#23 Remember Me

#23 Remember Me

おはようございます。今週はどんな一週間でしたか?

今週配信されたBoss Baristaのポッドキャストで、True Community FoundationとそのファウンダーであるIyasu Duséさんの取り組みが紹介されていました。このTrue Community Foundationというのは、子どもの飢餓撲滅と青年期のメンタルヘルス問題に取り組むアメリカのNPOです。IyasuさんはDusé Coffeeというコーヒーショップも経営していて、コミュニティのハブとして、地域社会の課題解決のためにコーヒー業界からメッセージを発信し、NPOの活動(食べ物が必要な子どもへの食事の提供など)へと繋げているそうです。「さまざまな人を繋げるコーヒーは一種の ’プラットフォーム’ で、地域のウェルネスに変化をもたらす」と言うIyasuさんの言葉に頷かずにはいられませんでした。

ところで、飢餓というと開発途上国で苦しむ子どもの姿を想像しがちですが、日本も例外ではありません。2015年の統計によると日本では7世帯のうち1世帯が相対的貧困層にあたるそうで、子どもの飢餓は現実問題として私たちの周りにも存在します。その対策として「こども食堂」の活動が大きな成果を挙げているようですが、運営はボランティアベースということもあり、運営費や人材の確保が難しいのだとか(コロナの影響も無視できません)。

災害地域に対する復興支援などは積極的に報道される中で(それが十分だとは言いませんが)、こういった社会的な構造に起因する問題は、どうやって支援すればいいのかわからなかったり、問題そのものに関心を寄せる機会がなかったりするのも事実です。

True Community Foundationの活動を知って、地域に根付くコーヒーショップだからこそ取り組める課題はまだまだありそうだと感じるきっかけになりました。改めてコーヒーは色んなことを教えてくれますね。

編集長 Toshi

 

This Week in Coffee 
世界のコーヒーニュース

狭義のその先に

コロナによる冬の時代に春の訪れを感じさせるかの如く、世界各地で行われたコーヒー品評会のCOE (Cup of Excellence)で歴代記録更新が相次ぎました。今年初めて開催されたエチオピアCOEでは、優勝ロットがUS$407/kgで落札され、これはエチオピアコーヒー史上最高額とのこと。また4カ国で平均価格が国内記録を更新し、グアテマラでも優勝ロットが歴代最高値で落札されるなど、2020年はCOEにとって実り多き年となりました。
 
COEを運営するACEは、パンデミックによる渡航制限を受けて、世界の5つのコーヒー企業をGlobal Coffee Center(GCC)に任命し、今後は各企業と連携しながら国際審査を行うとのこと。またACEは、新規バイヤー参入と高級ロットの販売を促すために、オークションにおける最低落札価格を下げるとともに、ロットを縮小化しました。このような品評会の活性化に向けた取り組みは、バイヤーの利益だけではなく、生産者に新たなチャンスをもたらす要因にだろうとこちらの記事で述べられています。
 
近年、ダイレクトトレードに関する統一基準がないことを背景に、透明性が不十分にもかかわらず企業がマーケティング目的で使用するケースが見られるなど、今日の社会は生産者との「良い関係性」の真意を問われているように感じます。そんな中、COEを始めとする品評会の開催意義とは、オリンピズムに描かれるような「競技を通じた平和構築」ではないでしょうか。これからもCOEが狭義としての競技を超え、コーヒーに関わる全ての人の平和に繋がる、そんな空間であることを心から願っています。

 

Original Roast

ウガンダの大統領選挙に出馬した民主党党首Nobert Mao氏は、公約の1つとしてアラビカ種の生産地域ブギシュにコーヒー加工工場を建設すると宣言。Mao氏は選挙集会にて、加工工場の建設は国内のコーヒー産業に大きな付加価値をもたらすとともに、搾取と物価変動に苦しむ農家の支援、若者や女性の雇用創出に繋がると述べました。
 
かつての帝国主義を背景に、生豆の価格のみが一向に上がらないという問題を抱えた現在のコーヒーサプライチェーン。そこに一石を投じようと、生産国では焙煎や流通を含む垂直型のビジネスモデルに注目が集まっています。グアテマラの Chica Beanは、このようなモデルを採用することで生産者の収益が増加するだけでなく、自らが育てたコーヒーを味わうことで、コーヒー生産への意欲や品質の向上が期待できると話しています。また同社は、輸送にかかる期間をガス抜きに活用するための輸送テストを行うなど、生産国での焙煎が消費国を含むサプライチェーン全体の利益に繋がるよう、日々研究を重ねています。
 
一方、焙煎機やインフラの不備、専門スキルを持った焙煎士・バリスタの不足など、多くの課題があることも事実です。ルワンダでは、このような問題に加え、高品質コーヒーへの馴染みの無さやコーヒーによる健康被害の迷信など、消費者の文化的側面へのアプローチが国内の消費拡大に不可欠であると言われています。生産者の思いと未来への可能性がブレンドされている、 “Original (生産国の)” Roast コーヒー。 今後も私たち消費者がコーヒー体験を通じてどのように生産者と関わることができるのか、可能性の模索を続けていきたいです。

 

その他の気になるニュース

▷ 米国・ワシントンD.C.市長が12月5日を「国際トルココーヒー文化の日」に制定。2013年にトルココーヒーがユネスコ無形文化遺産に登録されて以来この記念日は祝われていたものの、これまで公式には宣言されていませんでした。

▷ パンデミックの最前線で社会を支える医療従事者への感謝を込め、Starbucksは米国各地の店舗で対象者にコーヒーの無料配布を開始。対象者には医療機関で働く事務スタッフや清掃員、警備員も含まれるとのこと。

▷ 日進月歩のコーヒーの精製方法を、それぞれの名称とどんな処理が行われるかで分解したチャートが公開。「ハニーとウォッシュトってどの工程が違うんだっけ?」といった疑問が浮かんだときのために手元に置いておくといいかも。

▷ 排気ガス削減のプレッシャーが日に日に強まる中、欧州大手石油会社は給油スポットでのコーヒー販売など小売事業に目を向け始めました。海外にはガソリンスタンドがコンビニの役割を果たしている国もあるため、「ガソスタコーヒーの高品質化」なんて話がでてくるかも。


▷ 上海にオープンしたドアも窓もないコーヒースタンド。ここでドリンクを届けるのは道路に面した壁の穴から伸びる「熊の手」! この特殊な店づくりには、障がいをもつ人々の雇用創出という目的があるのだそう。

 

 

What We're Drinking
今週のコーヒー

lit coffee service 
埼玉

埼玉県所沢市の小さなロースタリーカフェ。幅広い焙煎度合いのコーヒー豆を揃え、クリーンで甘さのある焙煎を目指している。 コーヒーが持つ多様性の面白さを伝える為に、様々な分野の人たちとのコラボにも力を入れる。

生産者
ルイス・アルベルト・モンゲ・ウレーナ
生産地域
コスタリカ サンホセ州 タラス県 サンフランシスコ農園(地図
品種
カトゥアイ
精製方法
ホワイトハニー
テイスティングノート
一口目からマスカットや青リンゴなどの様々なフルーツを感じます。 シロップの様な甘さとトロンとした質感。 冷めてくると透明度が増して、見えなくなっちゃいます!

 

Standartの感想:

図らずも2週連続でコスタリカ、しかも同じタラス県のコーヒーを味わえることに。品種も精製方法も違いますが、繊細な装いは変わらず凛とした酸を感じます。と同時に、粉雪のような砂糖をふわりと舌に置いて溶け広がるような甘さも感じ、一口目からガッチリと心を掴まれました。このコーヒーで個人的に特に特徴的だったのは、アーモンドを感じさせるナッティな後味。はじめにフルーティな印象があったかと思うと、そこから長く伸びていく余韻がなだらかにナッツ感に変わっていく様子に、思わず「わぁ」と声を漏らしたほど。口の中が歓喜で包まれました。ややあってカップを覗くと、冷めて透明度がましたせいか、コーヒーが見えなくなっていました。すかさずおかわりしたのはここだけの話。

 


Inspiration
おすすめの本、映画、音楽、アート

雑誌 IWAKAN
ウェブサイト | イベント

ジェンダーに焦点を当てたクリエイティブスタジオ REING による雑誌『IWAKAN』。世の中にある「常識」や「当たり前」に、「それって本当にそうなのかな?なんでなんだろう?」と”違和感”を抱く人たちに寄り添うというコンセプトで、今年の10月に創刊したばかりの独立系雑誌です。創刊号のテーマは「女男」、男女二元論のあり方に違和感を問いかけています。インタビューやアンケート結果、エッセーなどを通じて、今の社会にあるジェンダー観について深く思考を巡らせることができます。誌面デザインはとにかくセンセーショナルでウィット。一見難しそうに感じるテーマも、ユーモアのあるビジュアルが緩急をつけてくれることで読みやすく、Standartも同じインディペンデントな雑誌として学ぶことが本当に多くあります。「人々の持つ違和感に100点の答えを出すのではなく、共に考え、新たな当たり前を一緒に創造し、提案する」というIWAKANのスタイルは、Standartがコーヒーカルチャーを正解や答えのないものとしてとらえて発信しているのと似ている気がします。自分自身と向き合うために、読んでおきたい雑誌です。そして幸運なことに、12月15日(火)20:00~ Standart Japan編集部とIWAKAN編集部の対談が実現します。銀座 蔦屋書店よりオンライン配信をするので、自宅でご飯を食べながら、コーヒーを飲みながら、一人あるいはパートナーや家族やペットと一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。ご参加はこちらから- Toshi

Pantone Color of the Year 2021
ウェブサイト

先週に続き、色関連の話を。Pantoneが「2021年の色」を発表し、アスファルトのような「Ultimate Gray」と、柔らかい日光を感じさせる「Illuminating」の2色が来年の色に選ばれました。Pantoneカラー研究所が毎年12月に発表するこのColor of the Yearとは、俗に言う「色のトレンド予測」で、ファッションやマーケティング、ソーシャルメディアから政治まで、色という観点で社会のさまざまな側面を調査し、どんな色が人々の生活に影響を及ぼしているかを解析した上で選び出されます。Pantoneカラー研究所のLeatrice Eiseman理事長は2021年の色について「堅牢な印象ながらも、温かくて楽観的。レジリエンス(弾力性)と希望を与えてくれる」と語っています。今年の苦難を乗り越えるためのアクションがしっかりとした基盤を築くことにつながり、その先にはきっと希望が見えてくる、というPantoneのメッセージめいたものを感じとれる気もします。Instagramの投稿を見てみると、この組み合わせを好意的に捉える意見から「めっちゃ2011年っぽい」とか「もっと気持ちが高揚する色にしてほしかった」とか「スウェットパンツグレーだ」というコメントまであって、反応ひとつひとつを見るのもまた一興。ただしトレンド予測というのは無用な生産と消費を促進するものだという批判もあり、そういう観点で来年発売される服や製品の色を見るのも、ある意味面白いかもしれません。- Atsushi

 


Brewing with…
あの人のコーヒーレシピ 

郡山 亜紀子

ONIBUS coffeeのみずみずしく、果実感溢れるコーヒーに衝撃を受け、その後一年半勤務。四年前にメルボルンに渡り、現在は店内中央の大きなカウンターが特徴のBENCH COFFEE CO.に所属。 一年前のオーストラリア大火災がきっかけで気候変動に危機感を持ち、日々の生活や職場における環境負担をできるだけ抑えられるよう日々格闘中。

セットアップ:

抽出器具:ハリオ V60
豆量:15g
湯量:240g
挽き目:中挽き
抽出温度:90度
抽出時間:2:30-3:00

手順:

  1. フィルターをお湯でリンス、器具とカップを温める
  2. 挽いた豆にお湯を60g 注ぎ、ティースプーンで全体的によく攪拌
  3. 40秒後、2投目70g注ぐ
  4. 1分~1分10秒後、3投目60g注ぐ
  5. 1分50秒までに、4投目50g注ぐ
  6. 抽出されたコーヒーをスプーンで撹拌

ポイント:

▷ 1投目の攪拌は10回程度を目安
▷ お湯を注ぐタイミングは、前に注いだお湯がまだ残っている状況でOK
▷ 抽出に3分5秒以上たった場合、ドリッパーにお湯が残っていてもドリッパーを外す。もし味が濃いようなら少しお湯を足し調整。(過抽出によるえぐみを避けるため)
▷ 抽出時間よりも早く抽出される場合は、最初の撹拌を増やす、又は挽き目を細かくする。遅く抽出される場合は、撹拌減らす、又は挽き目を粗くする

一言:

2020年ももう終わりに近づいてますね。私を含め、多くの人にとって今年は試練が続いた年だったと思います。その一方で私は日常の些細な事に幸せを実感し、そしてコーヒーとコーヒーを通して出会った人達にとても助けられました。だからこそ、普段から感謝を伝える事を忘れず、私の一杯でその方が少しでも心が晴れるよう、一杯一杯丁寧に向き合っていきたいと思います。

  

この度 Standart Japan のイメージ動画を制作しました!

とお伝えしたいところですが、こちらは読者の黒石 翔太さんがご自身で企画、撮影、編集されたもの。Standart Japanへの愛を表現してくださったとのことで、感無量です……。動画や音声、写真、文章などさまざまなメディアを通して、読者の方々がそれぞれの視点から体験した Standart を発信してくださるのを見ていると、次の号ではどんなコミュニケーションが生まれるのか、と私たちもワクワクしてきます。

リデザイン前の誌面にあった「一方通行のクリエイティビティじゃつまらない」という言葉の通り、このようなやりとりが私たちのモチベーションの源泉でもあるんです。

ということで、今週のWeekend Brewの感想やコメントもぜひ #standartjapan のハッシュタグと共にシェアをお願いします! 質問はメールでお待ちしております。またお友達やご家族など、Weekend Brew を一緒に楽しんでもらえそうな方にこのメールを転送していただけると嬉しいです。

過去に配信されたニュースレターは、こちらのアーカイブページからご覧いただけます。Standart JapanのウェブサイトInstagramFacebookもぜひチェックしてみてくださいね。

今週の Weekend Brew は Standart Japan 第14号スポンサーの Victoria Arduinoトーエイ工業、パートナーの MiiR JapanBarista Hustle JapanSucafinaのサポートでお届けしました。

LOVE & COFFEE✌️
Standart Japan 

(執筆・編集:Takaya & Atsushi)