#13: ネバーストップ

#13: ネバーストップ

おはようございます。今週はどんな一週間でしたか?

Standart Japan 8号の記事でインタビューした、廃材をアップサイクルするバッグデザイナーの岡本 由梨さんが、病院の中にあるカフェの役割についてnoteに記事を投稿されていました。

お子さんの入院生活についてのお話も書かれていて、子を持つ親としてグッと感情移入しつつ、病院にカフェがあったことでどれだけ救われたかというお話に、「カフェってそうだよね」と頷かずにはいられませんでした。病院という非現実的な場所で、日常の香りを感じてほっとしたという岡本さんの言葉が印象に残っています。

そして同じくコーヒーやホスピタリティ業界に救われたと考えている方がいます。今週金曜に、Standart Japan第13号の長編記事「コーヒー界のニューロダイバーシティ」をテーマにしたインタビュー記事をブログにアップしました。もっとこの問題を身近に感じてもらいたいという思いもあり、日本でコーヒーの仕事に携わり、ADHD(注意欠如・多動症)当事者でもあるT&M COFFEEの宮城 穂健さんにご協力いただき、診断までの過程やその後についてお話を伺っています。きっと新しい視点を得ることができるはずです。

今週のStandart Japanは、次号の校了に向けて追い込み中。毎号、この時期にコーヒーの消費がよく増えます。しばらくは夜のコーヒーが手放せません。

Toshi & Atsushi

 

This Week in Coffee 
世界のコーヒーニュース

生産処理のトレンド

ユニークなフレーバーや高いカッピングスコアが求められる現代のスペシャルティコーヒー市場で、生産者は市場の要求に応えるべく革新的な生産・精製方法の導入に力を入れています

その事例のひとつが、収穫後のコーヒーチェリーを密閉タンクに入れて嫌気性発酵させる際に他の果実や果汁を加えるというもの。例えば、みかんを加えてシトラスフレーバーを生み出したりできるそうです。果実や果汁がどれほどコーヒー豆のフレーバー自体に影響を与えるのかについては、まだまだ研究の余地がありますが、生産者は自分たちの感覚を信じて新しいフレーバーの開発に挑戦しています。

また、こちらの記事ではインドの面白い精製法が紹介されています。発酵段階で乳酸菌を使いミルキーなフレーバーを作り出す方法や、コーヒーチェリーの外皮を取り除いた後に冷燻することでスモーキーなフレーバーをつける処理法、ウイスキーの樽に生豆を一定期間入れてオークやバニラといったフレーバーを豆に吸収させる手法まで。ウイスキー樽はロブスタ種のフレーバーを向上させるためにも使われているそうですよ。

このような生産処理によって得られる恩恵の影には、当然リスクやコストが増大する可能性が潜んでいるものの、生産者自らがイノベーションを推進し、自分たちで新しい道を切り開いていくことも大事です。一部の生産国ではこういった生産処理が世界の市場で戦っていくうえでの突破口にもなるでしょう。どんなコーヒーがこれから生まれるのか、楽しみですね。

 

ドーナツ経済学からコーヒーのサプライチェーンを考える

「21世紀の人類のチャレンジは、全人類と地球環境のニーズを合致させることで、それができれば人間と自然は共存し繁栄できる」そう語るのは、オックスフォード大学の経済学者ケイト・ラワース氏。彼女が提唱するドーナツ経済学をベースに、コーヒーのサプライチェーンを改善しようとしているオランダの生豆の卸業社 Traboccaが、自社の取り組みについてこちらの記事で紹介しています

このドーナツ経済学とは、経済成長だけに注目せず、持続可能な未来をつくるために環境面での超過と社会面での不足をなくしていこうという考え方のことをいうそうです。それを可視化したものがドーナツの形に見えることからこの名前がついています。ドーナツの穴と外側にそれぞれ異なる指標(社会と環境)が配置されています。

コーヒー生産は、SDGsで提唱されている「誰も置き去りにしない」理念に当てはまらない人々が多く従事していると同時に、地球環境の破壊も引き起こしています。スペシャルティコーヒーは違うと思いたいところですが、環境破壊の規模はもちろんのこと、生産者たちの暮らしが社会全体として向上しているかどうかはまだ詳しくはわかっていない部分も多いのだとか。

Traboccaは、コーヒーの社会的なインパクトを測定するためには、生産者の生活所得をモニタリングする必要があると考えました。ですが、複雑で不透明なコーヒー業界のサプライチェーンでは、インフラもまともに整っていない地域に住む生産者の所得や出費を把握することは困難です。そのため、まずはサスティナブルな食糧システムを目指すFairfoodが提供するサービスを利用してサプライチェーンを可視化し、さらには非営利団体と協力してモニタリングを開始するとのこと。彼らの動向に注目していきたいです。

その他の気になるニュース

▷ 「コーヒーを飲む体験を旅とするならば、音楽はその旅の重要な要素だ」NYをベースに、コロンビア産のコーヒーに特化した店を展開するDevocion Coffeeが、コロンビアの文化やエッセンスが詰まったプレイリストを公開。脳内トリップできます。

▷ 国際コーヒーの日に、人種の多様性と公平な業界の実現を目指す団体 Coffee Coalition for Racial Equityが発足されました。コーヒーの歴史を支えた人種の役割を見直し、サプライチェーン全体の人種的公平性を考えていきます。

▷ ポルトガルの科学者が抽出後のコーヒーかすからコーヒーリカーを作り出すことに成功。レシピは水に入れたコーヒーかすを160度ほどに熱し、砂糖と酵母を加えて醸造、蒸留するというもの。コーヒーのアロマだけでなく、カカオやタバコといったフレーバーもあるのだとか。

▷ World Coffee Researchは、コロンビア大学地球研究所で気候と農業を専門とするWalter E. Baethgen博士と共にオンラインセミナーを開催。気候変動がコーヒー生産に与える影響とその脅威について、現状と近い将来の予測や対策を知ることができます。

▷ アメリカのガソリンスタンドチェーンMirabitoが、コーヒー1杯につき28セントを乳がんの研究に募金する Pink Cup キャンペーンをスタート。ピンク色のカップを持ったコーヒーラバーが街に増えそうです。

 

What We're Drinking
今週のコーヒー

 

aoma coffee
大阪

作り手(生産者)から引き継いだ豊かな豆の個性を「足さず」「殺さず」「見つけて」「活かして」「整える」。そこから生まれたコーヒーを通じて、飲む人の情緒を動かし、それをコーヒーの未来に繋げることを使命としているaoma coffee。「生産者がはっきりと見える、刺激的で美味しいコーヒーを買い付けます」と力強い言葉で語るオーナーの青野 啓資さんは、作り手たちの想いと産地で感じた豊さを伝えています。

生産者: 
Ismael Recinos

生産国:
エルサルバドル、チャラテナンゴ県ラ・パルマ市(地図

品種:
パカマラ

精製方法:
ハニープロセス

テイスティングノート:
林檎やラズベリー、葡萄といった風味に、シロップ漬けフルーツの強烈な甘さ。蜂蜜のようなとろりとした口当たり。甘さが詰まった、パカマラ種の特徴がしっかりと出たコーヒーをぜひ体験してください。

編集長のコメント:
挽いた豆からはまるでミートソースのような濃厚な香り。そしてスプーンですくったコーヒーを口に入れると、たわわに実ったみずみずしい巨峰が目の前に浮かびました。それも、びっくりするくらい鮮明に。甘ずっぱさを感じたかと思うと、すぐ後を追うようにちょうどよく熟れた果実の甘みが口に広がります。名残惜しみながらも飲み込んだ液体は喉の奥に消えていくと共に、柔らかい後味を残してくれました。


Inspiration
おすすめの本、映画、音楽、アート

Noble Rot Magazine
ウェブサイト

三年前にベルリンの本屋で出会ってから大好きになったロンドン発のワインカルチャー雑誌。Standartの誌面づくりにもインスピレーションをよくもらっている同雑誌は、2013年のクラウドファンディングでスタートしました。2015年には雑誌の空気感をリアルな空間で表現したワインバー&レストランもオープンしてます。カタログのようなワイン雑誌が多い中、Noble Rotはワインとフードカルチャー、そしてクリエイティブなアートをバランスよく組み合わせた雑誌で、フードライティング/ジャーナリズムの歴史を塗り替えたLucky Peach(廃刊)のワイン版とも言えるくらい、毎号学びと笑いを与えてくれるし、食欲やワイン欲をそそられます。いつかお店にも行ってみたい。 - Toshi
 



Philosophy Bites Podcast
ウェブサイト

哲学者とのインタビューを通して毎回あるトピックについての理解を深めるポッドキャスト。扱う話題はコスモポリタニズムや自由意志から教育、差別問題など小難しい社会的な内容が多いものの、1エピソードあたり15〜20分程度で基礎的な情報から最近の議論までカバーされているので、「この言葉、聞いたことはあるけどどういう意味なんだろ?」とか「この問題について今までどんな議論がなされてきたんだろ?」といった疑問が浮かんだときのとっかかりとして聞くのにぴったりです。おすすめは「What is a Woman?」と題された2つのエピソード(1つめ2つめ)。少し立場の異なる2人が語るフェミニズム像から、ジェンダー差別問題に関する課題が浮き彫りになります。- Atsushi 


Brewing with…
あの人のコーヒーレシピ 

 

小倉貴幸

神奈川県横浜市出身。メルボルンや香港、シンガポールでバリスタとして働き、現職はKOFFEE MAMEYAのバリスタ(兼声出し担当)。 趣味はバスケで、週一のペースでプレイ。そして今まさにNBAファイナルが超熱いのでぜひ。

セットアップ:
抽出器具:お茶パック×2
豆量:60g(浅煎りのコーヒー)
湯量:900ml(明治おいしい牛乳 )
挽き目:中細挽き(コマンダンテなら15-16click位)
抽出時間:冷蔵庫で8時間抽出

手順:

  1. コーヒー豆60gを中細挽きにグラインド
  2. 30gずつお茶パックに詰める
  3. 牛乳パックの上部を開いて、粉の入ったパックをどぼん!
  4. 8時間冷蔵庫で抽出
  5. 8時間後にパックを取り出し、しっかり底まで混ぜる(Enjoy!)

        ポイント:
        粉を取り上げてからすぐ飲んでも良いのですが、そこから更に一晩寝かすとコーヒーと牛乳がよく馴染んでより一層美味しいですよ。飲む前に底まで混ぜる事も忘れずに。豆乳で作ってみると、きな粉餅のような味わいになって美味しいですよ。あと、グラノーラにかけても:)

        一言:
        今回はシナモンのようなフレーバーが特徴のCosta Rica El Diamante Anaerobic Fermentation roasted by Ditta Artigianaleを使用。出来上がりの味わいはまるでチャイラテでした!


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        今週の The Weekend Brew は Standart Japan 第13号スポンサーの Daterra、パートナーのトーエイ工業Swiss WaterDepartment of Brewlogy のサポートでお届けしました。

        LOVE & COFFEE✌️
        Standart Japan