#91: DAO、ドラフト、コーヒー

#91: DAO、ドラフト、コーヒー

おはようございます。今週はどんな一週間でしたか?

今年の1月に2021年のSPECIALTY COFFEE TRANSACTION GUIDE(以下SCTguide)がリリースされました。先週SCTguideから届いたニュースレターでふと思い出し、随分前にダウンロードされてデスクトップに鎮座していたPDFを開いてみました。

このSCTguideは、世界中のコーヒーバイヤーたちの取引内容を集約してレポートにまとめていて、価格変動の激しいCプライスをベンチマークとした取引ではなく、スペシャルティコーヒーのバイヤーとその生産者の双方が公平に取引をおこなうための新しい基準を作るためにスタートした取り組みです。

レポートによると、データが蓄積されていくことでSCTguideを次のようなリサーチに役立てていくことを検討しているそうです。

  • 認証制度が生豆価格に与える影響
  • 各マーケットでの生豆価格の変化(例:北米、ヨーロッパ、オセアニア、アジアなど)
  • 売買契約(固定or変動)の内容による生豆価格の変化
  • 定量的かつ質的な(品質、ロット数、生産地域以外)変数が生豆価格に与える影響

SCTguideは2016年からのデータが参照可能で、100社ほど(約50,000件の取引を参照)がデータドナーとして参加しているので、これからどんどんデータが集まっていくことでより統計的な基準が確立されていくでしょう。

ただし注意したいのが、SCTguideは各取引のFOB価格ベースに作られているものの、その価格自体は農家にどれほどのお金が渡っているかを表すものではありません。また、生産者の生産コストや生活コストをカバーできているかを示すものでもありません。

いずれにせよ、産地にコーヒー豆の買い付けに行っている関係者の方や今後検討している方にとってはきっと参考になる情報です。もちろんコーヒーラバーも、ご興味ある方はぜひご覧になってみてください。ちなみにアジアでは長崎のKariomons Coffee Roasterさんがデータドナーとして最初に登録されています

最後に話は変わりますが、山梨にあるコーヒーショップthe;kokuboさんが入っている建物にて先日火災がおき、建物がほぼ全焼するという大変悲しい出来事があったことをSNSを通じて知りました。幸いなことに人的被害はなかったものの、4周年を前にお店がなくなってしまうという事態に関係者の方々の喪失感は計り知れません。リスタートに向けたサポーターとして、こちらから支援することができるそうです何か協力できることはないかと考えている方はご覧になってみてください。

それでは今週も良い週末を。

編集長 Toshi

 

 

This Week in Coffee 
世界のコーヒーニュース

分散型への手引き

先日、米・シアトルのNFTミュージアムにて、「TheCaféDao」がポップアップイベントを開催しました。屋号に含まれる「DAO」とは、現在テクノロジー業界を中心に注目を集める「分散型自立組織 (Decentralized Autonomous Organization)」の略。ブロックチェーン技術を活用し、中央管理者を設けずに構成員が自立的に意思決定を行う組織体系を指します。Daily Coffee Newsの記事によると、経営者を頂点とする従来のカフェの組織構造に一石を投じるべく、現在TheCaféDaoは世界初となるDAO型カフェの開業を目指しています。

通常DAOでは、組織内だけで流通する「ガバナンストークン」が発行されます。このトークンは株式のような役割を果たし、その保有量に応じて運営方針に関する投票権などが付与されます。TheCaféDaoの場合、一杯5ドルのコーヒーが売れる度に「1コーヒートークン(1CT)」が発行され、規定の分配率に基づいて顧客、従業員、TheCaféDao運営者の三者にCTが分配されます。要するに、TheCaféDaoはお店にいるすべての人々がカフェの運営に携われる未来を作ろうとしているのです(そんなの重荷だ!という顧客のためにCTを従業員にチップ代わりに渡す仕組みも準備されています)。

これまで従業員が経営権をシェアする事業協同組合型のカフェのことはたびたび耳にしましたが、顧客まで運営に携わるカフェがどんなものになるのか、想像が膨らみますね。

 

気になるニュース

▷ 英国・グラスゴーで、明日から2週間に渡って開催予定のGlasgow Coffee Festival。今年はKeepcupのサポートのもと、初の「使い捨てカップフリー」を掲げており、リユーザブルカップ文化の認知拡大を目指します。ちなみにグラスゴーは昨年度のCOP26の開催地でもあります。

▷ アメリカン航空が、米国国内便のファーストクラス限定でエスプレッソ系ドリンクの提供を再開。ですが、中止以前から乗務員がドリンクオプションとして提示することはなく、今後も乗客自ら尋ねる必要があるそうです。まさに”知る人ぞ知る”一杯。

▷ 日本の魔法瓶メーカーTigerが、サイフォン型コーヒーマシン「Siphonystaの資金調達に成功抽出時間の短縮化や食洗機対応の手軽さがウリとのこと。

▷ コーヒーを飲むとなぜトイレ(大きい方)に行きたくなるのか。専門家によると、コーヒーに含まれる化合物が胃腸の神経系と反応して、大腸の動きを活性化させる可能性があるそう。乳糖不耐症の人は、コーヒーに入ったクリームやミルクが原因の場合も。

▷ ロッテのドラフト3位廣畑敦也投手は、実は大のコーヒー好き。コーヒー関係の資格を取得し、将来はコーヒー屋を持ちたいとの発言も。セカンドキャリアまで大注目のルーキーです。

物足りないあなたへ

カナダ国内でファストフード店ウェンディーズがシグネチャーブレンドの提供を開始。Nespressoが国際認証「B Corp」を取得。先日オープンした西銀座駐車場地下一階のSony Park Miniにて「西銀座駐車場コーヒー」が営業中。

 

 

What We're Drinking
今週のコーヒー

 

寺崎COFFEE 山梨(地図

コーヒーと、楽しく。
自然豊かな山梨県にある私たちのお店は、自家焙煎したスペシャルティコーヒーを一杯ずつ丁寧に抽出し、毎日手作りの焼き菓子と一緒に楽しんでいただいております。

通りに面するように注文カウンターがあり、街ゆく人に毎日挨拶をしながら街と人とコーヒーの時間を日常のものとして繋ぐことをコンセプトとしています。コーヒーの素材である生豆はおもに北欧ノルウェーのインポーターから、または生産地とのダイレクトトレードにて購入しています。

コーヒー農家の持続的生産への取り組み、透明性、農園への品質向上のための適切な支払いを大切にし、その土地で生まれた個性豊かなコーヒーの風味を活かすライトローストにてご提供しています。

2017年、コーヒー、軽食、生活雑貨などを販売する2号店「ロジ」を柳小路飲食店街にオープン。2022年冬には、山梨県北杜市小淵沢町に3号店をオープン予定です。

 

生産者453の小規模農家 (Tsedeniaと Fikaduが運営するKanketi Coffee export)

生産地域エチオピア 南部諸民族州ゲデオ県イルガチェフェ群(地図

品種
エチオピア系統品種

精製方法
ウォッシュト

テイスティングノート
ハニーレモン、ベルガモット、ブラックティー、ラベンダー

編集長のコメント:

エチオピアのウォッシュトを目の前にすると、トクントクンと胸の高鳴りが聞こえるのは僕だけでしょうか。スケールに置いたカップにコーヒー豆を入れると、ふわっと鼻先をかするスパイスのような香り。グラインドされた豆からはさらに強いスパイス感や奥行きを感じ、その肉感的な芳香に期待が膨らみます。

一口目の第一印象は、どこか中南米の豆のようなニュアンスで爽やかな酸味とバランスの良さを感じます。甘さのある柑橘系のフレーバーの僅かな主張を感じ、スルスルと入ってくるクリーンな味わいがあります。後味に少し餡子のような雰囲気も感じました。液体が冷めてくるとガラッと様子が変わったような印象を受け、そのギアチェンジに思わず「あれっ?」と一言。ピーチや洋梨が顔を出してきて、上質なブラックティーを彷彿とさせてくれます。ふわっと香るフローラルな後味も鮮明になり、"エチオピアっぽさ"を感じました。いろんな淹れ方でコロコロと表情を変えてくれそうなこのコーヒー、才能ある役者のようです。コーヒーを飲みながら、随分前に伺った寺崎COFFEEさん2階で過ごした遠い夏の記憶が蘇るのでした。美味しいコーヒー、ごちそうさまでした!


Artists in Residence
Standartを彩るアーティストたち

アーティスト: 

ジョエル・スメドレー ウェブサイトInstagram

プロフィール:

ストリート、ラグジュアリーファッション、音楽、ポートレートを中心に活動するフォトグラファー兼コーヒーラバー

最新の掲載記事:

Standart Japan 第19号 「海を超えて」

 

Inspiration
おすすめの本、映画、音楽、アート

Grange Farm Estate

ロンドン西部のハローにあった集合住宅Grange Farm Estateの様子が収められた写真集。ロンドン北西部を中心に食糧問題に取り組む非営利団体My Yardがアーティストと共同で実施したワークショップから写真集制作のアイディアが生まれました。

老朽化したGrange Farm Estateが取り壊される前に、地域コミュニティの様子を記録するためにカメラを手渡されたのは、そこに住む10〜15歳の子どもたち。ゲストアーティストとしてワークショップを率いた写真家のヘンリー・ゴースは、子どもを撮影者に選んだ理由について、被写体と直接的な関係を持たないプロを招くドキュメンタリープロジェクトにありがちな構造を転換するためだったと、とあるインタビューで語っています。そこで「カメラを若者に手渡すことで、物語の主役になる力を手渡そう」と決めたのです。実際に、シーンや被写体のポーズ、表情にいたるまで、パーソナルな関係がないと撮れないだろうなと感じられる写真が多く収められ、中にはプロの作品と見紛うものまで。

表現手段へのアクセスによってどれだけ人々の心を打つ作品が世に出ることなく葬り去られてしまったのか、そして制作過程を周囲にジャッジされずらい、写真という表現方法の可能性に気づかされる写真集でした。



Brewing with…
あの人のコーヒーレシピ 

 

前田 潤一郎 a.k.a Jun

京都生まれ、京都育ちです。大学卒業後4年間勤めた会社を辞め、ニュージーランドとオーストラリアで計3年ワーキングホリデーをしていました。
ニュージーランドでのスローでナチュラルな暮らし、オーストラリアのメルボルンで体験した最高のカフェカルチャーに魅了され、帰国して数年後の2021年から京都市内の北の方、下町ののんびりした鞍馬口というエリアでManaia  offee&Thingsというお店を夫婦で営んでいます。

5 questions

今気になっている問いは?

ちょっと真面目な感じになりますが、やっぱりここ数年のいわゆるコロナ禍について、僕らが暮らす日本においてはいつどのような形で終わるのか?ということが気になっています。感染者が減るといった感染症自体の収束の意味合いではなく、自粛、中止、学級閉鎖やマスクでの生活など社会全体としてのコロナ禍がいつどのような形で終わるのか、考えちゃいますね。

この数年でコロナ禍での制約、マスク生活など慣れきっている感じがありますが、それはあくまでここ数年の話。お店に立っていても、日常生活でも以前のように気にせず普通の毎日に戻りたいし、やっぱりみんなの顔がわかった上でコミュニケーション取りたいなと思います。
国によって対策は違うし、個人個人でも考えや対策は違うのでどちらが正解とかはないのですが、日本が早く元通りの暮らし、社会に戻るためにはどういう道筋を辿っていくのか、その中で自分はどういう行動をとっていくべきか、いきたいか自分に問いかけています。

お気に入りの場所は?

国内外たくさんあるのですが、ここ最近一番愛着があってお気に入りの場所を紹介します。僕らのお店の手作りコミュニティテーブルの角の席。ここがめっちゃ気に入ってます。
工事で余った廃材を使った天板と、農作業の収穫用のカゴを足にして作った手作りのテーブルなんですが、自信作なんです。お金無くて、やむに止まれずササッと一瞬で作ったやつなんですけど。手作りの味があるというか、抜け感が気に入ってます。
そこの角の席に腰掛けて、差し込む光と風を感じながら店内を眺めてコーヒーを飲むと最高に落ち着くので一番身近なお気に入りの場所です。
お店がいちばん輝いて見えると思っているので、僕らのお店に来られた際はぜひ座ってみてほしいなと思います。

譲れないこだわりは?

出かけるときは手には絶対何も持たない(傘は折り畳み。紙袋とか肩掛けのトートバッグを持つのも嫌で、荷物は全部バッグパックに入れる)。
つねに身軽でフットワーク軽くいたいので。外に出掛けても、途中で行きたい場所変わっちゃったりすることよくあるんですけど、極端な話急にスポーツしたくなったり、山登りたくなったとしても対応できるようにしときたいんです。ちなみに服装もシンプルが好きで、自分のファッションの基準は、その服装で山登りできるかどうかです。

今誰と一緒にコーヒーを飲みたい?

山登りに一緒に行ってたコーヒー仲間たちと。よく行ってた仲間は3人ぐらいなんですけど今はそれぞれ働いてる場所が違うので、最近頻度がめっちゃ減っちゃったんですよね。
お気に入りの器具やマグ、それぞれが入手した推しのコーヒー豆を持ち寄って、みんなの好きな音楽(基本的にジャンルはレゲエ)かけながら、外で淹れて飲むコーヒーがやっぱり最高なんです。僕にとっては自然×緩めのレゲエ×コーヒーが人生を豊かにするために欠かせない3大要素です。
コーヒーはやっぱり気心知れた仲間とゆっくり飲むのが一番楽しいし、美味しいと思います。

最近、何に感動した?

少し前に滋賀県の高島市というところで、一日出張コーヒーイベントをさせてもらったのですが、そこでの体験が感動的でした。
琵琶湖の湖畔が目前の最高のロケーションで、波打ち際の音を聴きながら琵琶湖を背景にしてコーヒーを淹れる体験が本当に心地良くて。
自然を感じながら高島の人たちとコーヒーを楽しんで、それだけでも最高やのに、さらに感謝されて、お金まで頂いてって、アリなんかな?って思っちゃいました。コーヒーを通じて感動的で温かい空間を生み出して、それが仕事になってるって幸せなことやなって実感した出来事でした。



Fancy a refill?
編集後記 

この間イギリスの南極遺産トラストが求人を出していたんですよ。南極の。

求人ページ(すでに募集は終了してページも削除されています)を見ると、観光客向けのお土産屋店員や、臨時の郵便局員になりませんか? みたいなことが書いてあってさらに詳細を読み進めると、ネットも電話もないけど、ペンギンをはじめ野生動物はいるよ、と。もしかしたらこれはいま世に出うる求人で一番贅沢なものかもしれませんね、色んな意味で。

Atsushi

 


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今週の The Weekend Brew は Standart Japan 第19号スポンサーのTYPICA、パートナーの Victoria Arduino x トーエイ工業カラベラコーヒーToddyのサポートでお届けしました。

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Standart Japan
(執筆・編集:Takaya & Atsushi)