ブラジルで見えた、焙煎文化の違い。『トーハ・ド・ジャポン』国際大会を振り返る

ブラジルで見えた、焙煎文化の違い。『トーハ・ド・ジャポン』国際大会を振り返る

日本ではまだ「スペシャルティコーヒー」という言葉さえ浸透していなかった1980年代から、ブラジル産を中心とする中南米産の高品質なコーヒーを日本へ届け続けてきたセラード珈琲。2024年には、焙煎士たちがブラジルで開催される国際大会への切符をかけて競い合う焙煎大会『トーハ・ド・ジャポン ロード・トゥ・ブラジル 2024/2025』を初開催しました。

本記事では、2025年にブラジルで開催された国際大会を振り返りながら、日本大会との違いや現地ならではの競技の雰囲気、国際大会の舞台裏、そして日本代表選手たちの挑戦について伺いました。ブラジルというコーヒー生産国で開催されたからこそ見えてきた、焙煎文化の共通点と違い、さらには国境を越えて生まれた交流をお届けします。

なお、『トーハ・ド・ジャポン』の概要や大会開催の背景については、前回の記事ブラジル産コーヒーの魅力を再発見。セラード珈琲が開催する焙煎大会「トーハ・ド・ジャポン」』もあわせてご覧ください。

 

Q1. 日本大会と比べて、ブラジルでの国際大会はどのような雰囲気や緊張感の違いがありましたか? 観客や会場の空気感も含めて、現地ならではの印象的なシーンがあれば教えてください。

日本大会の決勝は東京・新橋の都心で開催され、会場内は撮影禁止。選手、審査員、補助スタッフのみが立ち会う、閉ざされた空間で競技が行われます。極限の緊張感の中で焙煎に向き合う、日本らしい張り詰めた雰囲気が特徴です。

一方、ブラジル大会の会場は農業試験場内にあり、小鳥のさえずりが聞こえる自然豊かな環境でした。ブラジルの大手テレビ局も取材に入り、多くの見学者が見守る開放的な雰囲気の中で競技が行われました。

会場には、ブラジルで親しまれているチーズパン「ポンデケージョ」やフルーツが並び、選手たちは軽食を楽しみながら競技に臨んでいました。牧歌的でリラックスした空気が流れる一方、日本大会は緊張感に満ちた空間。同じ競技でありながら、両国の国民性が表れたような大会の雰囲気が非常に印象的でした。


Q2. 日本とブラジル、あるいは他国の焙煎士のアプローチにはどのような違いがありましたか? 味づくりや焙煎の考え方、評価基準の差をどう感じましたか? 

日本大会では、1時間の競技時間の中で、ほとんどの選手が1回目をテスト焙煎、2回目を提出用として焙煎を行います。しかし、ブラジル大会では、あるブラジル人選手が1時間の間に6回も焙煎を行っていました。審査員によると、焙煎機の蓄熱性を高めることを狙ったアプローチではないかとのことでした。また、別のブラジル人選手は1回目から高温投入を行うなど、日本大会ではあまり見られない独自の焙煎方法が印象的でした。

一方で、最終的に目指しているカップの方向性については、日本とブラジルで大きな違いは感じられませんでした。どの選手も、クリーンな味わいを実現し、課題豆が持つポテンシャルを最大限に引き出すことを目標としていたように感じます。

 

Q3. 国際大会における評価基準やジャッジのすり合わせはどのように行われたのでしょうか? 国や文化が異なる中で、焙煎の良し悪しを共有する難しさ”は感じましたか? 

大会の約4か月前には、評価方法としてCVA方式を採用することを決定しました。その後、大会1か月前にはブラジルの審査員とオンラインで意見交換を行い、評価基準や大会運営について認識を共有しました。

さらに現地では、選手の練習日に合わせて審査員同士のカリブレーションを実施し、評価基準の最終的なすり合わせを行いました。また、グリーングレーディングについては、生産国であるブラジルの審査員の知見を活かせるよう、適材適所で役割を分担しました。

審査員は日本人2名、ブラジル人6名という構成でしたが、当初懸念していたような評価の対立はほとんどありませんでした。特に優勝者のコーヒーについては、審査員全員が一致して高く評価していたことが印象的でした。

 

Q4. 日本代表としてどのような方たちが参加されたのでしょうか。選手たちは現地でどのような課題や手応えを感じていましたか? また、大会を通じてどのような成長や変化が見られましたか? 

日本代表として出場したのは、第1回大会優勝者である株式会社ヒロコーヒーの石川寧々さんと、有限会社新田珈琲の新田和雄さんです。石川さんは、関西を代表するロースターであるヒロコーヒーで10年以上のキャリアを積む焙煎士。一方の新田さんは、ハンドドリップ競技で連覇を果たすなど、さまざまな競技で活躍する「コーヒー一家」として知られています。

現地では、練習日が2日間設けられる予定でしたが、焙煎機の設置が大幅に遅れ、初日は設置のみで、実際に稼働できたのは翌日の朝という想定外の状況でした。日本代表だけでなくブラジル代表の選手たちも、運営面での変更に対応しながら、夜遅くまで焙煎を続ける姿が印象的でした。また、ブラジル代表の2名はいずれもコーヒー農園を経営しており、グリーングレーディングでは制限時間に余裕を残して競技を終えていました。日本勢はこの分野で苦戦するのではないかと心配していましたが、両選手とも無事に課題をこなし、安心しました。

結果は、石川選手が初代国際大会チャンピオン、新田選手が3位入賞という素晴らしい成績でした。完全アウェーの環境で、大きなプレッシャーがあったと思いますが、日本代表は見事な健闘を見せてくれました。また、大会期間中には、セラード珈琲が毎年開催している鑑定士コースと産地視察ツアーも実施されており、13名の日本人参加者が現地で日本代表を応援しました。サッカー日本代表を応援するような一体感が生まれ、日本チームとして戦っているという強い連帯感を感じられたことも印象に残っています。

さらに、セラード珈琲ブラジルオフィスのスタッフも総出で日本チームをサポートし、大会終了後にはブラジル代表選手やその家族も合流して食事会を開催。お互いの健闘を称え合いながら交流を深めました。

 

Q5. すでに第2回目の国内大会も終え、今年もブラジルでの国際大会が予定されていると思います。前回大会の経験を踏まえて、今回はどのような点をアップデートし、どのような大会にしていきたいと考えていらっしゃいますか? 

中東情勢の影響により渡航費が大幅に高騰し、当初想定していた予算を大きく上回ることとなりました。そのため、残念ながら今年度予定していた国際大会は来年度へ延期する判断をしました。これに伴い、国際大会出場者が重複することを避けるため、第3回トーハ・ド・ジャポンについても来年度へ延期する予定です。次回はさらにパワーアップして帰ってきますので楽しみにしていてください。

 

Q6. 選手たちは大会終了後、どのような交流があったのでしょうか。焙煎士同士のコミュニケーションや、生産者との関わりなど印象的なエピソードがあれば教えてください。

大会終了後には、日本チーム主催の慰労会を開催し、ブラジル代表選手やその家族も参加してくださいました。夜遅くまで交流が続き、国境を越えてお互いの健闘を称え合いながら、ブラジルの夜を楽しむ貴重な時間となりました。

また、セラード珈琲ブラジルオフィスには多くの日系ブラジル人スタッフが在籍しており、通訳としてさまざまな場面で両国のコミュニケーションをサポートしました。言葉だけでなく、文化や考え方の違いをつなぐ役割を果たしたことで、選手同士や関係者との交流もより深まり、国際大会ならではの価値ある時間になったと感じています。

 

ブラジルでの国際大会の様子は、こちらの動画からお楽しみください。

 

この記事は、Standart Japan第32号のパートナー、セラード珈琲の提供でお届けしました。 

次回のトーハ・ド・ジャポンの詳細については、セラード珈琲およびグループ会社である小分け専門会社マドゥーラのインスタグラムやHP、そして同社のメルマガ配信にて情報を配信しています。