ブラジルから、その先へ。セラード珈琲が見据える「次のフロンティア」

ブラジルから、その先へ。セラード珈琲が見据える「次のフロンティア」

ブラジル・セラード地域の開拓をルーツに持ち、日本へ高品質なコーヒーを届け続けてきたセラード珈琲。 ブラジル産コーヒーの魅力や、同社が開催する 焙煎大会「トーハ・ド・ジャポン」、 創業の背景や産地との関係づくりについては、これまでStandartでも紹介してきました。

今回は少し視点を変え、創業からまもなく40年を迎える同社が見据える次の挑戦について伺います。日系ブラジル人の新入社員を迎えたことの意味、新たな産地での取り組み、そしてセラード珈琲が考える“次のフロンティア”とは何なのでしょうか。

同社の代表取締役CEOである横山健二さんや、新入社員として同社に加わった間野ホドリゴ秀紀さんと粟田カミラ恵美利さんにお話を伺いました。


Q. セラード珈琲は1980年代、ブラジル・セラードの開拓から始まったと伺っています。当時の「フロンティア」としての挑戦は、現在の事業や価値観にどのように受け継がれているのでしょうか?

開拓当初から40年以上が経ちましたが、セラード珈琲の買い付けに対するスタンスは今も変わっていません。私たちは輸出会社任せにせず、必ず農園を訪れ、生産者と直接コミュニケーションを取ります。品質への情熱はもちろんですが、農園の立地やウェットミルの設備、ドライミル工程までの距離、さらには家族構成まで見るべきポイントは多岐にわたります。

また、栽培についても農学博士や農業技師と意見交換を重ねながら、不可能だと思われていることを可能にするための方法を探り続けています。常にさまざまな課題と隣り合わせの生産国では、「できない」で終わるのではなく、「じゃあどうする?」と考えることが大切です。この姿勢こそが、創業当時から受け継がれている価値観だと思います。


Q. 今回、日系ブラジル人の新入社員が加わったことは、創業時から続く“ブラジルとの関係性”の中で、どのような意味を持つと感じていますか? 単なる人材採用にとどまらず、生産者や現地との関係性にどのような変化をもたらすと考えていますか?

私自身、20代で入社した頃はブラジルの文化にかなり翻弄されました。日本とブラジルでは、問題が起きた時の向き合い方やコミュニケーションの取り方に違いがあり、若い頃は戸惑うことも少なくありませんでした。例えば日本では、まず状況を説明したり謝罪したりした上で解決策を考える場面が多い一方で、ブラジルでは「まずどう解決するか」を優先して話が進むこともあります。

また、コーヒー相場が大きく変動する中では、取引に対する考え方にも違いがあります。若い頃の私は、生産者との関係づくりの中で、その感覚をなかなか理解できませんでした。相場が安い時には積極的にコミュニケーションが取れていても、市場環境が変わると状況も大きく変わります。当時はそれを「約束が守られない」と受け取ってしまうこともありましたが、生産者の立場や経営環境を理解するにつれ、単純な善悪ではなく、それぞれの事情や判断があることを学びました。

そうした経験があるからこそ、日系ブラジル人の存在は非常に大きいと感じています。両国の文化や価値観を理解し、時には通訳以上の役割として互いの考えを橋渡ししてくれるからです。以前であれば生じていたようなボタンの掛け違いも減っていくはずです。関係性が築かれると、ブラジルの人々のタフさや行動力、日本人の丁寧さや継続力など、それぞれの強みが活きてきます。実際に私たちも、異なる文化的背景を持つメンバーが協力することで、より柔軟で創造的な組織になれることを実感してきました。だからこそ、日系ブラジル人はセラード珈琲にとって欠かせない存在なのだと考えています。

 


Q. 新たにセラード珈琲に加わったお二人にご質問です。ご自身のバックグラウンドと、実際に働き始めて感じたことを教えてください。

(粟田カミラ恵美利さん) 私は日本生まれですが、小学校から高校までをブラジルで過ごしました。そのため、日本とブラジルの両方の文化に深く関わってきました。入社前は、ポルトガル語の翻訳や事務作業が中心の仕事になるのではないかと想像していました。しかし実際には、ブラジルへ行ってコーヒーについて学ぶ機会をいただいたり、新商品の企画に携わったりと、想像以上に活動的で、毎日とても楽しく仕事に取り組んでいます。

(間野ホドリゴ秀紀さん)私はブラジル生まれですが、5歳までは日本で過ごし、その後ブラジルへ戻りました。大学ではサンパウロ大学で農学を学びました。入社後は、自分のバックグラウンドと仕事が非常に深く結びついていることを実感しています。初めてのブラジル出張では農園を訪問し、生産者やコンサルタントの方々と交流しながら、生産現場のさまざまな側面に触れることができました。また、自分が学んできた農学の知識が実際のプロジェクトに活かされている場面を見ることができ、とても印象に残っています。

Q. お二人は、日本とブラジル両方の文化に触れてきた中で、コーヒーに対する価値観や産地との向き合い方の違いをどのように感じていますか?

(粟田カミラ恵美利さん& 間野ホドリゴ秀紀さん)私たちは、日本とブラジルではコーヒーに対する価値観にまだ大きな違いがあると感じています。ブラジルではコーヒーは日常生活に欠かせない飲み物で、家族や職場で気軽に飲まれています。朝に砂糖を入れた深煎りのコーヒーを飲んで一日を始める文化も広く根付いており、どちらかというと生活の一部として親しまれています。一方、日本では香りや風味、口当たり、抽出方法など、一杯ごとの繊細な違いを楽しむ文化があり、コーヒーは嗜好品として深く愛されていると感じます。

近年はブラジルでもスペシャルティコーヒーへの関心が高まり、品質や風味を重視する消費者が少しずつ増えてきています。また、生産者の方々もこうした市場ごとの違いを理解しながら、品質向上や生産改善に日々取り組まれています。私たち自身も、それぞれのバックグラウンドを活かしながら、コーヒーを通じてブラジルと日本をつなぐ役割を担っていきたいと考えています。そして、ブラジルの美味しいコーヒーをこれからも多くの方に届けていきたいです。


Q. 中南米やアフリカ、さらには沖縄での取り組みなど、近年セラード珈琲の活動領域は大きく広がっていると思います。こうした新たな産地での取り組みには、どのような背景や狙いがあるのでしょうか? また、ブラジルで培ってきた知見や、生産者との関係構築の方法はどのように活かされていますか?

元生産者だからこそ、生産者が抱える悩みや現場の課題を理解できるのは大きな強みです。農園の立地やインフラ、資金繰りといった背景まで見ることで、その農園が抱えている課題や、将来的にどのような生産が可能なのかを見極めることができます。

そのため、単に目の前の品質だけで農園を評価するのではなく、生産者が抱える事情まで理解したうえで、長く付き合っていける相手を見つけることができます。良いコーヒーを買い付けるだけであれば、今の時代は資金や情報、語学力があれば誰でもできるかもしれません。しかし、生産者と継続的な関係を築きながら取引を続けることは決して簡単ではありません。

生産国では、自然環境の変化だけでなく、インフラや政治、経済状況などさまざまな要因がコーヒー生産に影響します。だからこそ、元生産者として相手の立場や悩みを理解した上で買い付けを行うことが、生産者との信頼関係につながります。生産者が安心してコーヒー栽培に取り組める環境づくりを支えることも、私たちの重要な役割だと考えています。

また、消費国で販売されるコーヒーの多くはブレンドです。ブラジルだけで高品質なコーヒーを安定供給できたとしても、それだけでは十分ではありません。中南米やアフリカなど、ブラジル以外の産地へ取り組みを広げてきた背景には、安定したブレンドコーヒーを継続的に提供したいという目的もあります。

そして、沖縄で進めている国産コーヒープロジェクトは、約40年にわたって産地と向き合い続けてきた経験の集大成とも言える取り組みです。いつかメイド・イン・ジャパンの生豆を海外へ輸出することが、私たちの夢のひとつですね。

 

Q. 創業からまもなく40年。セラード珈琲が切り拓く次のフロンティアとは何でしょうか?

もともとブラジル中部のセラード地域では、人口増加による食糧危機を背景に、日本とブラジルの協力による農業開発が進められました。大豆やトウモロコシなどの栽培にも取り組む中で、コーヒーの輸出が成功したことが、現在の私たちの事業につながっています。

現在、私たちは日本で生豆や焙煎豆を販売していますが、その根底にあるのは「生産者の代理」という精神です。単に生産者からコーヒーを買い付けて日本で販売するのではなく、生産者側の視点に立ち、そのコーヒーが消費国でどのように評価され、どのように届けられるのかまで考える。そうした姿勢を大切にしています。

これまでコーヒーを中心に取り組んできましたが、コーヒーの生産国ではカカオなど、同じように栽培されている作物もあります。今後は、そうしたものにも取り組んでいくのは面白いと考えています。

元生産者だからこそ持てる生産国側の視点を活かし、生産者の立場に立った、私たちなりのフェアなトレードという取り組みを多くの生産国へ広げていくことが、これからの新しいフロンティアだと思っています。

 

Q. この春(2026年)オープンしたカフェスペースには、どのような役割を期待していますか?

1階のカフェスペースは東京の都心らしく約9坪と小規模で、会社の経営を支えるほどの利益を生むものとは考えていません。むしろ重要なのは、これまで生豆商としてロースターを通じてしか得られなかった消費者の声を、直接聞けるようになることです。

生産国の人たちにとって、自分たちが育てたコーヒーがどのように販売され、どのように評価されているのかは大きな関心事です。今後は、消費者から得たフィードバックを産地へ届けることで、よりニーズに合ったコーヒーづくりにつなげていきたいと考えています。

また、以前から開業を目指す方々が相談に来ることも多くありました。現在はセミナールームとして活用できる設備も整えているので、将来開業を考える方々が具体的なイメージを描く場としても役立ててもらえればと思っています。

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セラード珈琲が歩んできた40年近い時間を振り返ると、その先にあるのは「コーヒーを買う」という仕事だけではありません。生産者の側に立って産地を理解し、日本の消費者に届け、そこで得た声を再び産地へ返していく。そうした関係を、国や地域を越えてつくろうとしているように見えます。

ブラジル・セラードから始まった挑戦は、いまや中南米やアフリカ、そして沖縄へと広がっています。日系ブラジル人の新たな仲間を迎え、生産者との関係をさらに深めながら、コーヒーに限らない可能性にも目を向けている。

道のないところに道をつくる。 その歩みの先にある「次のフロンティア」がどのようなものになるのか。セラード珈琲のこれからに、引き続き注目していきたいと思います。


この記事は、Standart Japan第35号のパートナー、セラード珈琲の提供でお届けしました。