#63: ミシュラン、新幹線、コーヒー

#63: ミシュラン、新幹線、コーヒー

おはようございます。今週はどんな一週間でしたか?

先週公開されたホワイトペーパーで、SCA(スペシャルティコーヒー協会)がこれまでとは違う「スペシャルティコーヒー」の定義を提唱しました。今までの定義は、厳密性に欠けていたり、逆に一般に普及させるには細かすぎたりといった問題を抱えていたことから、新しい定義の必要性が以前から叫ばれていました。

従来は、基本的に「品質」を指標としてスペシャルティか否かを判断してきましたが、今後は「属性」を土台としたフレームワークを活用するとのことで、SCAは以下を新しい定義として掲げています。

「Specialty coffee is a coffee or coffee experience recognized for its distinctive attributes, and because of these attributes, has significant extra value in the marketplace.(スペシャルティコーヒーとは、市場で大きな付加価値を生むような際立った属性を持つコーヒー、またはコーヒー体験である)」

これを読んだだけだと、「属性」ってなに? という疑問が生まれますが、SCAは属性を以下の2種に大別しています。

  • 内在的な属性:見た目や味などの物質的な特徴
  • 外在的な属性:産地や農家、認証といった非物質的な特徴

つまりカッピングのスコアで語られることの多い品質だけをスペシャルティコーヒーの基準にするのでなく、これからは非物質的な情報も、同程度勘案してスペシャルティか否かを判断しましょう、ということのようです。単なる味覚体験ではなく、ストーリーを感じるコーヒーがスペシャルティコーヒーだと考える人は多かったと思いますが、それが明文化されたような形でしょうか。

面白いなと感じたのは、このフレームワークはそれぞれの属性の価値を重んじているため、コーヒーの味をはじめとする普遍的な「品質」だけでなく、市場によって評価が異なりうる属性を重視している点です。これはつまり、それぞれの国や文化でスペシャルティコーヒーの定義が違ってもいいということになると理解したのですが、味覚には地域差があるので、それもそうかと納得しました。

この新しい定義が実際にどう運用されるのかはまだ分かりませんが、そもそも定義は必要なのかという疑問も湧いてきます。皆さんはどう思いますか? いずれにせよ、コーヒーの内在的な属性以外にも目が向けられるようになれば、トレーサビリティや透明性がさらに重要になってくるでしょう。10月1日の国際コーヒーの日に日本でもリリースされたThankMyFarmerのように、トレーサビリティや透明性を強化する取り組みは今後ますます注目されることになりそうです。

それでは良い週末を。

編集長 Toshi

 

This Week in Coffee 
世界のコーヒーニュース

リアリティとの焦点距離

今週、Daily Coffee Newsにルシア・バウォットさんのインタビューが掲載されていました。コーヒーフォトグラファー兼フィルムメーカーとして活躍し、Standart Japan 第7号「コスタリカ」の写真も撮影してくれたバウォットさん。インタビューではコロンビア出身の彼女のバックグラウンドや、写真を通じて感じたコーヒーサプライチェーンの問題などについて語っています。

特に興味深いのが、写真の使用許諾についてです。コーヒー企業の依頼を受けて、生産地でのプロジェクトに数多く取り組んできたバウォットさんによると、被写体となる生産者は通常撮影を了承してから使用許諾書にサインするものの、許諾書にはその写真がどのくらいの期間使われるかは明記されていないことが多いのだそう。そのためたとえ撮影の目的が業界を支える生産者の姿を伝えることであったとしても、彼女は被写体が単なるマーケティングツールに成り下がってしまうことを危惧しているのです。そこで、企業が許諾書内に写真の使用期間を明記すること、そしてできあがった写真を掲載前に生産者に送って確認をとることを勧めています。

現在バウォットさんは、これまであまりスポットライトを浴びることのなかった女性生産者をテーマに、「女性性と親密さ」に焦点を当てたプロジェクト『We Belong』に取り組んでいます。既にコロンビアでの撮影はスタートしており、今後は周辺国やアフリカ、アジアへとプロジェクトを広げていく予定とのこと。写真を通じて新たな物語を伝える彼女の今後に目が離せません。

その他の気になるニュース

▷ SCAが初となる官能評価ハンドブック『Coffee Sensory and Cupping Handbook』を出版。コーヒー業界への教育的な側面と、他業界のコミュニティとの橋渡しとなることを目指しています。

▷ 「ミシュランガイド北欧2021」で新たに星を獲得した12のレストランの内、なんと5つがスペシャルティコーヒーを提供しているのだそう。未来のミシュランの鍵を握るのは食後の一杯になるかも。

▷ ラッパーのPropagandaが、エスプレッソマシンをモチーフとしたミュージックビデオを発表(曲名は「Calibrate」!)。昨年にはOnyx Coffee Labとのコラボ動画が公開されるなど、彼の創作においてコーーヒーが重要な地位を占めているのが伺えます。

▷ La Marzoccoがオートミルクスチーマー「Wally Milk」をローンチ。ミルクの種類 (植物性を含む)、温度や質感などを選択し、最大20種のレシピを登録できます。

▷ 2010年以降、東海道新幹線の車内販売首位を独走し続けているホットコーヒー。どうやらその秘密は、20回に及ぶフレーバーのリニューアルと出来立てにこだわる提供スタイルにあるようです。

 

 

What We're Drinking
今週のコーヒー

 DONGREE COFFEE ROASTERS

滋賀(地図

滋賀県湖南市のコーヒーロースター。 "五焙(ごばい)"という浅煎り〜深煎りの5種類のシングルオリジンを焼き分ける、独自のスタイルでコーヒーを提供。 旧東海道五十三次の石部宿にある古民家をセルフリノベーションした店内では、ブックカフェも経営中。

生産者:サンチュアリオ スル 農園

生産地域:ブラジル ミナスジェライス州カルモデミナス地区(地図

品種:ゲシャ

精製方法:ナチュラル

テイスティングノート:チョコレート、カシス、ベリー、バニラ

編集長のコメント:

もしかするとブラジルのゲシャを今まで飲んだことはなかったかもしれないと思い、かなり前のめりのテイスティングになりました。ドライフルーツのパインやアプリコットのような匂いが香る挽いたばかりのコーヒーにお湯を注ぐと、ふわりと空気に漂ったのは八ツ橋のような香り。カッピングスプーンでゆっくりとすくいあげた液体を啜ると、赤く芳醇な果実、まるでよく熟れたプラムのような甘さ強めの甘酸っぱさがありました。凝縮した果実味は少しねっとりとしたクリーミーな口当たり。カカオ85%のチョコレートを食べた後の時のような、長く長く続く心地よい苦味と自然な甘さの調和が素晴らしいです。全体的に重厚感があり落ち着いた雰囲気のこのコーヒー、個人的にかなり好みの味で、文句なしにとびっきり美味しかったです。

 


Artists in Residence
Standartを彩るアーティストたち

 アーティスト: 

ジョナサンVDK ウェブサイト Instagram

プロフィール:

オーストラリア在住のフォトグラファー。Monocle、Vogue Germany、the Wall Street Journalなど、ジャンルや場所を問わず、世界中のクライアントとの仕事に取り組んでいる。

最新の掲載記事:

Standart Japan第14号「私の特等席」

Inspiration
おすすめの本、映画、音楽、アート

『読む時間」- アンドレ・ケルテス

福岡市の「Books yometa!」で購入した一冊。写真家アンドレ・ケルテスが、世界各地で撮影した「読む」ことに心奪われた人々の姿を集めた古典的写真集の新装版です。ほぼ全ての写真が読書に耽る人を被写体としているものの、そのシチュエーションは公園のベンチや人ごみの中、道端で立ちながらなど、十人十色。背中を丸くしながら目線を紙の上に落とし、所構わず本の世界に没入する人たちの姿を見ていると思わず笑みが溢れてしまいます。巻頭には、谷川俊太郎が書き下ろした「読むこと」という詩も掲載されています。本当に愛着の湧く一冊で、リンクした紹介ページにも書いてあるように、大切な人へのプレゼントとしてもとても素敵な本です。

この写真集を眺めていると、ふとStandartやこのニュースレターがどんな状況で読まれているのだろうかとという問いが頭をよぎりました。朝のコーヒータイムのお供やお気に入りのコーヒーショップ、もしくは早朝のお布団の中でしょうか。皆さんの楽しみ方を共有していただけると嬉しいです :)



Brewing with…
あの人のコーヒーレシピ 

小川 隆仁・佑美

東京の堀口珈琲で5年働いたのち、地元の滋賀で妻と2人焙煎所をオープンしました。来てくれた人がほっとできる「町のコーヒー屋」を目指しています。
好きなこと:生物学者福岡伸一さんの本とゴリラ(夫)&ラジオを聴きながら朝のお散歩(妻)

セットアップ:

抽出器具: KONO式名門ドリッパー
豆量:20g(中煎り)
湯量:250g
挽き目:中粗挽き
湯温:92〜95℃
抽出時間:2:20

手順:

  1. お湯は10gずつ、中心から500円玉くらいの大きさで注ぐ
  2. 0:00〜0:30 最初はじっくり30gまで注ぐ
  3. 0:30〜1:30 150gまで注ぐ
  4. 1:30〜2:20 ペースを早めて250gまで注ぐ
  5. お湯は落とし切らない(コーヒーの出来上がりは180gくらい)

    ポイント:

    ▷ 焙煎度によってレシピを変えます。
    ▷ 浅煎りは粉17gの抽出時間2分、深煎りは粉25gの抽出時間3分です。
    ▷ レシピはあくまで目安です。だいだいで良いのでええ塩梅にドリップするのがコツです!

    コメント:

    琵琶湖の側の焙煎所。土日祝日はモーニング営業もしています。珈琲とトーストで一息ついて頂けると嬉しいです。


     

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    今週の The Weekend Brew は Standart Japan 第17号スポンサーの TYPICA、パートナーの Victoria Arduino x トーエイ工業Probat x DKSHSwiss WaterANKOMNのサポートでお届けしました。


    LOVE & COFFEE✌️
    Standart Japan
    (執筆・編集:Takaya & Atsushi)