世界4万人以上のバリスタに支持されるオンライン教育サービスBarista Hustle(BH)。その日本語版として2018年に誕生したバリスタハッスルジャパン(BHジャパン)が、Standart Japan第14号をパートナーとしてサポートしてくれました。
この記事ではBHジャパン誕生の背景や、おすすめのカリキュラム、さらにはBHジャパンを運営する株式会社QAHWA(カフア)がCOVID-19のアウトブレイクをきっかけにスタートさせたクラウドカフェ#BrewHomeについて、同社代表・アジア人初のワールドバリスタチャンピオンの井崎 英典さんに伺いました。
—井崎さんこんにちは! BHジャパンのローンチから早2年が経とうとしていますが、特に記憶に残っている瞬間はありますか?
最も印象に残っているのは、BH創業者のMatt Perger(2012年ワールド・ブリュワーズ・カップチャンピオン、ワールド・バリスタ・チャンピオンシップでも過去に複数回上位入賞)を招待して開催したバリスタハッスルジャパンのローンチイベントですね。東京と大阪で合計200名以上の方にご参加いただきました。バリスタハッスルがここまで求められていたのだと心から嬉しく感じた瞬間です。
ローンチイベントの様子
—Mattさんとは長いお付き合いがあるとのことですが、BHジャパン設立の背景について教えてください。
Matt とは2010年に初めてオーストラリアのメルボルンを訪ねた際に出会いしました。2013年にメルボルンで開催されたワールド・バリスタ・チャンピオンシップで共に競技し、同い年ということもあって、一緒に飲みに行ったり大騒ぎしたりと、コーヒーだけに留まらず非常に仲の良い友人です。
彼がバリスタハッスルの構想を話してくれたときに、いつか日本で私に運営してほしい、と常々言われていたのですが、当時独立したばかりでコンサルティング事業で手一杯という状況でした。2017年にイタリアのホストミラノという展示会に参加した際に、Mattと夕食に出かけ、その際に正式にバリスタハッスルジャパンを始めようと合意しました。
もちろん事業運営的に余裕が出てきたから、ということもありますが、高度な教育を民主化しよう、という彼のビジョンに共感したことがその理由です。同世代のコーヒープロフェッショナルの中で、Mattの持つ知識と技術は世界トップクラスですし、彼の考えをタイムリーに日本のコーヒープロフェッショナルに紹介できれば、という思いで2018年12月にスタートしました。
現在BHはオリジナルの英語、日本語以外にも5か国語に展開されていて、私が感銘を受けたMattのビジョンに間違いはなかったんだなと思っています。ちなみに英語以外だと受講者数ではBHジャパンが一番規模が大きいんですよ。
—BHジャパンのコースはかなり科学的に突っ込んだ内容も多いですが、通常どんなプロセスを経て受講者の方にサービスを届けているんですか?
まずはコースの選定からスタートします。バリスタハッスルジャパンは現在「アドバンスコーヒーメイキング」「バリスタワン」「ウォーターコース」「ドリップとバッチブリュー」の4本を配信していますが、英語版のフルラインナップを翻訳できているわけではなく、私たちが考える「日本のコーヒー業界に必要だ」と思われるコースを優先的に翻訳するようにしています。
ただ難しいのが、いかに翻訳者として優れていても、コーヒーの専門知識がないとBHのコースを訳すことができない、もしくは訳を間違える場合がほとんどなんですよね。だからStandart Japanのチームをはじめ、コーヒーの知識がある人たちに翻訳をお願いしています。
それとチームBHジャパンには、過去に食品企業や製薬会社で商品開発・R&D業務に10年間ほど従事していた広田というメンバーがいるので、彼に科学的な観点からのファクトチェックをお願いしています。最後に私がコーヒーの専門家としての知見から、わかりやすいように文章を整えてローンチ、という流れです。
—受講者としては、どんな方がどういった目的で利用されることが多いんですか?
受講者の層としては、ざっくりバリスタが80%、ビジネスオーナーが10%、コーヒー好きの消費者が10%という構成です。
なのでバリスタとしてスキルアップしたい、世界最先端の情報や技術を学びたい、競技会の参考にしたい、といった知識・技術の研鑽を目的として使われる場合がほとんどです。でも最近全てのコースにアクセスできる法人用のサブスクリプションサービスを始めたこともあり、社内教育の効率化を目的としたスタッフトレーニングに使用されるケースも増えてきています。
—受講者の方からはどんな反応がありますか?
自己流で学んできた技術や知識の擦り合わせができる、という声が一番多い印象です。今まで英語でしか知ることができなかった世界最先端の技術や知識が、分かりやすく日本語訳されていることもあり、情報へのアクセススピードが上がり、タイムリーに学ぶことができる、という声を多く頂きます。
—これからBHジャパンのコースを受講したいという方に向けて、おすすめのカリキュラムを教えてください。
バリスタを始めたばかり、もしくは将来的にコーヒー業界で働きたいと考えている人であれば、エスプレッソの抽出や技術的な基本は勿論、エスプレッソマシンやグラインダーの機械的な仕組み、カフェで効率的に仕事をこなすために必要な実践的な知識などが盛り込まれた「バリスタワン」をおすすめします。
バリスタワンを修了した人や、既にバリスタとして複数年働いている方、経営者の方には、収率、抽出方程式、屈折計、粒度分布、拡散、濃度勾配など科学的で専門的な内容を含む「アドバンスコーヒーメイキング」、品質管理を仕事にしている方や競技会出場者、焙煎士の方には「ウォーターコース」、コーヒー愛好家、ドリップやコーヒーマシンで抽出したコーヒーを提供している店舗で働いているバリスタの方には「ドリップとバッチブリュー」がおすすめですね。
全部知りたい! というやる気満々の方であれば、バリスタワン→アドバンスコーヒーメイキング→ドリップとバッチブリュー→ウォーターコースという順番で受講いただくと、段階的に知識が深められると思います。
—BHジャパン独自の取り組みとしては何かありますか?
コロナ禍で現在は開催を控えていますが、定期的にオフラインイベントを実施しています。また広田の化学のバックグラウンドを活かして「サミーの部屋」というインスタライブを不定期で開催していて、TDSについてなど、知ってるつもりでいる概念や聞きたくても聞けない情報をわかりやすく解説しています。詳しくはバリスタハッスルジャパンのインスタグラムをチェックしてみてください!
しばらくは積極的にオフラインイベントを開催するというはわけにもいかないので、もっとオンラインイベントを開催したいと思っています。ドリップとバッチブリューが発売開始したばかりなので、こちらに絡めたオンラインイベントも企画中です。
—オンラインイベントと言えば、今年の4月から始められたクラウドカフェ #BrewHomeはとても話題を呼びましたよね。井崎さんはこのプロジェクトを通してどんな学びや気づきがを得ましたか?
コーヒーの本質とはコーヒーブレイクにあると気づけた点です。これは他に代えがたい重要な学びでした。たとえ#BrewHomeのようにオンラインにカフェの場が移動したとしても、人は他者を感じながらコーヒーを飲みたい、という欲求を持っているということです。
同時に、カフェの役割とはコーヒーを提供するだけではなく、人の精神衛生上の健康を担保する、社会に必須のインフラだった、ということも再認識できました。#BrewHomeを毎日開催することで、同じ時間に一息ついてホッとできる時間を創出できたことは価値のある試みだったと思います。
Standart Japanのトシもゲストとして参加した#BrewHome
—参加者の方々からはどんな反応がありましたか?
何より嬉しかったのは「心が休まる」という声を頂けたことです。中には一人暮らしを始めたばかりの人、終日在宅勤務でリフレッシュできない人など、急な生活様式の変化に取り残された人が多くいました。そんな方々にとって#BrewHomeはオンラインに繋げば誰かと繋がれる貴重な場だったんだなと感じることができました。ちなみに最も人気の回はStandart編集長のToshiさんの「コーヒーと一緒に読みたい本」でしたよ!
—今後も#BrewHomeは継続的に開催される予定ですか?
はい、今後も不定期で開催します。詳しくは私のツイッターやインスタグラムアカウント、もしくはこちらの公式ページをご覧ください。BHジャパンでコーヒーいついて学んだあとに #BrewHomeでホッと一息つく、といったように多角的なコーヒーとの関わり方を今後も皆さんと共有できればと思います。
井崎さん、ありがとうございました!