セラード珈琲が独自の研究とノウハウで取り組む、コーヒー2050年問題

セラード珈琲が独自の研究とノウハウで取り組む、コーヒー2050年問題

日本ではスペシャルティコーヒーという言葉さえ知られていない時代に生まれ、日本へ最高品質のブラジルを中心とする中南米のコーヒーを届けるセラード珈琲Standart Japan25号のパートナーを努めてくれた今年で創業35年を迎える同社が、コーヒー2050年問題に向けた独自の取り組み、そして生産国で活用できるアイデアのヒントを教えてくれました。

2050年問題とは一般に、世界で消費されるコーヒーの約7割を占めるアラビカ種の栽培に適した土地が、気候変動の影響によって2050年には半減するという予測のことを指します。詳しくはこちらのブログ記事をご参照ください。

 

様々なメディアで報道されているコーヒーの2050年問題ですが、ブラジルのコーヒー生産シーンでは、気候変動等によるコーヒー生産への影響はどういった場面で生じていると感じますか?

特にここ数年、気候変動による影響を痛感することが増えています。たとえば、4年前から平均気温が2℃上昇した結果、灌水設備を完備しているにも関わらず収穫量が3割減してしまった農園もあります。

収穫量だけでなく、カップの味わいの面でもスペシャルティコーヒーを探すことに大変苦労することが増えてきました。これまでと比べ、アフターテイストに雑味や渋味が感じられ、やせた豆の混入率が多かったのです。こういったカップの問題は特に標高の低い農園で多い傾向にあり、逆に標高1,150メートル以上の農園では比較的影響が少なかったように感じます。スペシャルティコーヒーの生産における温暖化の影響は、比較的標高の低い農園で受けやすいとも言われています。

従来では温暖化が加速しても灌水設備があれば「ある程度問題なくコーヒーの生産ができる」という楽観的な考えが大半だったブラジルの生産地ですが、1,000メートル以下の農園では灌水設備を完備していても、残念ながら収穫量、クオリティ共に落ちる傾向でした。

 

ブラジル国内では2050年問題に向けてどのような取り組みが行われているのでしょうか?

202211月にエジプトで行われたCOP27の結果を受けて、ブラジル政府は気候変動対策へ取り組む姿勢を示しているものの、実際に現場企業が取り組んでいるという例は少ないのが現状です。政府が掲げる二酸化炭素の排出量の削減目標はありますが、企業に対する規制等は無く、SBT(Science Based Targets)に取り組む大企業はありますが、現時点では法での規制も特にありません。 

そこで注目されるのがCe Cafe輸出組合。同組合には、コーヒー栽培がどの程度二酸化炭素が排出しているのかをブラジルの認証機関、イマフローラ社に依頼して調査してもらったレポートがあります。こちらは一般的の生産者ではなく、減農薬グループと呼ばれる雑草を伸ばし切ってから刈るなど、減農薬に取り組んだ生産者を対象とした調査で、一部の地域では1ヘクタールに対して10トンの二酸化炭素を排出するという結果が出た一方、他の地域ではコーヒー栽培は二酸化炭素の排出がマイナスになるというデータが出たことを受けて、セラード地域のモンチカルメロの組合(モンチセーロ)ではゼロカーボン(二酸化炭素排出ゼゼロ)を提唱しています。

その他にも、下記を主軸にしたRegenerative Agriculture認証(再生農業認証)をコーヒー界では初めて、ブラジルの生産者が認証を取得したという実績もあります。

  • 健康な土壌
  • 生物多様性の促進
  • 温室効果ガス排出量削減
  • CO2の吸収

 

セラード珈琲のブラジル事務所でも、この問題に向けた様々な取り組みをされているそうですね。それぞれについて詳しく教えていただけますか?

セラード珈琲では現在下記の3つの取り組みを実施しています。

1.温暖化対応品種への約10年間の研究 

温暖化に対してはハイブリッドチモールなど、低地栽培可能で温暖な場所でも育つロブスタの系統が入っている品種は、耐性があるのではないかと注目しています。たとえば、IAC125品種(ビジャサルチ+ハイブリッドチモールの掛け合わせ)などは比較的温暖化に強いと感じています。セラード珈琲では現在、IACが開発した品種改良の中でも比較的耐久性のある品種をセレクトして研究を進めていますが、データを見る限り現在よりも気温が2℃高かった4年前と比較しても、影響がほとんどなかったと感じています。

実際、試験栽培に共同で取り組んでいるサンジョングランジ農園ではブルボン品種には気温上昇による影響があったものの、隣の温暖化試験品種エリアの品種は無事だったという品種改良の成功事例もあります。

2.土壌活性化の為の微生物へのアプローチとそのノウハウの農園への伝授

現在ブラジルでは森林の微生物を育てて農園に散布するという動きが注目されています。私たちには、ジャガイモ品種である馬鈴薯にボカシ肥料(微生物の活用)という日本特有の肥料を活用することで、栽培が継続できるようになったという、弊社社長の山口の父である、故節男の経験があります。これは森の微生物を培養し栽培に活用する方法で、微生物を作物に入れる事によって、減農薬そして化学肥料の削減に成功。セラード珈琲ではこのノウハウをコーヒーに活用しました。

私たちが注目したのは、ベウベリアと呼ばれるブロッカ(コーヒー豆の虫食い)を駆逐してくれるカビは元々ブラジルで発見されたカビ。一般的な農園では殺菌剤を大量に使用してコーヒーを栽培しているため、ベウベリアは殺菌剤を使用する段階死んでしまい、ブロッカの駆除効果が薄くなってしまうのです。そこで、微生物を活用することで有機肥料の使用量を増やし、さらに殺菌剤使用時に使われていた窒素の排出を防ぎ二酸化炭素の減少に努めました。セラード珈琲ではこのノウハウを持ち啓蒙活動を続けるブラジル・ブラジリア国立大学教授トミタ・セルソ先生の考えを広める活動をしています。私たちの仲間の生産者、ジウ・セザール・デ・メロも再生農業の認証は取得できましたが、微生物の利用が再生農業での大きな結果につながるため、現在セルソ先生のプログラムを受けています。

3.セラード地域だけでなく、他のブラジル有名産地への出張コンサルタント

セラード以外の地域では、マッタス・デ・ミナスの生産者やスル・デ・ミナス地域APAS組合、バイ―ア州ピアタン組合の生産者達に定期的な出張コンサルタントを行っています。

地域が抱える問題には、下記のような差異があります。

  • セラード地域:化学肥料と農薬の使い過ぎ
  • セラード以外:収穫が手作業の地域はピッカーのコストの高騰

また、マッタス・デ・ミナス地域やスル・デ・ミナス地域の灌水設備が無い農園では、他の農園と比べ温暖化の影響が大きいため、再生農業や微生物の活用を勧めています。セラードコーヒーブラジル事務所のスタッフだけでは限界があるので、先ほどもお話ししたセルソ先生のお力を借りながら、各地域にコンサルタントを派遣しています。再生農業や微生物の活用について、多くの生産者はポジティブに捉えられてくれていますが、まだ微生物の力を理解出来ない生産者も多いという現状があるので、科学的根拠と成功事例を基に、啓蒙に努めたいと考えています。

 

セラード珈琲のコーヒーの2050年問題に対する思いを聞かせてください。 

近年業界で注目を高めている2050年問題ですが、私たちはこの問題に対して先見の明を持ち逆算して動いてきたわけではありません。先述の研究結果も同様です。予期せぬ収穫量の減量や、これまでスペシャルティコーヒー栽培に成功してきた生産者達が突如としてカップクォリティの低下を起こし、我々の求める基準に達しなかった際に、生産者や輸出業者と時には喧嘩しながらも、ディスカッション繰り返してきた結果です。

その中で再生農業の先進的な伝道師であるセルソ先生と出会い、ブラジルの有力な栽培地域にスタッフを派遣して、徐々に再生農業考えを広めている最中です。再生農業は土壌を豊かにし本来の多様性に富む土壌に戻し、土の保水性も上げ、温暖化による旱魃への有力な対抗策となりえます。

正直、このような取り組みは直接企業の利益につながることは少なく、本来であれば我々のような中小企業が積極的に行う事ではないと自覚しています。ですが、我々はブラジルの土地が生み出す素晴らしいスペシャルティコーヒーを未来に繋げる事が出来るよう、ミナスジェライス州立ウベランジャ大学と共同で研究を続けながら、ブラジル事務所スタッフの研修も引き続き進めています。株式会社セラード珈琲は今年35周年を迎えますが、昔も今も生産地と輸出業者の声に耳を傾けながら、共に研究し課題に対処する姿勢は2050年も変わらないでしょう。

 

この記事は、Standart Japan第25号のパートナー、セラード珈琲の提供でお届けしました。