サプライチェーンマネジメントとコモディティ取引のプロフェッショナルカンパニーとして100年以上の歴史を持つSucafina Specialty。シアトル、ニューヨーク、アントワープ、ベイルート、香港、シドニーに拠点を置き、世界中の顧客に幅広い品質のコーヒーを届ける同社がStandart Japan第14号のパートナーを務めてくれました。
この記事では「Source Smart」を合言葉に、スリムな組織ながら世界中で活躍するSucafinaの施策やコーヒー業界でも耳にすることが多くなってきたブロックチェーン技術を活用したシステムについて同社のElisa Kellyさんに聞きました。
—世界中の生産国・消費国にいるメンバーと連携をとるために会社としてどんなことを意識していますか?
テクノロジーを積極的に活用すると同時に、変化を恐れず、環境の変化に柔軟に適応する、ということを重視しています。特に昨年はこのような意識が功を奏しましたね。例えばグローバルとローカル、どちらのチームにおいても円滑なコミュニケーションがとれるよう、これまでテクノロジーの導入を積極的に行った結果、COVID-19によって生まれた新しい環境へもそれほど痛みを伴わずに移行できました。
会社全体としては「サステナビリティにおいて世界をけん引するような”Farm to Roast”企業に」なるという明確なビジョンと目的を社員全員が共有しています。このフレーズは日々の活動の指針であり、私たち全員が目指すゴールでもあります。企業のビジョンやバリューって、正直マーケティング文句のように感じられるものもありますよね。でもSucafinaでは、そういった方向性を共有しているだけでなく、全員が日々の仕事に信念を持って取り組んでいます。人や環境、協業する農家のウェルビーイングに配慮し、サステナビリティの向上を一人ひとりが本気で目指しているんです。
そんな目標を達成するため、チームや地域の枠を越えたメンバー間のコラボレーションが日々起きていますが、時には何かを犠牲にしなければならないこともあります。シアトルのメンバーがシドニーやパプアニューギニアのメンバーと同じ時間帯に仕事をするためには、誰かが早朝や深夜に働かなければならないタイミングが出てきます。でも目的がしっかりと共有されていれば、長期的には自分を含む全員にとって利があると理解でき、そんな苦労も苦労とは思いません。
それぞれのメンバーは個人としてのつながりも深く、一緒に話したり、何かに挑戦したりするのが大好きで、毎年仕事外で楽しい社内プロジェクトを企画しています。例えば2020年には、5kmのチャリティ・ランイベント「Girls Gotta Run」を実施しました。あのときは世界中のメンバーから走っている様子を撮影した写真が送られてきて楽しかったですよ。時間が合うときはオンラインで集まって単に雑談することもあります。「グローバル企業」と聞くと、各メンバーが疎遠で画一的な組織というイメージを持つ人もいますが、Sucafinaはそのまったく逆で、1000人以上の同志が集まる活力的なグローバルコミュニティのようなものです。
このような組織(とそれを束ねる力のあるリーダー)がいれば、問題解決に向けたコミュニケーションもスムーズに進められます。グローバルで水平につながったメンバーからなるSucafinaは、これまで存在しなかった、本当の意味で統合されたスペシャルティコーヒーのグローバル・サプライチェーンを築こうとしているんです。
—生産国で働くパートナーに正当な対価を支払うためにどのような仕組みを導入していますか?
たくさんありますが、まず一例として挙げたいのがFarmer Hubイニシアティブです。東アフリカを舞台に2018年に立ち上げられたこのプロジェクトは、銀行代理業や穀物・バナナ栽培、はたまた私たちのパートナーの近くに住む農家に対して物やサービスを提供するサーキュラーエコノミーに基づいたプロジェクトなどに資金を提供するというもの。それから、Farmer Connect(後述)という企業とも協業しています。このプロジェクトのゴールは、現在コーヒーを仕入れている主要な生産国すべてで、共有価値を創出するためのイニシアティブを立ち上げることです。国ごとにその形は変わるかもしれませんが、究極的には農家とロースターの間でより平等かつサステナブルな取引を志向しています。
これに関連し、Sucafinaではダイレクトトレードの支援も数多く手がけているほか、最大限の価格透明性(ロースターと農家両方に対して)を確保していますし、農家の人々がより高質なコーヒーを、効率よく生産できるようなサポートを提供しています。また取り組みの多くは長期的な利益に焦点を当てていて、例えばケニアで行っている土壌サンプリングプロジェクトでは、農業投入物の最適化を通して生産性が向上しているだけでなく、若者の需要を創出しています。またブルンジで展開しているAkacuショップは、生活必需品を安価に手に入れられる場所であると同時に、現地の人々が自らのビジネスを興すチャンスとしても評価されています。
それから、クライアントであるロースターと協力して、農家や生産国のコミュニティ全体のウェルビーイングの向上にも資金を投じています。例えばRikoltosというNGOとKoerintji Barokah Bersama共同組合と共同で実施している「Buy 1 get 1 tree」では、インドネシアのコーヒー農家がコーヒー以外の収益源を確保できるよう、シェードツリーにもなるアボカドの木を贈っています。このような農園やコミュニティに対する投資活動は日々増えており、常に新しいイニシアティブが企画されています。
—Sucafinaが現在導入を進めている、ブロックチェーン技術を用いたサプライチェーンの電子化についても教えてもらえますか?
私たちはFarmer Connectというスタートアップを初期からサポートし、ずっと協業関係にあります。データを使って消費を人間味のあるものにするという目標を掲げる同社は、Sucafina同様、まず農家に注目しました。
昔は、ほとんどの小規模農家が自分たちの農園に関して電子的な情報を取得できませんでした。しかしスマートフォン(や懐かしい二つ折り携帯)の普及により、農家の人々が自分たちのデータを所有、管理し、さらにはデータをマネタイズできるようになりました。
現在ルワンダ、ブラジル、コロンビア、ベトナムで行っている試験プロジェクトでは、個々の農家にIDを割り当て、そのIDがデジタルウォレットの役割を兼ねるシステムを活用しています。私たちがこのプロジェクトの参加者からコーヒーを買うと、デジタルの証明書(契約書のように数量や価格、品質が記載されたもの)が発行されます。
その証明書の内容を農家が承認すると、2つのことが起きます。ひとつはコーヒー生産と収入に関して、Sucafinaによって検証済みのデジタルな記録が生成されるということ。これは農家にとっては銀行との取引において役立つ文書になりえます。そしてふたつ目は、農家が承認した価格情報付きのトレーサブルなコーヒーをSucafinaが手に入れるということです。もしも農家が適正な対価を受け取っているか気になる人がいれば、その証明書が証拠になるのです。
また農家は追加的に、第三者機関から農園に関する社会・環境活動についての電子認証を受けることもできます。このような認証は差別化のために活用でき、倫理的な農家の作物に高値が付いたり、マイクロファイナンスがおりやすくなったりといったメリットが考えられます。こういった認証システムは信頼を築くためのシステムでもありますからね。
今日のトレーサビリティ関連データは、単にウェットミルからドライミル、輸出港、輸入港、そしてクライアントのもとへと続く道のりを示しているにすぎません。しかし将来的には、Farmer Connectが開発するツールを使って、例えば炭素マッピングや、森林破壊のトラッキングといったこともできるようになるでしょう。
Farmer ConnectはSucafinaが現在パートナーシップを結んでいる数あるスタートアップ・協力企業のひとつにすぎません。私たちは今後10年間でコーヒー業界が完全にデジタル化すると考えています。近い将来、コーヒー商社としてのSucafinaは単なるコーヒーの売買だけでなく、データを使って未来のサプライチェーンをより良いものする役割を担うことになるでしょう。
Elisaさん、ありがとうございました!
Cover illustration: @anacuna