Meet the Founder : Bicycle Coffee Tokyo 2025/4/6 🚲

Meet the Founder : Bicycle Coffee Tokyo 2025/4/6 🚲

 東京・金町駅を降りて線路沿いを歩いていると、肌にあたる風から春の気配を感じる。テレビでは連日、桜の開花予報が流れ、この季節ならではの高揚感が人々の間に漂う中、この日、Bicycle Coffee Tokyoの新店舗にもひときわ大きな期待感が満ちていた――来日中のBicycle Coffee創業者、マシュー・マッキーを迎えたイベント「Meet the Founder」が開催されるのだ。  


店内スペース。2フロアにわたる広々とした空間は、サイクリングのグループライドの休憩先としても人気だそうだ。


席の自由度が海外のコーヒーショップを思わせる。


2階フロア。桜の季節にはコーヒー片手にここからお花見も。

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 今年3月1日にリニューアルオープンしたBicycle Coffee Tokyoの新店舗には、1〜2階にBicycle Coffeeの焙煎所とカフェスペース、そして運営元である有限会社サンウエストの直営ストアとオフィスが入っている。3階より上のフロアは賃貸住宅「レイオーバー金町」として機能しており、コーヒー、コミュニティ、住空間が交差するカルチャーハブとして、金町エリアに新たな文化の風を吹き込んでいる。カラフルなペイントが目を引くビルの1階にある店舗に入ると、同じデザインが施されたバーカウンターの中から、笑顔のマシューが迎えてくれた。 

「建物の外装にも使われているこのペイントは、グアテマラの伝統的な織物のパターンに影響を受けているんだ。自分と実の兄弟たちが中南米で暮らしていた頃、多くのコーヒー農家と知り合い、Bicycle Coffeeのビジネスを思いついた。オークランド本店でも採用しているこのデザインは、そんな中南米とのつながりを象徴しているんだ」


創業者のマシュー。「苗字のマッキーのスペルが、日本の油性ペンメーカーと全く一緒だったんだ」と喜びながら、マッキーのポーチを見せてくれた。

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 カラフルなパターンに目を奪われていると、マシューにサインを求めるコーヒーファン、常連客、ロードバイクでのツーリングを楽しむバイカー、海外からの観光客によって、2フロアの店内はあっという間にいっぱいになった。この日店を訪れていた一組が、ワシントンD.C.からやってきたというジャスティンとブランディ。自宅にエスプレッソマシンのコレクションがあるという、生粋のコーヒーラバー夫婦だ。新婚旅行先として日本を訪れるなか、偶然ホテルの近くにBicycle Coffeeを見つけて足を運んだという。

「元々Bicycle Coffeeのことは知っていて、豆も取り寄せたことがあるよ。今は 浅煎りのグアテマラ産コーヒーを飲んでいるけど、バランスが取れたカップですごく美味しいね。今日ファウンダーイベントがあるとは知らなかったけど、すごく幸運な機会だから、いろいろ話を聞いてみるよ」 


店内のバーカウンターには、グアテマラのパターンにインスパイアされたカラフルなデザインが施されている。

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 Bicycle Coffee は「持続可能なコーヒーを自分たちの“足”で届ける」を掲げて、2009年にオークランドで創業されたコーヒーブランド。そのミッション通り、有機栽培され、環境にも農家にもサステナブルな方法で育てられたコーヒー豆のみを焙煎・販売しているが、なにより特筆すべきは、卸売先へのコーヒー豆の輸送手段だ――なんと彼らは、トレーラー付きの自転車に乗り、CO₂を排出せずに自分たちの手(足)でコーヒー豆を届けている。

「普段から移動手段は車ではなく自転車だから、自分にとっては自然な選択だったよ」とマシュー。「日本で使っているトレーラーも、実は僕がオークランドで自作したものなんだ。よかったら見てみるかい?」そう言って外に出ていった数分後、ヘルメットを被り、トレーラーバイクを漕ぐマシューの姿が目前に現れた。「旅行中もいつでも自転車に乗れるように、オークランドからヘルメットを持ってきたんだ」。その言葉からは、彼の自転車への深い愛情が伝わってきた。 


マシューにサインを求めるお客さんたち。サインペンは、もちろんマッキーで。

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 Bicycle Coffee Tokyo の運営を担うのは、スポーツ・アウトドアブランドを筆頭に、海外ブランドの輸入・販売を手がける有限会社サンウエストだ。Bicycle Coffeeのブランドバリューに深く共感した彼らは、ブランド史上初となる飲食ブランドとのパートナーシップを提携し、2013年に東京・金町でBicycle Coffee Tokyoの実店舗を立ち上げた。以来10年以上にわたり、金町の地元コミュニティ、そして都内の卸売先に、高品質で倫理的なコーヒー豆を届けている――もちろんオークランド本店と同様、サイクルトレーラー付き自転車に乗って。

「卸売先の一つが虎ノ門にあるので、オフィスビル街をこのサイクルトレーラーと共に走っていますよ」と、同社でブランドマネージャーを務める成田さん。「Bicycle Coffee Tokyoの客層は本当に幅広くて、今日のお客さんも、マシューをめがけてくる人もいれば、サイクリングの休憩がてら立ち寄った人もいる。店内を眺めていると、いろんな人たちがそれぞれの目的で訪れ、言葉を交わし、新たなつながりが生まれる——そのきっかけの一つに、コーヒーはぴったりだなと思いますね」


店の前の道路を走るマシュー。このバイクトレーラー付きの自転車で、都内の卸売先にコーヒー豆を届けている。

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 マシューを囲んだ記念すべきファウンダーイベントは大盛況のもと幕を閉じマシューはメディア取材の対応へ、バリスタたちは各々の持ち場へ、メッセンジャーたちは都内の卸売先にコーヒー豆の配達へと向かっていった。もし今後、都内を歩いているときに、自転車のギアのロゴが入ったサイクルトレーラーを見かけたら――そして、香ばしいコーヒーの香りが鼻をかすめたなら――ぜひ少しだけ勇気を出して、声をかけてみてはどうだろうか。オークランド、そして東京の街を舞台に紡がれるBicycle Coffeeの物語は、今日も彼らの足によって運ばれ、あなたのすぐそばを走り抜けている。 

文・構成・撮影:Takaya Tokuyama