再現される一杯は、どのように生まれるのか ——世界と日本のロースターに見る、データと焙煎の実践

再現される一杯は、どのように生まれるのか ——世界と日本のロースターに見る、データと焙煎の実践

スペシャルティコーヒーの現場では、「良い焙煎ができるかどうか」だけでなく、それをどれだけ安定して再現できるかが問われるようになってきています。一度おいしく焙煎できることと、それを繰り返せることは別の話です。取り扱う銘柄が増え、焙煎量が増え、チームも大きくなる。ロースタリーが成長するほど、品質を揃え続けることは難しくなります。

今回、StandartのパートナーであるCropsterコーヒーのバリューチェーン全体を支えるソフトウェアを提供する企業)の協力のもと、日本国内と海外の4つのロースター——Coffee CountyREC COFFEEAlchemistThe Miners——にインタビューを行いました。この記事では、それぞれ異なるフェーズにいる彼らが持つ共通する問い「どのようにすれば、一杯のおいしいコーヒーを“再現”できるのか。」に迫りました。

 

記録は「残すもの」から「使うもの」へ

多くのロースターにとって、焙煎の記録は長らく手書きが前提でした。温度や時間、ちょっとしたメモ。それらは確かに焙煎の履歴として残りますが、後から振り返る際に、情報として十分に活用するのは簡単ではありません。実際に今回話を聞いたロースターの多くも、手書きや簡易的なログ管理に課題を感じていました。記録のばらつきやヒューマンエラー、そして何より「感覚の共有の難しさ」です。

複数人で焙煎を行う場合、同じデータを見ていても解釈が揃わない。あるいは、そもそも比較できる形で記録が残っていない。そうした状況の中で、記録は単に「残すもの」から、「次の焙煎に活かすもの」へと変わり始めています

 

数値と味を結びつけるということ

データの蓄積が進むにつれて、ロースターの視点にも変化が生まれます。その中心にあるのは、「感覚をどう再現可能な形に落とし込むか」という問いです。Coffee Countyでは、水分値や密度といった生豆の特性を測定し、それがローストカーブや温度上昇率(RoR)にどのように影響するのかを分析しています。こうした取り組みによって、経験的に捉えていた変数が、操作可能な要素として扱われるようになっています。

一方で他のロースターでも、カッピング結果とプロファイルの紐づけや、焙煎中の微細な温度変化の分析などを通じて、「数値と味の往復」が日常的なプロセスとして定着しつつあります。REC COFFEEでは、複数の焙煎機を扱う中で、異なるローストカーブであっても、目指す味に対する調整ポイントには一定の共通性があることが見えてきたといいます。

こうした取り組みに共通しているのは、数値を追いかけることそのものではありません。数値と味の関係を行き来しながら理解していくプロセスです。

 

個人からチームへ——品質のつくり方の変化

ロースタリーの規模が大きくなるにつれて、品質のつくり方も変わっていきます。REC COFFEEでは、データを基にした運用によって、チーム全体で同じ情報を共有しながら議論できるようになりました。個人の感覚に依存するのではなく、共通の基準を持つことが重要だといいます。Coffee Countyでは、ヘッドロースターが遠隔から焙煎内容を確認できるようになり、現場にいなくても品質の判断や調整が可能になりました。

焙煎士が増え、役割が分かれていく中で、「誰が担当しても同じ品質に近づけること」が、運営上の重要なテーマとなりつつあります。

 

在庫管理が変えるオペレーション

もう一つ見逃せないのが、在庫管理の変化です。Alchemistでは、生豆在庫と焙煎スケジュールを紐づけて管理することで、必要なタイミングで必要な量だけ焙煎する運用が可能になっています。特にフィルターコーヒーにおいては、焙煎豆を提供するタイミングがそのまま品質につながる重要な要素です。REC COFFEEでは、消費量のデータをもとに買い付け計画を立てることで、生産者とのコミュニケーションにも変化が生まれています。必要な数量や品質の方向性を、より具体的に共有できるようになったといいます。The Minersも、ロット単位での在庫管理を行うことで、ブレンドや品質管理の精度を高めることができています。

在庫は単なる数量の管理ではなく、品質・コスト・そして関係性にまで影響する要素として扱われています。

 

共通して見えてきたこと

今回の取材を通して見えてきたのは、「感覚」と「データ」を切り分けるのではなく、両者をどう結びつけていくかという視点です。測れるものを記録し、共有し、次の焙煎に活かす。その積み重ねが、再現性を支える基盤になっていきます。同時に、コーヒー価格の上昇やサプライチェーンの変化など、外部環境の影響も無視できません。こうした状況の中で、品質を安定して届け続けるための仕組みは、ますます重要になっています。ロースターの仕事は、単にコーヒーを焙煎することではありません。生産者から届いた価値をどう引き出し、それをどう届け続けるか。

そのための基盤として、データを活用した運営が広がりつつあります。今回紹介した4つのロースターの取り組みは、規模や地域に関わらず、これからのロースタリー運営を考えるうえで一つのヒントになるはずです。

 


 

同じ「データ」という言葉でも、その使い方や捉え方は一様ではありません。Cropsterを導入した4つのロースターは、それぞれの現場でどのように向き合っているのでしょうか。以下では、各ロースターの声を通して、その実践を詳しく見ていきます。

 

REC COFFEE

移動販売からスタートした、福岡・博多発の自社焙煎のスペシャルティコーヒー専門店。福岡で6店舗、東京で2店舗を運営。

Q1. Cropster導入前、一貫性の維持で苦労していた点は?

導入以前は手書きで記録を行っており、複数人で多くのバッチを焙煎する中で、振り返りに時間がかかることや、基準となる数値と感覚の共有が難しい点に課題を感じていました。どうしても属人的な判断になりやすく、チーム全体で同じ基準を持つことが難しかったです。また、多くの生豆を扱う中で、在庫管理や消費予測、販売スケジュールの構築にも課題がありました。買い付けの判断においても、感覚ではなく実績に基づいた判断が必要だと感じていました。

Q2. データの可視化によって得られた気づきは?

複数の焙煎機を扱う中で、それぞれ異なるローストカーブになるものの、目指す味に対する調整ポイントには一定の共通性があることが見えてきました。一方で、カップとして非常に良い結果だった焙煎が、必ずしも理想的なカーブを描いていない場合もあり、味と数値の関係をより深く理解する意識が生まれました。

Q3. 日々の業務で最も活用している機能は?

在庫管理機能を特に活用しています。生産者の努力によって届けられた生豆を、より良い状態で焙煎できるよう、販売計画を立てるうえで非常に重要な役割を果たしています。また、生産実績をすぐに確認できることで、直近の生産スケジュールやイベントに向けた予測が立てやすくなり、人員や設備の調整にもつながっています。

Q4. その機能はどのようにオペレーションに役立っていますか?

買い付けにおいて、将来の見通しの精度が高まったことで、生産者と直接対話する際に、必要な数量や品質の方向性を早い段階で共有できるようになりました。その結果、買い付けの精度向上だけでなく、生産者との信頼関係の構築にもつながっていると感じています。また、販売においても計画的に商品を展開できるようになり、急な終売に左右されることが減りました。それにより、スタッフの商品理解や商品ページの構築なども計画的に進められる状態が整っています。

Q5. スケールアップを目指すロースターに伝えたいことは?

一つ挙げるとすれば、「しっかりと記録に残すこと」です。規模が大きくなるほど、再現性を保ちながら品質を追求する難易度は上がっていきます。そうした中で、データや生産記録は、ロースタリーの成長を支える重要な基盤になると思います。

Q6. 業界の課題と今後の変化についてどう考えていますか?

コストが上がり続ける中で、品質を維持しながらさらに高めていくことが大きな課題だと感じています。そのためには、ロスを減らし、焙煎や品質を仕組みで支えること、そして生産者との関係性や背景をより丁寧に伝えていくことが重要です。感覚だけではなく、継続性を支える仕組みを持つことが、今後ますます求められていくと思います。

Q7. もし今、ロースタリーを立ち上げるなら変えることはありますか?

個人の焙煎技術だけでなく、チームで継続していくことを前提としたものづくりを最初から考えると思います。早い段階で仕組みを整えることで、個人の感覚に依存しない、チーム全体で品質をつくる土壌が生まれると感じています。

 

Coffee County

2013年に福岡県久留米市で創業し、福岡と東京にて店舗を運営する自家焙煎コーヒー店。

Q1. Cropster導入前、一貫性の維持で苦労していた点は?

以前は、コーヒー専用ではないデータログソフトを使用していました。焙煎中の温度ログは確認できましたが、RoR(温度上昇率)を視覚的に把握することができませんでした。私たちはRoRこそが最も重要だと考えているため、それを確認・分析できる環境が必要だと感じ、Cropsterを導入しました。

Q2. データの可視化によって得られた気づきは?

水分値や密度を計測するようになり、それらがローストカーブやRoRにどのように影響するかを考えるようになりました。また、生豆の形状やサイズも焙煎プロファイル設計において非常に重要であると認識するようになりました。

Q3. 日々の業務で最も活用している機能は?

焙煎比較機能です。過去の焙煎データと詳細に比較することで、次の焙煎プランをより具体的に設計することができます。感覚だけに頼らず、判断の根拠を明確にできる点で重要な機能です。

Q4. その機能はどのようにオペレーションに役立っていますか?

基本的にはヘッドロースターである私が焙煎プランを立てますが、実際の焙煎は他のスタッフが担当することもあります。その際も、クラウド上で焙煎ログを確認しながら状況を把握し、必要に応じて遠隔で指示を出すことができます。その結果、自分が実際に焙煎する量は以前より減っていますが、品質のコントロールは維持できています。場所を問わず詳細を確認できるため、出張や他の業務にも時間を使えるようになりました。また、生産レポート機能も活用しており、全体の生産量や生豆ごとの消費量を把握することで、買い付け計画の精度向上にもつながっています。

Q5. スケールアップを目指すロースターに伝えたいことは?

Cropsterを使い始めて、それまでいかに感覚に頼っていたかを実感しました。感覚は共有が難しいものです。水分値や密度、水分活性など、測れるものはすべて測り、それらが焙煎にどう影響するかを記録することで、感覚とデータの結びつきが強くなっていきます。

Q6. 業界の課題と今後の変化についてどう考えていますか?

コーヒー価格の上昇が大きな課題です。今後も上昇は続くでしょう。どのコーヒーに本当の価値があるのかを見極めなければ、生産地と消費者の間に乖離が生まれてしまいます。その間に立つロースターとして、何に価値を見出し、どのように伝えていくかが重要だと考えています。

Q7. もし今、ロースタリーを立ち上げるなら変えることはありますか?

当初の想定よりも大きなスペースを確保します。焙煎機も同様に、より余裕のある設備を選ぶと思います。


Alchemist

シンガポール発のスペシャルティコーヒーロースター。「高品質なコーヒーを誰もが手軽に楽しめるように」という理念を掲げ、シンガポール、日本、台湾で合計17店舗(2026年3月時点)を展開している。

Q1. Cropster導入前、一貫性の維持で苦労していた点は?

以前はノートや手書きのログに頼っており、焙煎と同時にデータを記録する必要がある中で、ヒューマンエラーが発生しやすい状況でした。焙煎作業と記録を同時に正確に行うことは難しく、一貫性を保つ上で大きな課題でした。

Q2. データの可視化によって得られた気づきは?

サンプルと本番焙煎をデータとして結びつけられるようになったことが大きな変化でした。カッピングの結果と実際の焙煎プロファイルを紐づけることで、仕入れ時に感じた味をどのように再現するかを検証できるようになりました。

Q3. 日々の業務で最も活用している機能は?

スケジューリング機能と在庫予測機能です。生豆の在庫状況と焙煎スケジュールを一体で把握できるため、どのロットをいつ焙煎するべきかを明確に判断できるようになりました。

Q4. その機能はどのようにオペレーションに役立っていますか?

現在、週に約350kgの焙煎を行っており、ブレンドやシングルオリジンなど多様なラインナップを扱っています。在庫予測機能により、特に鮮度が重要なフィルターコーヒーにおいて、「必要な分だけ焙煎する」運用が可能になりました。各店舗での消費スピードを踏まえて出荷計画を立てることで、廃棄を防ぎつつ、常に新鮮な状態で提供できています。

Q5. スケールアップを目指すロースターに伝えたいことは?

初期の段階からデータをしっかり記録することが重要です。後からシステムに移行するよりも、最初から一元管理された状態を作っておくことで、拡大フェーズへの移行がスムーズになります。

Q6. 業界の課題と今後の変化についてどう考えていますか?

異なる市場に展開しながら、高い品質基準を維持することが大きな課題です。例えば東京への輸送では、パッケージングや鮮度管理など、ロジスティクスの精度が重要になります。今後は、より高度なオペレーションと頻繁なラインナップ変更に対応しながら、一貫性を維持することが求められると考えています。

Q7. もし今、ロースタリーを立ち上げるなら変えることはありますか?

コストを理由にツール導入を躊躇しないことです。実際には、在庫管理やスケジューリングの効率化によって、長期的にはコスト削減につながると感じています。


The Miners

チェコ・プラハ発のスペシャルティコーヒーロースター。2019年の創業以来、ヨーロッパ各国に店舗を展開し、コーヒーを中心としたカルチャーハブとして成長を続けている。

Q1. Cropster導入前、一貫性の維持で苦労していた点は?

手書きの記録や主観的な評価に頼ることが多く、焙煎パラメータの記録にもばらつきがありました。また、環境条件や生豆の違いによる影響を正確に追跡することが難しく、一貫性の確保に課題がありました。

Q2. データの可視化によって得られた気づきは?

ローストカーブと生豆の情報を記録することで、焙煎中のわずかな温度変化がカップに影響していることに気づきました。特に、生豆の水分量の違いが熱の伝わり方に影響していることを把握できたことで、プロファイルの調整精度が向上しました。

Q3. 日々の業務で最も活用している機能は?

在庫管理機能です。生豆の在庫状況や使用量、ロットごとのトレーサビリティをリアルタイムで把握できるため、効率的な運営が可能になっています。

Q4. その機能はどのようにオペレーションに役立っていますか?

同一産地でも複数ロットを扱う場合、それぞれを個別に管理・追跡することで、ブレンドの精度や品質管理を高めることができます。特に季節ごとのエスプレッソブレンドにおいて、安定した品質を維持するうえで重要な役割を果たしています。

Q5. スケールアップを目指すロースターに伝えたいことは?

記録とフィードバックを重視する文化をつくることです。すべての意思決定をデータに基づいて行うことで、規模が大きくなっても品質と革新性の両立が可能になります。

Q6. 業界の課題と今後の変化についてどう考えていますか?

生豆の供給の不安定さや価格の上昇といったサプライチェーンの変化が大きな課題です。今後は、トレーサビリティや予測分析、ダイレクトトレードといった要素が、業界の進化を左右すると考えています。

Q7. もし今、ロースタリーを立ち上げるなら変えることはありますか?

初期段階からスケーラブルなデジタルシステムに投資することです。焙煎、在庫、顧客管理を含めて一元的に管理することで、将来的な成長をスムーズに進めることができます。

 


 

今回紹介したロースターに共通していたのは、日々の焙煎やオペレーションの中で、データを“使いながら積み重ねている”という点でした。こうした取り組みを支えているのが、焙煎・在庫・品質を一元的に管理するデータプラットフォームです。ロースタリー運営においてデータをどのように活用していくか、その具体的な方法については、Cropsterのウェブサイト または日本正規代理店ギーセンジャパンのウェブサイトをご参照ください。

この記事は、Standartパートナー Cropsterの提供でお届けしました。