。色々な方がいらっしゃいます。
この方はどんな理由で朝にコーヒーを飲みにきてくれたんだろう? お仕事に行く前の一息だったり、はたまた気合いの一杯だったり、お散歩の休憩にだったり、、、?
お気に入りの場所は?
「実家のダイニングテーブル」
私がコーヒーに触れるきっかけとなったのは朝必ずコーヒーを飲む母を見て、コーヒーを淹れてあげたい!と思ったことからでした。まだ小さかったので当時はインスタントコーヒーでしたが、次第に自分でも飲むようになり、小さいながらに色々工夫して淹れていたのを覚えています。よく休みの日に母とダイニングテーブルを囲いコーヒータイムをしていました。いい思い出です。
譲れないこだわりは?
「1日の中で数分でいいので周りの音に耳を澄ます事」
普段の生活の中で音楽を聴いている時間が一番多いです。ですが、帰り道や休憩時間など空いた時間で鳥、虫の鳴き声や 風の音、車の音、人の話し声など周りの音に耳を向けると気持ちのリセットになるのでほんの数分でもやるようにしています。
今誰と一緒にコーヒーを飲みたい?
東京に上京してきた時、友達5人で狭い部屋にシェアハウスしていたんです。今でも仲良くコーヒーを飲む事が多いのですが、各々仕事もあり、なかなか5人揃うことがないので 当時のようにゆっくり話をしながらコーヒーが飲みたいです。
最近のやらかしエピソードを教えてください。
自分でカップに用意したエスプレッソをマシンの上に置いていたのを忘れていて不意に手にとってしまい全部自分にかかりました。服も髪もエスプレッソまみれだったし、落としたてで物凄く熱かったし忙しい時間帯だったのでお客様にも見られてしまい物凄くはずかしかったです。笑
Fancy a refill?
編集後記
ちょうど初期パンデミック渦だった関係で、当時自分の通っていた大学の卒業式はキャンセルに。その名残もあってか、今でも自分の中に「社会人」という明確な自覚、学生からの”区切り”の実感がありません。代わりに、「そもそも卒業した瞬間、これまでの学び関係無しに利益に繋がる知識しか求められなくなる社会っておかしすぎないか?」と皮肉を口にする回数が急激に増えた気がします (最近『ホモ・エコノミクス -「利己的人間」の思想史- 』を読んでるのも、後押ししているのかもしれません)。
話は逸れましたが、先日院進のために渡米する友人を空港に見送りに行った時も、別れの感覚があまりなかったんですよね。単に自分が鈍感なだけかもしれませんが、「新たなスタート」よりも自覚が先立つことはないだろうし、まずは行動を大切にしていきたいなと思いながら帰路につきました。考えに耽ていたら、電車の乗り降りを3回も間違えましたが。
Takaya
今週の The Weekend Brew はいかがでしたか?
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今週の The Weekend Brew は Standart Japan 第21号スポンサーのTYPICA、パートナーの Victoria Arduino x トーエイ工業、FAEMA x DKSH、Swiss Water、ブルートーカイコーヒーのサポートでお届けしました。
LOVE & COFFEE✌️
Standart Japan
(執筆・編集:Takaya & Atsushi)