3都市開催「コーヒーのアップサイクル」トークイベントの様子

3都市開催「コーヒーのアップサイクル」トークイベントの様子

Standart Japan第8号の発売後、東京、福岡、京都3都市の蔦屋書店で「アップサイクル」をテーマにしたトークイベントのツアーを開催しました🙌 イベント会場におこしいただいた皆さん、ありがとうございました!

この記事では、ツアーを締めくくった京都での様子を福岡会場の写真と共にご紹介します。第8号にはツアーに同行いただいたmanu coffeeの話だけでなく、蔦屋書店のフェアにも参加していただいたKissacoオーナーの岡本さんのインタビューも掲載されているので、気になった方はぜひチェックしてみてください。

 

そして、2019.10.13~14 に福岡で開催されるFukuoka Coffee Festivalにて、同様のトークイベントを再度開催することになりました。

日時は10/14(月祝)15:00~16:00。manu coffeeの福田さんと杉浦さんにお越しいただき、1時間という短い時間ですが、コーヒー豆の出がらしを使ったアップサイクルについてのお話をします。無料イベントですのでぜひお越しください!

 

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コーヒーだけじゃないコーヒー屋

 

(室)皆さん、今日は会場にお越しいただきありがとうございます。今回はStandart Japan第8号の「コーヒーのアップサイクル」でもお世話になった、福岡にあるmanu coffeeの副社長、福田さんと一緒にお話をしていきます。

まず、manu coffeeさんは地元福岡のアーティストの支援などをされていて、カルチャー色の強いコーヒー屋という印象があります。コーヒーカスを使った培養土・肥料マヌア(manua)のお話の前に、最近イラストブックが発売されたノンチェリー(NONCHELEE)さんとのコラボについて教えていただけますか?

 

(福)これまではパッケージなどのデザインを地元のアーティストにお願いすることで間接的に支援というか、一緒に仕事をしていました。そして最近その切り口を変えてみようという話が出て、毎年農園を訪れているうちの焙煎士と一緒にアーティストを農園に連れていってみようということになったんです。

そこでノンチェリーさんには1週間ニカラグアの農園に滞在してもらって、そこで得たインスピレーションをもとに何かしらの作品を作ってくださいという話をしました。その結果生まれたのが、現地の家屋を描いたイラスト集『BOSSA HOUSE』です。

 

Artist in Coffee Farmから生まれた『BOSSA HOUSE

 

(室)ノンチェリーさんと一緒にアトリエ兼ショップをやっているキネ(KYNE)さんも福岡が拠点ですよね。コーヒー関係で言えば、キネさんのイラストはNO COFFEEさんとのコラボやCasa BRUTUSの表紙あたりが有名かも。

ノンチェリーさんのイラストは人がモチーフになったものが多いですが、『BOSSA HOUSE』のメインはあくまで家屋。そのあたり現地で何かしら感じるところがあったのかなというのがうかがえます。

それでは、マヌアについてもゆっくり聞いていきましょう。映像があるようなので、それと共にご説明をお願いします。

 

マヌアができるまで

 

 

(福)まずはマヌアの製造過程をご説明しますね。現在manu coffeeは5店舗運営していまして、エスプレッソベースのドリンクのみ提供しています。なのでノックボックスにたまったカスや、はじかれた豆をアルミの袋に入れておいて、月に2回福岡市内から車で一時間くらいのところにある金澤バイオさんの糸島の工場へ持って行きます。

コンクリートの壁で囲まれた発酵槽にコーヒーカスとそれ以外の材料をブレンドしたものを置いておいて、時折水を加えてかき混ぜたりしながら、発酵を促進していきます。発酵中は結構温度が上がるので、水分が蒸発していって2、3か月くらいすると有機肥料のマヌアができあがります。

販売に際しては、コーヒー豆を入れる袋を再利用して、その上にシルクスクリーンでプリントを施したものに詰めています。商品のタグは、お隣佐賀県に名尾和紙というものがあって、その和紙を作っている会社さんに焙煎時にでるチャフを送って、紙すきの際にチャフを混ぜて作ったものを使用しています。

 

 

(室)マヌアにはコーヒーカス以外に何が入っているんですか?

 

(福)ビールカス、おから、竹くず、カキの殻を砕いたもの、キノコの菌床(キノコを栽培する際に土台となる部分)、米ぬかなんかが入っていて、そこにコーヒーカスを加えています。

manuaの原材料はすべてかつてはゴミだったもの

キーワードは「高温発酵」

 

(室)一緒にマヌアを開発された金澤バイオ研究所というのはどんな会社なんですか?

 

(福)土壌微生物を専門に研究されている金澤晋二郎先生(九州大学)が立ち上げた会社で、オーガニック肥料の「土の薬膳」という商品を開発・製造・販売しています。金澤先生はそれ以外にもサントリー「天然水の森」の研究員を務められています。

 

(室)金澤先生の写真はStandart Japan第8号の記事の中にでも出てきていますね。とても情熱的な方で、福岡の六本松蔦屋書店で5月に行ったイベントにもサプライズゲストとして来てくれました。ちなみに実際どのくらいの量のコーヒーカスをマヌアに使っているんですか?

 

(福)年間で12万杯分、4.2トンのコーヒーカスを再利用しています。マヌア全体に占めるコーヒーカスの割合は10%くらいなので、その他の材料もかなりの量使っていますね。この辺が金澤バイオさんの専門で、それぞれの材料の特性を引き出すのに微妙なバランスがあるようなんです。

 

(室)金澤先生のお話で特に僕の印象に残っているのが、彼の開発した「HT菌」を使った高熱での好気発酵法についてです。動画で土から蒸気が出ていたように、発酵中のマヌアって90度前後まで上がるらしいんですよ。一方、自然に存在する菌だと上がっても60度くらい。で、温度が1度上がると微生物の動きは2倍近く活発化するらしいんですよ。さらに高温状態がある程度続けば、病原菌や雑草の種も死滅するのでなお良いと。


 
(福)そうですね。でも温度が上がり過ぎると菌が死んでしまうので、状態を見ながら水をかけて温度を下げつつ、空気を循環させてまた発酵を促進する、の繰り返しです。一般に販売されている肥料はまだ分解されきっていないものもあって、だから腐ってしまったり、臭いが鼻についたりするんですが、マヌアはこの高熱発酵のおかげで臭いもほとんどありません。

 


manu coffee副社長の福田 雅守さん

 

(室)マヌアと一緒に面白い鉢も販売されてますよね?

 

(福)社長の西岡の私物レコードを原料にした「BINAL RECORDS」ですね。レコードを熱加工してボール型にした鉢で、オンラインショップではこれとマヌアをセットで販売しています。

 

(室)西岡さんのレコードもアップサイクルされていると(笑)。

 

manu coffeeを動かす「コーヒーに感謝する」という想い

 

(室)ところで、そもそもマヌアはどういう経緯で作られることになったんですか?

 

(福)マヌアの開発を始めるまでに、すでにカップ類、プラスチックゴミ、ストロー、牛乳パックなんかはリサイクル目的で福岡の紙資源という会社に回収してもらっていました。でもコーヒーカスだけはかなりの量があるのに使い道はなくて、2012年くらいから社内のミーティングでも議題に挙がっていたんですよ。で、当時は画期的なアイディアも浮かばなかったので、まずは欲しい人に無料で持ち帰ってもらおうということで、今のマヌアみたいな感じで袋詰めして店頭に置くことにしました。ただ水分を含んでいるために、2、3日経つと腐っちゃうので余ったものはゴミとして廃棄するしかありませんでした。

でもある日偶然、金澤先生の娘さんの金澤聡子さんがmanu coffeeにいらっしゃってくれて、無料配布していたコーヒーカスに目をつけてくれたんです。私たちの現状をお話すると、一緒にやってみましょうということで金澤先生にもかけあってくれて、そこからスタートしました。

 
金澤バイオ研究所の金澤聡子さん

 

(室)実際始めてみて大変なことって何かありましたか?

 

(福)第一に、想像していたよりも時間がかかりましたね。既存の商品にコーヒーカスを混ぜて「はい、できあがり!」というわけにはもちろんいかず、コーヒーカスの成分を解析したり、コーヒーカスがどのくらいの割合だと肥料としての効果が最大化されるのか、といった研究をするのに1年以上かかりました。また肥料の生産や販売には自治体への届け出が必要なので、それにも時間がかかりましたね。商品用のコーヒーカスをためるのにも10か月くらい必要でした。それと目下の課題はどう売るか、ですね(笑)

 

(室)最後の課題は大事ですね(笑)。でも興味深いのが、新商品を開発するときって普通売り方だとか売上予測だとかを考えて、本当にやる意味があるのか検討するじゃないですか? でもmanu coffeeは2008年くらいからお店で出るゴミのリサイクルをしていて、その流れでマヌアも作っちゃおうということになった点です。もともとゴミへの問題意識みたいなものを西岡さんや福田さんが持っていたんですか?

 

 

(福)「心苦しさ」が大きかったと思います。コーヒー企業として売上を伸ばすとなると、当然それに伴ってゴミの量も増えるので、今の段階で手をうっておかないと後からじゃ自分たちではどうしようもなくなってしまうという気持ちが西岡だけでなく社員の中でも共有されていました。

 

(室)そういう想いがあったけど為す術がなくて、せめてもの抵抗ということでコーヒーカスを店頭に置いたら金澤親子に出会ったというところに、僕はコーヒー業界っぽさというか、コーヒーの良さみたいなものを感じます。コーヒー屋さんに来る人っていろんな職業やバックグラウンドの人がいるじゃないですか? だからこそ、そこで生まれるアイディアにはすごくクリエイティブなものが多い気がして。

その一方で、言ってしまえばコーヒーカスのアップサイクルは、manu coffeeとしての企業努力というか、誰かに言われてやっているものではないですよね? ちゃんとした形で廃棄する方が肥料を作るよりもよっぽど楽ですし。環境意識以外に何かその壁を越えさせるものがあるんでしょうか?

 

manu coffee社長の西岡総伸さん

 

(福)西岡から教わった考え方でもあるんですが、個人的には「コーヒーに感謝する」という想いが強いです。バリスタなり焙煎士なりの姿勢として、自分の生活を支えてくれているコーヒーを最後まで面倒見るという気持ちですね。こういう気持ちの人間が僕ひとりではなく、複数人manu coffeeにいたということも大きかったと思います。

それと「考えすぎない」ということも大事ですね。やることの意義とか、誰のためだとかっていうのを考え詰めて足踏みするのではなく、これが問題だからなんとかしよう、まずこうしてみよう、こういう人がいるから話してみよう、みたいな衝動的な行動を続けた結果が今につながっていると思います。

 

(室)福岡でこのトークイベントをしたときに、オーナーの西岡さんに同じ質問をしたときも「いや、何も考えとらん」って言ってましたもんね(笑)。

 

(福)金澤バイオさんと出会ったことで、なんとかなるかもって思えたからこそ、商品化まで持っていけたのは間違いないですけどね。

 

(室)金澤先生は福岡のイベントで、一般的に肥沃な大地は黒い色をしているという話をされていました。もちろん商品開発にあたって成分の分析はされていますが、コーヒーカスの色に注目してチャンスがあるかも、と感じられたところは「さすが研究者」って思いましたね。

 

福岡の六本松蔦屋書店でのイベントに来てくださった金澤晋二郎先生

 

カルチャーの「耕作者」

 

(室)先ほども少し話に出た、良いものをどう売るかという点について質問です。商品開発の段階ではあまり売り方については考えすぎなかったとうことですが、ではマヌアが完成した今、どうやってこの商品の魅力を世に伝えようとしているんでしょう? これってコーヒーの価値を店頭でどう伝えるのかということにも関係している気がするんですよ。

 

(福)当初はコーヒーカスを集めるところから福岡のコーヒー屋さんを巻き込もうと考えていました。ただそれを待っていてもしょうがないので、まずは自分たちでやってみることにしたというのがスタート地点です。

実際に商品ができあがると、たとえばバリスタコースがある専門学校の方が自分たちの授業ででたコーヒーカスを寄付したいとか、焙煎をされているお店からチャフだけ持っていってもいいか、といった話をいただくようになりました。

マヌアを使う側という意味では、もともとコーヒーからできたマヌアでコーヒーノキを育てるというのが最終的な目標だったこともあり、農家の方々と話をしています。現在、お客さん経由で知り合った地元の農家の方とテストを行っていて、そこではマヌアでトマトを育てています。僕たちも畑を耕すところから手伝ったんですが、そろそろ収穫出来そうなので店頭でもマヌアトマトを何らかの形で販売しようと思っています。

それと金澤バイオさんがある糸島で、ひょうたんからスピーカーやランプを作っている方がいて、その人の畑にもマヌアをまいてもらいました。あとは麦茶にも興味を持っていて、マヌアで麦を育ててくれそうなところを探しています。

 

(室)麦茶ならカフェでも出せますもんね!スペシャルティ麦茶(笑)

 

(福)こういう感じでひとつひとつ「マヌアで作った〇〇」みたいなものを形にしていくことで、少しずつ僕らのやろうとしていることが伝わっていけばいいなと思っています。

 

(室)スターバックスセブンイレブンなど大企業のあいだでもコーヒーカスを何かに使おうという動きがありますが、全店で出るコーヒーカスのうち、どのくらいが使われているのかまではわからないんですよね。その点、manu coffeeは全店舗のカスを再利用しようとしているというのも徹底しているなと感じます。福岡はコーヒー屋さんの数も多いので、行政をからめて福岡コーヒータウン化みたいなことができれば、街路樹や公園にマヌアをまこうってことになるかも。

色んな機会にお話させてもらうんですが、英語の「Culture」っていう言葉は「Cultivate(耕す)」と同じで、ラテン語で「育つ」という意味の「cult」という言葉から来ているそうなんです。つまりカルチャーというのは、熱狂的に何かに取り組んでいる一部の人がいて、その人のやっていることなり理念なりに共感した人がその人たちを応援することで築かれていくものなんだという考え方があります。

だからこそ、説教臭く自分たちの想いを伝えるのではなく、小さな実績を積み上げながら徐々に周りの人たちを巻き込みむというmanu coffeeのやり方は、まさに新しいカルチャーを耕していることになるのかもしれませんね。