吃音当事者と共に作り上げる唯一無二のカフェ「注文に時間がかかるカフェ」の発起人、奥村 安莉沙が語る「私が "注カフェ" を続けるわけ」

吃音当事者と共に作り上げる唯一無二のカフェ「注文に時間がかかるカフェ」の発起人、奥村 安莉沙が語る「私が "注カフェ" を続けるわけ」

Standart Japan25号の『シャウト』では、「注文に時間がかかるカフェ」の発起人である奥村 安莉沙さんにご登場いただき、スピードや効率に目が向きがちなコーヒーの世界に対してシャウトしていただきました。先日Standart Communityでは、そんな奥村さんへの公開インタビューを行いました。今回は、イベント内容の一部を特別にご紹介します。

<プロフィール紹介>

奥村 安莉沙さん

広告代理店での勤務を経て、2021年から 「注文に時間がかかるカフェ」を主宰。吃音のある若者が接客業へ挑戦できる環境づくりと吃音への認知拡大に向けて、全国各地で「注文に時間がかかるカフェ」を開催する。吃音当事者としての経験から、同じバックグラウンドを持つ若者たちが自分たちのやりたいことに挑戦できるような社会を目指して活動中。

 

はじめに「吃音」とは何か、またご自身が吃音当事者であることを認識されたときについて教えてください。

吃音とは、簡単に言うと、話し言葉が滑らかに出ないことのある発話障害の一つです。現在、吃音のある人は日本全国に約120万人いると言われており、これは100人に1人の割合に当たります。 

吃音には大きく分けて3つの症状があります。「こ、こ、こんにちは」と音を連続して発してしまう「連発」、「こーこんにちは」と音が引き伸ばされる「伸発」、「....こんにちは」と音が出にくい「難発」。また、頭や手足など体を動かす反動で声を出そうとすることで生じる「随伴症状」と呼ばれる症状もあります。吃音の症状の重さに関係なく深刻な悩みを持つ当事者も多く、吃音の症状、ニーズ、向き合い方は人それぞれです。

私の吃音症に母が気が付いたのは2歳のころでしたが、私自身が自覚したのは小学2年生のとき、友人のお母さんからの指摘がきっかけでした。はじめは何を言われているのか理解できず、人と異なるという理由から吃音を悪いことだと感じてしまい、気がついたら自分がやりたかったことの多くを諦めてしまっていました。今でも吃音の自分が話していいのかなと無意識のうちに後ろ向きな気持ちになってしまうことがあるので、自分のやりたいことをやっていいのだと自分に言い聞かせるようにしています。

 

なぜ「注文に時間がかかるカフェ」(以下:注カフェ)を立ち上げようと思ったのでしょうか?

もともと広告代理店に勤務していた私は、インバウンド向けに国内観光地のプロモーションを担当していました。しかし、新型コロナウィルスの流行によって空港は閉鎖、訪日観光客はほぼゼロになり、それまでの多忙な仕事中心の生活が一変しました。日々報道される新型コロナウィルスの死者数を耳にするたびに、「自分が本当にしたいことは何なのか?」、「それは吃音という理由で諦めていたのではないか?」と考えるようになったんです。

私の夢は、10代のころから変わらず「カフェの店員」になることでした。それまでは、吃音のある自分が周りの人の目にどのように映るのかを気にして、自分の思いに蓋をしていたんです。でも、皮肉にもパンデミックをきっかけに、自分のやりたいことにチャレンジしてみようと決意しました。

はじめは広告代理店で勤務する傍ら、休日に間借りカフェとして「注カフェ」を始めました。当時は副業のような感覚ではじめたのですが、はじめの12回の営業が終わると、全国各地から「私も吃音があるけど接客をやってみたい!」という声をたくさんいただいたんです。その輪がどんどん広がっていき、結果的にオファーをいただいた場所に私が出向き、吃音を持つ学生を集めて接客をしてもらうという現在のスタイルに至りました。

「注カフェ」の活動を通じて会った学生さんの多くは、「吃音で悩んでいるのは世界で自分だけだと思っていた」と口を揃えていいます。その背景には、特に地方に行けば行くほど、吃音当事者が一堂に会する機会はないに等しいという環境的な要因が挙げられます。自分が決まった場所でカフェを開くのではなく、全国各地へ出向いて「注カフェ」を主宰するのはそのためです。

 

場所、参加メンバーが決まったあとは、どのようなプロセスを経て「注カフェ」が開催されるのでしょうか?

「注カフェ」では、学生たちが自分たちのやりたいことを実現し、参加者同士の良い化学反応が起こることを第一に考えています。そのため、「注カフェ」には固定のメニューや接客スタイルは存在せず、開催内容はその都度異なります。

もちろん私が準備した大枠はありますが、具体的なプロセスを決めるのは参加メンバーたちです。メニュー開発や資金調達なども自分たちで行い、私はそのサポートに徹します。ある回では、地元の特産品を使ったジュースを開発したり、クリエイティブなメンバーが多かった回では注カフェのドキュメンタリー映画を制作したこともあります。

ひとえに吃音当事者と言っても、抱えている悩みはそれぞれ異なります。そのため運営方針を決める段階で、まずは各自が苦手とすることを綿密に共有するんです。たとえば、「ポイントカードをお持ちですか?」といった固定のセリフを言うのが苦手な子がいたことがきっかけで、この回以降の「注カフェ」では固定セリフをなくしました。 集まったメンバーの個性を活かしながら、一つ一つ積み上げていくのが「注カフェ」の作り方です。

 

カフェというプラットフォームは、吃音当事者の方々の活動の場や吃音の認知拡大という面でどのように機能していますか?

カフェという空間は、とても楽しい雰囲気があってフラッと立ち寄りやすいという面でとても相性がいいと感じています。仮に吃音についてのセミナーや講義などがあったとしても、参加する人は非常に限られると思いますし。さらに接客面でも、アパレル等とは異なり自然にお客さんとの会話が生まれるので、スタッフとお客さん双方にとっても会話へのハードルは低くなります。

カフェで必ずお客さんと会話が生まれることで、新たに見えてきたこともあります。吃音のある人はスムーズに言葉が出てこないので、本人は普通に話しているつもりでも、吃音に馴染みのない人にとっては焦っているように見えるんです。そういった場面で「リラックスしてね」「焦らなくて大丈夫だよ」と声をかけられたり、最後まで話を聞いてもらえず途中で推測して代わりに話されてしまったりすると、吃音当事者は辛い気持ちになります。そのことをお客さんに伝えると、吃音への理解が正しくできていなかったとおっしゃられる方も多くいらっしゃいます。

吃音についての正しい理解は、身近に当事者がいても難しいのではないかと感じることもあります。なぜなら、私たち吃音当事者も吃音であることを隠して生きていることが多く、結果として周囲に理解してもらえないというジレンマが存在しているからです。なかには自分が表現できないモヤモヤの原因が吃音だったということを「注カフェ」に来て初めて気が付いたという人もいました。それほど、社会としての吃音の認知度がまだまだ低いということです。

 

奥村さんが「注カフェ」を続ける原動力は何ですか?

この活動を続けるなかでの大きな気づきの一つが、「苦手なこと=嫌いなこと」ではないということでした。活動を始めた当時は、吃音があっても接客をしたいと思う自分は物好きで、他の吃音当事者たちは絶対に思わないだろうと思い込んでいました。でも蓋を開けてみると、そこには「人と話すことが大好き」な吃音当事者がたくさんいたんです。

私が子どものころは、家族や周囲の人が吃音について触れないようにしていたことで、かえって強い孤独感につながっていました。でもあるとき、このままでは自分を生きることはできない。自分が自分の人生を生きるためには、吃音当事者であることを伝えていくことが大切であると感じたんです。

今の学生さんたちには、かつての自分のように悩むのではなく、自分がやりたいことに挑戦できる日々を送ってほしい。今の私の活動の原動力とは、そんな心からの願いです。

 

※公開インタビューの音声を定期購読者限定のオンラインプラットフォームStandart Commuityにてご視聴いただけます。ぜひ合わせてご視聴ください。