#21: 隔たりを超えて

おはようございます。今週はどんな一週間でしたか?

セールスフォース・ドットコムの創設者マーク・ベニオフが執筆した『トレイルブレイザー』という本を最近読み終えたのですが、こんな一節がありました。

「成長か社会貢献か、利益創出か公益か、イノベーションか世界をより良い場所にするためかという二項対立ではなく、必要なのは両立させることである。良き行いと成功は単なる競争優位ではなく、ビジネス上の必須要素になりつつある。」

社会貢献活動というとNPOなどの特化型の組織を思い浮かべる人が多いと思いますが、マーク・ベニオフさんが書いているように、ビジネスとの両立が今どんな企業にも求められています。また同書には、「自分の価値観と共通するコアバリューを掲げる企業で働きたいと思う人が増えている」とも。仕事に利益以外の目的を持っていたい、自分が働く会社が世界をより良くするための施策にコミットしていて欲しい、と思う人が増えてきているということなのでしょう。

コーヒーに魅了されてこの世界に入ってくる方々のお話を聞いていつも感じるのは、自分の価値観と照らし合わせた上で、スペシャルティコーヒーをツールに未来を考えるこの業界の動きに共感を覚え、それが仕事のモチベーションになっている人が少なくないということです。スペシャルティコーヒーを扱い、提供し、それを飲むという行為が、人の生活や社会に貢献している実感を得られる機会になっているのかもしれません。

今週発送を開始した最新号のStandart Japanのパートナーを務めてくださったMiiRもビジネスと公益を両立しているブランドです。今週公開したこちらのブログ記事で、同社の「Product to Project」という取り組みについてご紹介しているので、ぜひご覧ください。プロダクトの価値だけではなく、ブランドの志(バリュー)を知ることで、身の回りのものを見る目が変わるはず。

最近はようやく冬っぽくなってきました。暖かい部屋で、おいしいコーヒーを淹れてソファに座り、Standartを楽しんでくださいね。最新号のご感想もぜひ聞かせてください。

編集長 Toshi

 

This Week in Coffee 
世界のコーヒーニュース

税を尽くす

米国のスペシャリティコーヒー業界で、主に黒人コミュニティや周縁化された人々に対して財政サポートや税関連の教育サービスを提供する団体Coffee and Tax。創業者のTiani Wrightさんは自身の黒人女性としての経験から黒人コミュニティの税金リテラシーに問題意識を持ち、同活動を開始。個人に対するサポートに加え、今後は正式なNPO認証獲得を目指すとともに、中高生に納税者の義務と権利を伝えるプログラムも計画中だそう。
 
WrightさんはポッドキャストBoss Baristaの中で自身の活動を「子どもたちのために社会の定説を変えること」と表現しています。例えば米国ではチップを含む正確な所得申請を行えば、税引後所得を合法的に最大化できる一方、 特に黒人コミュニティではそのような権利があることさえ知らない人が多いのだそう。このように人種や経済的地位を背景とした知識・リテラシーの格差は、機会の不平等に直結するだけでなく、世代を超えて子どもたちの進学や就職といった格差の連鎖を生み出しているのです。Wrightさんの言葉には、そんな現在と未来の格差撲滅を目指す強い思いが込められています。

Sprudgeとのインタビューでの「繋がりこそがコーヒーの特別な魅力であると思う」という彼女の言葉からは、コーヒーが人々の輪を超え、社会の問題とも繋がっていく様子が想像できます。一見遠い問題がコーヒーを通じて自分事として感じられる。そんな共感と行動こそが、美しき未来の実現への大きな一歩なのではないでしょうか。

 

Thank YOU

米国に発達障がい者をスタッフとして雇用するカフェGerry’s Caféがオープン予定。創業者の一人であるNatalie Griffinさんは、同じく発達障がい者をスタッフとして起用するBitty’s & Beau’s Coffeeを訪れた際に、一人一人が誇りをもって仕事に取り組んでいるスタッフと喜びに満ち溢れるコミュニティ空間に感銘を受け、カフェの開業を決意したそう。
 
両カフェに共通するのは、フードやドリンクを買い付けではなくスタッフが調理を行い提供しているという点。GriffinさんはGerry’s Caféに関わる全ての人がバリューを感じるためにも、スタッフが調理し、お客さんも料金に見合った食事やコーヒーを楽しむことで、全ての人が良い関係を築くことができると話しています。
 
また同カフェは22歳以上のスタッフを雇用しており、その背景にはイリノイ州の州法によって、22歳を迎えると特別支援を必要とする人々が学校に所属できないという現状があります(現在修正法案の採決中)。米国では今日の障がい者雇用の現状が問題視されており、知的・発達障がいを持つ人々の約80%が雇用されていないことに加え、非正規雇用率の高さや人種による雇用率の格差など早急な対応が求められています。
 
日本国内では、以前のWeekend Brewで紹介した Social Good Roastersでもハンディキャップのあるバリスタや焙煎士が活躍しています。「福祉もコーヒーも、どちらもヒトが主役」という彼らの言葉は、私たちの日常が、何気ない出会いや繋がりなど、いつも他者の存在によって彩られているのだという大切な気付きを与えてくれます。「感謝」の反対は「当たり前」。あらゆるモノや情報にワンクリックでアクセスできる時代だからこそ、当たり前というかけがえのない存在に「いつもありがとう」と伝える習慣を大切にしたいです。

 

その他の気になるニュース

▷ プラスチックボトルよりもガラスの方が環境負荷が大きいという研究結果が発表されました。社会全体として使い捨て飲料容器の使用からリユーザブルな習慣への移行が求められています。

▷ アメリカ・インディアナポリスに女性経営者が運営するビジネスに焦点を当てたカフェがオープン。女性が経営する企業の商品を店頭に並べることで、男性中心になりがちなフード・コーヒーコミュニティでの認知向上を目指します。

▷ 今年度のSprudge Awardsのノミニー投票がスタート。投票プロセスは全て無料で、締め切りは日本時刻の12月7日。あなたのお気に入りのロースターやポッドキャスト、そしてStandartに是非清き一票を。投票はこちらのURLから。

▷ メンタルヘルスに悩むサービスワーカーの急増を受け、非営利団体GoFundBeanとオーツミルクメーカーOatlyが共同で無料バーチャルセラピーを提供すると発表。受講者は人種や経済状況に配慮のうえ抽選で選ばれます。

▷ スターバックスのバリスタSteve(仮名)が、想いを寄せる女性に渡したテイクアウトカップの“秘密の恋のメッセージ”がTikTok上で話題に。ホットラテより熱い恋の予感。ちなみに受け取った女性は既婚者でした。

 

 

What We're Drinking
今週のコーヒー


STRINGS COFFEE ROASTERS
島根

島根県出雲市にある珈琲焙煎所。「おいしい珈琲のあたりまえ」にこだわり、世界中から厳選した最高品質の生豆だけを使い、その豆の特徴に合わせ、丁寧にじっくりと焙煎したコーヒーを提供している。

生産者
ウェラシャトレーディング社
生産地域
エチオピア コンガ地区(地図
品種
アラビア種 741・74110 イルガチェフェ G1
精製方法
完熟豆収穫から4時間以内に精製するフレッシュウォッシュド
テイスティングノート
アプリコット・プラム・アップル・ジンジャー

 

Standartの感想:

旨味のある出汁とフレッシュなリンゴジュースを併せたようなコーヒー。緑茶の後味のようなニュアンスがあり、飲んだ後に爽快感があります。冷めてくるとジューシーな洋梨のような甘さも。クリーンな飲み口でグビグビいきたくなっちゃいます。朝食のアボカドトーストやエダムチーズを挟んだホットサンドなんかと合わせると最高にマッチしそう。きっと毎日飲んでも飽きがこないだろうなと思わせてくれるコーヒーです。

 


Inspiration
おすすめの本、映画、音楽、アート

チョコレートの手引 - 蕪木祐介
購入 | インタビュー

チョコレートメーカーでカカオとチョコレートの研究・開発に携わっていた蕪木祐介さんによる著書。チョコレートがどうやって作られているかはもちろんのこと、生産地の情報や歴史、味わい方やペアリングについて、そしてミニコラムでは豊さとは何かといったところまで踏み込みます。チョコレートはコーヒーよりもはるかに歴史が古いのですが、コーヒーと精製方法から生産国と消費国の状況までよく似ていて、共通点を探しながら読むのもおすすめです。スペシャルティコーヒーのように、Bean to Barチョコレートが少しずつ身近になってきていますが、あとがきに書かれてた言葉にハッとしました。「大手メーカーのチョコレートというと大量生産の無機質な安いチョコレートというイメージがあるかもしれませんが、そこには何十年にも渡って研究された知見と技術、ノウハウがあります。そして何より、技術者たちの誇りと使命感や強い思いが詰まっています」(一部省略)移転する前のお店に伺った際に購入したこの本は、タイトルの通り、チョコレートがもっと好きになるきっかけを与えてくれました。- Toshi

Stay in the Dark - Lambert
SpotifyApple Music

特に目的もなく散歩するのが好きで、最近は人混みを避けるために夜外に出ることが多いんですが、そのときによく聞くのが、ドイツ出身の覆面ピアニストLambertが2015年に発表したこのアルバム。彼の音楽に関して面白いなと感じるポイントが、1曲1曲が「悲しい曲」とか「明るい曲」といったラベルで表現できず、聞いているとさまざま感情やイメージが浮かんでくるところです。例えば2曲目の「As Ballad」は、ゆったりとした夜明けや希望の光を感じさせる冒頭部から一変、中盤にさしかかる箇所ではアルペジオの音色が胸騒ぎや喧噪をイメージさせます。そこから終盤にかけて、疲れ切った体で再び歩き出すように音が重ねられ、エンディングでは冒頭と同じメロディが繰り返されているのに、どこか影を感じさせます。このような多面的な曲作りについて、彼自身はあるインタビューで即興演奏(インプロ)に若い頃から傾倒していたことが背景にあるのでは、と話しています。また別のインタビューでは、トレードマークの覆面を被る理由について次のように語っていてしびれました。「アーティストは物理的なマスクをしてようがいまいが、ステージに上がる瞬間にある種のマスクを全身にまとっている。だから『オーセンティシティ』なんて言葉はマーケティング文句でしかない。作曲の仕方を考えると、私はむしろ自らの音楽を通して自分自身をさらけ出し過ぎているくらいだ。人はこれ以上に私のパーソナルな面を見たいとも思わないんじゃないかな」- Atsushi


Brewing with…
あの人のコーヒーレシピ 

西村 結衣
aka ゆいた

学生時代に毎週通っていたオニバスコーヒーのパブリックカッピングにてコーヒーの虜になる。蔵前にある「Nui. Hostel & Bar lounge」のメインバリスタである傍ら、コーヒーの楽しさを発信するために自らイベントを開催中。最近ハマっているのは、スパイスカレー作り、コンブチャ作り、しば犬の散歩。

セットアップ:

抽出器具:ORIGAMI ドリッパー (フィルターはAbaca coffee paper filter )
豆量:12g
湯量:200g
挽き目:中挽き(Wilfa Nymalt : Filter)
抽出温度:93℃
抽出時間:2:30

手順:

  1. 1投目 35g(0:00-0:30)
  2. 2投目 65g(0:30-1:05)
  3. 3投目 50g(1:05-1:40)
  4. 4投目 50g(1:40-2:30) 落切り

ポイント:

▷ エイジングなどによって攪拌回数や1投目の秒数を変える
▷ 3、4投目は雑味や苦味が出ないように丁寧な注湯を心掛ける

一言:

コーヒーの自由で多様なところが大好きです。そして無限に存在する美味しさや理論に向かって沢山の人がチャレンジ精神を持ち続けているカルチャーも大好きです。 少し大袈裟に聞こえるかもしれませんが、この仕事に就けて本当に幸せで毎日が楽しいです。 でも今は楽しいだけじゃなくてどうしたらみんなが継続していける世界になれるのか、より良い文化が築けるか、個人的にも事業としても模索中です。

  

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今週の Weekend Brew は Standart Japan 第14号スポンサーの Victoria Arduinoトーエイ工業、パートナーの MiiR JapanBarista Hustle JapanSucafinaのサポートでお届けしました。

LOVE & COFFEE✌️
Standart Japan 

(執筆・編集:Takaya & Atsushi)

#21: 隔たりを超えて

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