ウィズコロナでも、アフターコロナでもコーヒー生産の鍵を握る情報共有

ウィズコロナでも、アフターコロナでもコーヒー生産の鍵を握る情報共有

Standart Japan第20号のパートナーを務めてくれたセラード珈琲。ブラジルと日本に事業所を置く同社の内海さんに、コロナ禍でのコーヒー生産の様子や、セラード珈琲が開発した包装材Oxi-free(オキシフリー)ついて伺いました。

 

内海さん、こんにちは! まずは簡単に自己紹介をお願いできますか?

初めましてセラード珈琲入社2年目で輸入業務を担当している内海です。東京農業大学在学時にブラジルに 1 年間留学したことがきっかけで、ブラジルと深く関わる仕事がし たいと思っていたところ紹介でセラード珈琲と出会い、前職の農薬メーカーから転職して参りました。



年初にブラジルへ出張されていたそうですが、そのときの様子を教えていただけますか?

4年ぶりに 1 月から 2 ヶ月の出張及び研修でブラジルへ行ってきました。

まずブラジルへの入国についてですが、PCR 検査の陰性証明は必要であるものの、原則入国後の隔離期間はありません。1 月 4 日着のブラジル行きの飛行機は経由地のドイツからほぼ満員でした。さらに驚かされたのは、国内線ターミナルの混雑です。どのカウンターでも列が出来ており、出国時の静かな羽田空港との違いに、本当に同じコロナ禍なのかと一瞬疑ってしまうほどでした。

しかし私が事務所のあるパトロシーニョ市についてすぐ、感染者数が急増しました。幸い重傷者は少なかったのですが、取引先の輸出業者で一度に10人の陽性が判明しただけでなく、同じ建物に事務所がある会社でも陽性者が出たうえ、私が週末を一緒に過ごした人が感染するなど、非常にコロナを身近なものに感じました。

ブラジル到着後、腹痛と発熱があった時は、正直自分も感染してしまったと思い、日本いる家族にも弱気な電話をかけていました……。幸いにも PCR の検査結果は陰性で、結果的には恐らく食あたりでした(笑)。ただ、自分も感染していてもおか しくはない状況だったと思うと、改めて健康の大切さを実感しましたね。パトロシーニョにある公共の病院では、感染者用の入口が特別に設けられており小都市であっても、感染者の受け入れに慣れていると感じました。

公共交通機関やレストラン、ホテル、スーパーなどはどこもアルコ ール消毒が求められれ、マスクの着用も多くの人に浸透していました。一方で、週末の家族や友人との集まりでは、室内であってもあまり感染対策がとられていない印象を受けました。コロナ前のように営業しているバーやクラブもありますが、プライベートな時間は家族や友人と郊外で過ごすというのが一般的なようです。

ブラジル国内のコーヒー産業への影響はいかがでしょうか?

感染が急拡大していた頃に比べると状況は大幅に改善しているものの、農園を中心に人手不足が報告されているところもあります。私が視察したセラード地域のいくつかの農園では、どこも感染対策が徹底されていました。

マスクの着用や手洗いはもちろん、定期的な検査や従業員の健康チェックなど、街中よりも厳しく管理されている場所がほとんどです。ある農園では1月末に苗植えの立会いを予定していましたが、作業する予定だった従業員に咳の症状があるということで延期になりました。コロナに加えてブラジルでは新型インフルエンザが流行していることもあり、少しでも症状のある従業員には自粛と検査を徹底していました。

印象的だったのは、農園の責任者が Whatsapp(日本のLINEようなメッセージアプリ)のグループ内で、ボイスメッセージを使用して速やかに状況を共有し指示を出していた点です。日本ではあまり使われない方法ですが、100 人近くいる従業員に細かな指示や判断を迅速に共有する必要があるため、非常に効率的な手段だと感じました。

人手不足になるのは徹底した感染対策の裏返しと言えるかもしれません。セラード地域では、収穫期以外の必要な作業は機械化できている部分も多く、コーヒー栽培へのコロナの影響についてはあまり耳にしませんでした。また、輸出業者は精選工場をはじめ、人が代わっ てもオペレーションが止まることはないため、こちらも影響は限定的です。一方で、セラード地域とは対象的に南ミナスは家族経営の生産者が多いため、感染によるリスクが高まります。2月に視察で訪れた生産者からは、非効率な地域医療や感染対策の難しさから、本人や両親、親戚が重症化したという話をよく聞きました。ただ、こちらも 3 回目のワクチン接種が進んだことで状況が改善し、コーヒー生産に問題は起きていないようです。

農園間の情報共有もコロナの影響であまり進んでいないのでしょうか?

セラード珈琲では社名のセラード地域はもちろんのこと、現在セラード地域以外にも主要4産地から買い付けを毎年継続しています。輸出会社でのカッピングからの買い付けという通常の商社ルートと違い、興味深い栽培方法や精選方法などを聞くと直ぐに担当者を派遣して、現地視察とともに品質のチェックを繰り返し、「これは」と思う有効な手段が見つかった際は他の生産者にもフィードバックしています。そういう意味では、私たちは農業技師の様なコンサルの役割を果たしていると言えます。

今年は長年コンテストに入賞すらしなかった生産者がコンテストを総なめしていると聞いたので、弊社代表である山口カルロス彰男(愛称:彰男さん)と視察に赴きました。その話題の生産者リカルドさんは近年、日本の伝統的な技術を駆使して、微生物を利用する農業に力を入れています。

リカルドさんは、コーヒー以外にも大豆とトウモロコシを栽培しており、その手法をコーヒーに取り入れたことが品質向上に繋がったということでした。大豆やトウモロコシの農薬の散布量は年々増え続け、最初の頃と比べて何倍も必要になり、金銭的な負担も増大しました。そこで農薬を代替する手段を模索していたところ、日本の伝統的な技術を駆使し、微生物を利用した農法を採用している農園に行き着いたそうです。

この農法は主に2つの柱から成り立っています。1つめは、森林を観察して害虫や病害と共生するための、微生物のバランスを作り上げること。まずは微生物を採取するために、炊きあがったご飯を森林に持っていき数日間放置します。すると微生物がお米の中で育つので、その微生物の入ったご飯を持ち帰り、自家工場で何千倍にも培養します。農園にこの大量の微生物を散布することで、天然林のように多様な生物が住む環境を作りだせるのです。さらにコーヒー農園でも、コーヒーの皮や牛糞、サトウキビのカスに微生物を散布して化学肥料(窒素、カリ、リンなど)に代わる有機肥料を作っています。

2つめの施策は、特定の害虫や病害をコントロールする微生物を研究所で選別し、微生物を工場で生産し使用すること。リカルドさんが協業している研究所ではサビ病菌やコーヒーノミキクイムシなどコーヒー特有の問題にも対処できる微生物が発見されています。微生物のバランスが整えば、害虫や病害対策としての農薬の依存度が低下します。

これら2つの施策は、当初大豆とトウモロコシの化学農薬の使用量を大幅に減らすことを目的に実施されいました。環境へも配慮した持続的な栽培方法です。この農法をコーヒーに転用することで、リカルドさんは、農薬の使用量を約80%減らし、生産量を維持することに成功しました。

前述のとおり、以前リカルドさんは「長年コンテスト等で入賞できていなかったが、この栽培方法の変化によってコーヒーの味が改善し、2021年は複数のコンテストで入賞を果たした」と話しています。

2021年にリカルドさんが入賞したコンテストリスト
・Semana internacional do café 入賞
・Federação do cerrado(セラード生産者組合コンテスト) 優勝
・CPC(カップオブプログレッシブ・セラード)日本向けコンテスト優勝

そして、リカルドさんの微生物を活かしたロットを「ビオロジコ・フロレスタ ~森の微生物達~」という商品名で発売予定ですので、ご期待ください。

セラード珈琲のブラジル事業所ではどんなことが行われているのですか?

事務所はコーヒー生産が盛んなパトロシーニョ市の中心にあります。輸出業者や生産者と連携を取り、問題が生じた時にはすぐに駆けつけられる最適な場所です。私も出張中は事務所を中心に活動していました。

主な仕事内容としては、まず生産者や輸出業者から入手する大量のサンプルの品質チェックをします。収穫後は一日中カッピングをしている日もあるそうです。こうしてブラジルで厳選したサンプルを日本へ送り、船積みが決まったロットは、セラード珈琲が独自に定めている規格にそって精選工場で選別します。

精選の仕方や規格はお客様によって異なるため、細かく指示を出す必要が あります。具体的にはスクリーンサイズ(豆の大きさ)はもちろん、取り除く欠点豆の種類と許容数なども変化します。精選工場の視察時に印象的だったのは、どのセクションで話を聞いても、セラード珈琲の規格についての理解が非常に高かったことです。「品質にうるさく仕事が大変」と言う人も多かったですが(笑)、その厳しさが身についていることから、作業指示書を見なくてもセラード珈琲のロットについては精選の基準が分かるとまで話していました。

その理由を彼らに聞いてみると、弊社代表の彰男さんが定期的に精選工場で開いている研修を挙げていました。カッピングに参加することで、自分たちの仕事によってコーヒーの味が変わると実感し、より厳しく仕事に取り組めるようになったと話してくれました。

精選が終わった後も、袋詰めの前に再度サンプルチェックを行います。その他にも農園の視察など生産者との連携は一年を通して行っています。 現在ブラジル事務所では品質最高責任者の彰男さんと 3 人の現地従業員、1人の研修生を入れて合計 5 人です。ブラジルにいるときの彰男さんは 全体の指揮を取り、買い付けや輸出の最終的な判断を下しています。特に生産者や輸出業者と対面しているときは、日本で一緒に仕事をしているときとは違う力強さを感じました。

残念ながらブラジルでは問題が生じたときに相手にはっきりと伝えても、すぐにはその問題が解決しないことも多く、ある種の強引さが必要になるタイミングがあります。私自身 2 か月の出張中は、問題が起きて当たり前で、その後どう対処するかが重要であると痛感しました。その一方で、一度友人関係を築くと親身になって対応してくれるという良い面もあります。

 

真包装材Oxi-freeについて教えていただけますか?

ネット社会の現在ではコーヒー産地への扉は大きく開かれ、語学力と資金力さえあれば、個人でも産地に赴き直接買い付けできるようになりました。しかし産地との物理的距離が縮まったわけではありません。

せっかく買い付け た最高級のスペシャルティでもパーチメントから脱穀後の状態は『割れた卵』と同じです。買い付けから日本まで早くても4か月は要します。コンテナ不足の昨今ではリーファーコ ンテナの予約も簡単ではありません。

そこで私たちが注目したのが包装材です。弊社代表の彰男さんが2017年からブラジルの大手包装会社parnaplast社に構想を提案して共同開発をスタートさせ、幾度もの試行錯誤の末に2020年に完成にこぎつけたのが、新包装材Oxi-free(オキシフリー)です。

PA (ポリアミド)とEVOH (エチレン・ ビニルアルコール共重合体))をベースにした9層からなるOxi-freeは、湿気と酸素に対する高い遮断性を実現しました。鮮度が重視される食肉等の包装素材を採用し、開封後も再度保存がしやすく、破れにくく、印刷も簡単にできるといった点がその特徴としてあげられます。

アメリカのDow主催  パッキング・イノベーションアワード 2020では金賞受賞し、優れた包装材として世界的に認知されました。今やセラード珈琲が輸出するコーヒーの80%が新包材Oxi-freeに包まれています。

内海さん、ありがとうございました!

 

この記事は、Standart Japan第20号のパートナーセラード珈琲の提供でお届けしました。