#116: 接吻、ビール、コーヒー

#116: 接吻、ビール、コーヒー

おはようございます。今週はどんな一週間でしたか? 

今週は、Standartコミュニティで日本のコーヒー業界における女性バリスタへのハラスメント問題についてのトークセッションを開催しました。ナビゲーターを務めたのは、Standart Japanのカスタマーエクスペリエンスを担当するNanako。そしてゲストに第18号「僕の周りのジェンダーギャップ」の執筆者である中村佳太さんと、女性のコーヒー従事者たちをお迎えしました。

事前のアンケートでは合計35名の方からご回答をいただき、当日のセッションでは貴重な意見交換が行われました。残念ながら当日参加できなかった方は(私含む)、後日レコーディングをコミュニティ内で公開しますので、そちらでも引き続きディスカッションを進めていくことができればと思っています。

今回のイベントを開催してみて感じたことがあります。

現在住んでいる福岡のとある町で昨年から個人的にコーヒーショップを運営しているのですが、それまで愛着をなかなか持てずにいた「他所の地」(生まれ育った地以外)が本当にゆっくりとですが自分の場所になっている感覚があります。それはお店という場所があることで人とのつながりが生まれ、今まで気薄だった街への愛情がだんだんと芽生えていくような気持ちです。同様に、読者限定のスペースにはなりますが同じような嗜好や趣味、問題意識や目的を持った人々が有機的に繋がっていく場所にStandartコミュニティが今後なっていけるんじゃないかという可能性を強く感じました。皆さんがこの場所を自分なりに活用し、コーヒーの今未来過去を考えたり、楽しみ方の幅を広げていけると良いなと思います。

今週は次号のリリース準備に追われていました。一足先に届いた最新号のサンプルを使ってAtsushiがウェブサイト用の写真を撮影していたので、その様子をチラ見せ リリースまであと少し、楽しみにしていてくださいね。 

それでは今週も良い週末を。

編集長 Toshi

 

 

 

 

This Week in Coffee 
世界のコーヒーニュース

 一括りを解いてみると

オーツミルクを筆頭に、近年消費者のライフスタイルの一部になりつつある植物性ミルク。次々に新たなブランドが生まれており参入障壁は低いのかと思いきや、こちらの記事によれば、動物性ミルクに近い口当たりや味わい、見た目、栄養価を実現するには、複雑な工程を経なければならないそうです。

同記事によると、植物性ミルクの製造方法は大きく分けて2種類あります。一つ目は、大豆やオーツ麦などの原材料を粉末化し脂質を抽出する方法。このとき粉末の粒度が大きいと、水に溶けないデンプン粒子やタンパク質の凝集によって、口触りを損ねてしまう原因になるのだそうです。

二つ目は、あらかじめ準備された植物油や植物性タンパク質を混ぜ合わせて均質化する(脂肪球を細かく砕き、均一な味わいにする)方法です。こちらの方法だと、理想的なマウスフィールを生み出しやすく、複数のタンパク質や脂質を利用できるうえ、均質化の途中でビタミンなどの栄養素も追加できるといった利点があります。しかし1つ目の方法と比べて製造に要するエネルギーが多いことから、環境負荷も増大するという欠点があります。

最新の研究で、各植物性ミルクの微量栄養素の違いが明らかになっています。例えばエンドウ豆ミルクは、動物性ミルクと比較してリンの平均含有量が30%、セレニウムは80%多く、ソイミルクの場合、マグネシウムの平均含有量が動物性より50%多いのだそう。新たな代替ミルクが次々に登場する中、消費者は「ミルク」という商標バイアスを意識しながら、それぞれの違いに意識を向ける習慣が大切なのかもしれません。

 

気になるニュース

▷ エスプレッソメーカーのシモネリが、ヨーロッパ・スペシャルティ・ティ協会 (ESTA)に加盟コーヒーとお茶両方のコミュニティに向けて、トレーニングコースの拡張やイベント・ショールームの共同利用などが検討されています。ちなみにグループ会社ヴィクトリア・アルドゥイーノのエスプレッソマシンBlack Eagle Maverickではお茶も抽出できます

▷ 以前紹介した、ラッキン・コーヒーの元創業者らによる新たなコーヒーチェーンCotti Coffeeの1号店が遂にオープン。夜には食事・ワインを提供し、今後はテイクアウト専門店舗の展開も予定。また来月カタールで開催されるサッカー・ワールドカップでは、アルゼンチン代表チームのスポンサーを務めるそうです。

▷ NY州ヨンカーズ出身のベテランラッパー「ジェイダキス」が、父・息子と共同でコーヒーブランドをローンチ最初の商品は、ポルトガル語でキスを意味する「Beijo(ベイジュ)」と名づけられた中南米産のアラビカブレンド。NBA選手ジミー・バトラーによるBIG FACEをはじめ、近年著名人のコーヒービジネス参入が増加しています。

▷ ウガンダペルー、そしてオマーンで初のエアロプレスチャンピオンシップが開催予定。先日の史上最年少13歳のチャンピオン誕生に引き続き、今年はエアロプレスがアツい!

▷ 中国・瀋陽市でオープンした、ポップアップのコーヒーショッ。ミニマルな店内をよく見ると、椅子やテーブルに使用されているのはなんとビールケース。ビールを愛する瀋陽市のローカル文化とコーヒーカルチャーの融合を図ったデザインなのだそうです。

物足りないあなたへ

ユーチューバー、エマ・チェンバレンさんのコーヒーブランドChamberlain coffeeが新たにチャイを発売。コーヒーポッドキャスト「Filter Stories」のホストであるジェームズ・ハーパーさんが、新たなポッドキャストシリーズ「The Science of Coffee」をローンチ。2021年WBrC (ワールドブリュワーズチャンピオンシップ)第2位の畠山大輝さんが、初の実店舗をオープンしました。

 

 

What We're Drinking
今週のコーヒー

 

GUUUTARA COFFEE 東京地図

私たちは人の生活に寄り添いお茶の時間のキッカケになりたいモノづくりのお店です。お店は三軒茶屋駅から徒歩8分、閑静な通りのビル地下にあります。「(日常の中で)お茶をしようよ」というお店のメッセージを発信する場として、今夏にオンラインストアもオープン。少しずつ、より多くのお客さまとつながる機会を増やしていきたいと思っておりました。当選されました方の「お茶の時間」のキッカケになりますと幸いです。

 

生産者 Jenberu Alemayehu 

生産地域エチオピア イルガチェフェ(地図

品種74112

精製方法ナチュラル

テイスティングノート
ストロベリー、チェリー、レッドグレープ、ラウンド&スイート

編集長のコメント:

カッピングボールにお湯を注ぎ鼻を近づけると、香草や杉の木のような香りが立ち登り、ふと思い出したのはずいぶん昔に住んでいたオーストラリアで体験したアウトバック。少し内陸に行くと広がる赤茶色の土と木肌が所々焼けた跡のある木々や、劣悪な環境でもたくましく育つ緑緑しい木草。力強いコーヒーだなというのが香りからわかります。飲み口は果実感を感じ軽やかな印象なんですが、すぐにスモーキーな味わいからウッドのニュアンスへとグラデーションで移行していきます。まるでスモーキーな樽感を感じるボルドーワインのようで、香りでも感じたハーブっぽさや甘さ、熟成された赤ワインのような濃縮された葡萄を感じ取れます。ベイクドアップルやホットワインに浮かぶ柑橘類といったニュアンスも。木の皮が焼けたときに感じる甘いトーンの香りが心地よく、舌に残る柔らかな質感とどっしりとした樽感の余韻が長く続きます生クリームを使ったケーキやどっしり目のスイーツには絶妙にマッチしそうです。どのコーヒーにも言えるとは思いますが、特にエチオピアは特徴のあるコーヒーが多いためか、煎り具合で本当に全く異なる表現を体験することができ飲んでいてとにかく楽しいですね。ごちそうさまでした!


What's New in the Community?
Standart Communityで起きていること

 

今週のStandart Communityでは、毎週日曜日配信のコーヒーラジオ「コーヒーを読む日曜。」の共同ホストいざわさんが、SCAJの感想と共にアーカイブ配信のシェアを行いました。毎週「the Weekend Brew」の最新号を読みながら、コーヒー周りの近況について語り合う同ラジオ。Standart Japanメンバー一同拝聴しており、日曜日の習慣の一つです。ちなみに本日18:00まで、高円寺のMÖWE COFFEE ROASTERSTシャツの展示会も開催しているらしく、お近くの方はぜひ立ち寄ってみては!

※Standart Japan​定期購読者の皆さんにはCommunityへの招待状をメールでお送りしています。まだの方はぜひご参加ください!

 

Inspiration
おすすめの本、映画、音楽、アート

We Act!

先日のSCAJから帰ってきて、しばらく留守にしていた自宅の机の上にぽんと置かれていた封筒から出てきたZine。あれこれなんだっけ?となぜ・いつ頼んだかも忘れてしまっていたんですが、パッと手に取れるサイズ感で色もよく、本棚の積読タワーではなくバッグに放り込んで移動の合間やランチタイムに少しずつ読みました。We Act!は、ニューヨーク在住で、ファッションから政治問題まで幅広いジャンルで執筆するライター佐久間裕美子さんが出版されたZine。2018年に日記メディアとしてスタートしたニュースレターSakumagから生まれた、読者参加型かつメンバー有志によるサイドプロジェクトの集合体Sakumag Collectiveへと進化を遂げました。このZineは、Sakumag読者であり、コレクティブへ参加したメンバーたちが、各々のできる形で社会を変える(自分を変える)ために取り組んだこれまでのアクションをまとめた冊子です。ジェンダー、環境、人生、仕事、政治、人権、そしてSakumagコレクティブの7分野で起こしたアクションが、メンバーひとりひとりの目線で語られています。そのひとりひとりと自分の考えを照らし合わせながら読み進めていくと、ドクドクと血がたぎるような感覚があり、こんな本にもっと若い頃に出会っていたら社会への見方は今とはもっと違ったものになっていたかもしれないなと感じました。佐久間さんが最後のエッセーで「大人になって試されるのは、どれだけ『知っている』と思ってきたことを捨てられるかだ。」と書いていて、黒く太い線を引きました。

 

Brewing with…
あの人のコーヒーレシピ 

 

清水 優香 シミズ ユウカ

兵庫県出身、たまたま旅行で訪れた岡山県の自然と暮らしのバランスのちょうど良さや、穏やかな瀬戸内海、人の温かさに魅了され、今年5月に岡山県へ移住。短大卒業後は地元で保育教諭として3年勤務。その間に、スペシャリティコーヒーと出逢い、ドリップやラテアート、焙煎などのワークショップを受け、さらにコーヒーの虜に。退職後、京都にあるスペシャリティコーヒーロースター、Kurasu Kyoto にて約半年勤務。その後、「久遠kuon coffee」を開業し、岡山県を拠点に間借り営業で活動中。年明けからは、倉敷市児島にあるDENIM HOSTEL float や岡山駅近くにあるゲストハウスとりいくぐるにて、フリーアコモデーションの傍ら、活動。現在は保育士とバリスタの二足の草鞋で活動中。

5 questions

今気になっている問いは?

「人はなぜ口に入れるものにこだわるのか」
最近読んでいる本に、簡単に言うと”胃袋におさまってしまえば皆おなじ”というようなことが書いてあって。確かにそうだなぁとは思うんですけど、そう分かっていたとしてもこだわってしまうのは何故なのか。なんとなく真意を突いているような気がしています。
飲食業をしている身からすると少し耳が痛い話ですが、“それでも尚飲みたくなるコーヒーとは??” 自分の中で一度向き合ってみるべき問いだなと感じています。(今少し考えてみただけでも、美味しいものを食べている飲んでいるその空間、気持ちの共有、味覚嗅覚が喜ぶ感覚を味わいたいから等こだわってしまう訳はいろいろと思い浮かぶ、体験含めてこだわりたくなるのかな......じっくり考えてみたいです)

 

お気に入りの場所は?

「王子が岳」
初めて旅行で訪れた時から、ここからの瀬戸内海の景色に心を掴まれ虜に。また、王子が岳の麓にあるDENIM HOSTEL floatという瀬戸内海が一望できるゲストハウスにて数ヶ月過ごしていた事もあり、人生で1番眺めた海という愛着も。刻一刻と変わる表情から目が離せません。晴天の蒼くキラキラと輝く瀬戸内海も好きですが、霧がかった白く曖昧な表情の瀬戸内海も大好きです。ぼーっと海を眺める時間は必須。1人で訪れたりもします。ただどんな時もそこにいる穏やかな瀬戸内海が、どんな自分もまるっと包み込んでくれるような気がして心が落ち着くお気に入りの場所です。

 

譲れないこだわりは?

「睡眠の質」
昔からよく寝る子だったらしく、その名残か何も予定がなければ今でも21時頃にはベットに入っています。常にいかに翌日の朝を気持ちよく過ごせるかについて研究しています。やはり一日の始まりをどう過ごすかは、その一日をより良く過ごすことに繋がると思うので! ぐっすり眠れると聞けば寝る直前にヤクルトやホットワインを少量のんでみたり。色々試しましたが、今はパロサントを焚き、ストレッチポールで身体をほぐしてからベットに入るとぐっすり眠れて、翌日もすっきり目覚められるのでこの方法で落ち着いています。身体や環境は日々変化するので、これは永遠のテーマだと思っています。

 

今誰と一緒にコーヒーを飲みたい?

「普段、あまりコーヒーに馴染みがない人と」
どうしても自分1人でコーヒーを飲んだり、同じ業界の方と飲んだりすると、同業者的視点になり、あーでもないこーでもないと、頭を働かせながら飲むことになってしまうので。シンプルにコーヒーやその空間を感じ、美味しく楽しく味わえるのは、あまりコーヒーに馴染みがない人と飲むことかなと。今は自分のお店にも活かせるよう、そのような体験を欲しています。結局、同業者的視点になちゃってます(笑)

最近のやらかしエピソードを教えてください

月に数回、月曜日にとある会社の駐車場で、お昼時に合わせて出店させて頂いています。その日も設営が終わり、無事開店! 一人目のお客様が訪れお会計も終わり、「ドリンク作るので少々お待ち下さい〜」と呑気に言ったところで、仕込んでいたコーヒーたちを全て家に置いてきた事に気がつくという(笑)。やらかしました。
これはやばい!ととても焦ったのですが、幸い自宅から車で片道3分で着く場所での出店だったので、急いで取りに帰り、すぐにドリンクを届けることができました。お待たせしてとても申し訳ない気持ちでいると、「コーヒー屋がコーヒー忘れてどうするの笑」と笑い飛ばしてくださり、心が救われる思いでした。

 

Fancy a refill?
編集後記 

前から歩いてきたサラリーマンらしき背の高い男性。光沢ある高級そうなセットアップのスーツの下から、ボタンを3つ開けたシャツをのぞかせている。その下から、首元がキュッと締まるタイプの丸首白Tも顔をのぞかせる。

こういうスタイルもあるのだろう。サンダルにソックスって組み合わせもあるし、あえてこの空間を埋めにいく一つの着こなし術なのだ。いやもしや、これはVネックTの逆襲なのではないかと思えてきた。Vネックの価値を人々が軽んじたあまり、フラストレーションの溜まったVネックが、気づかぬ間に己を丸首に変え、持ち主はそのまま外出してしまう。この人と同じ現象が世界同時多発的に起こっているのかもしれない。恐ろしや。

なんて考えていると、身の回りのモノが一揆を起こすとものすごく厄介だと思う。茹で時間が毎回定まらない「パスタの逆襲」。毎朝起きたら配置が変わっている「家具の逆襲」。めちゃめちゃ辛い。身の回りの品に、感謝を忘れずにいよう。

Takaya

 


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今週の The Weekend Brew は Standart Japan 第21号スポンサーのTYPICA、パートナーの Victoria Arduino x トーエイ工業FAEMA x DKSHSwiss Waterブルートーカイコーヒーのサポートでお届けしました

LOVE & COFFEE✌️
Standart Japan
(執筆・編集:Takaya & Atsushi)