#126: 植木鉢、FTA、コーヒー

#126: 植木鉢、FTA、コーヒー

おはようございます。今週はどんな一週間でしたか?

1月にはいつもノートを新調していて、それが今週届きました。仕事にもプライベートにも何にでも使うノートで、常に手の届く範囲においています。

今週からStandartの仕事始めだったので、まずは鈍った頭にカフェインを注入しながら、1年間のStandartのスケジュールをざっと書き出しました。抱負とまではいきませんが、年末年始の休みの間に考えていた今年やりたいことや自分の興味があることも添えました。1年の途中でやりたいことも興味があることも変わっていくので、実際に何かアクションを起こしたかどうかはあまり気にしないのですが、1年の終わりに見返してみると過去の自分の頭の中を覗いているようで案外面白かったりします。皆さんは新年に目標を掲げたり抱負を決めたりしますか?

今週は、昨年末にあとちょっとのところで終わらなかった次号の制作に取り掛かり、数日前に無事に印刷出しを行うことができました。来週から印刷が始まります。今回は年末年始のお休みを挟んだので(印刷会社もお休みだったため)、印刷のスタートも少し遅めで、すぐに2月の次号リリースに向けた準備が始まっています。

リリース準備って何してるの?という方のためにご説明すると、全国発送に向けたフルフィルメントパートナーとのコーディネーションやご購読者の皆さんのご住所確認、サンプルコーヒーの手配・輸入、ウェブサイトの更新やシステムの検査、商品撮影やマーケティング関連の計画と実施などなど、やることが山積みです。業務はプロジェクトマネージメントツールを活用しながらAtsushi、Nanako、私で分担していて、それぞれの業務別に細かくタスクとスケジュールが管理されたTo Doリストを消化していきます。これと同時に、5月号の制作をキックオフして、翻訳者への翻訳手配やインタビュー記事などの準備を進めています

エネルギー満タン、気合十分。今年もワクワクするような雑誌をお届けしていきます!

そうだ、今日は沖縄でコーヒー好きからマニアまで楽しめるディープなイベント OKINAWA COFFEENUMA DAYが開催されるそうですよ! お近くの方はぜひ。

それでは今週も良い週末を。

編集長 Toshi

  

 

 

This Week in Coffee 
世界のコーヒーニュース

アラビカ種紀行

私たちが普段味わうコーヒーのほとんどは栽培されたもの。つまり、手に取った一杯には、栽培期間だけでなく、そのコーヒーが栽培化されるまでの道のりや栽培地へと伝わった歴史などさまざまな時間の流れが凝縮されています。先月発表されたアラビカ種にまつわる研究では、そんな栽培の黎明期に焦点が当てられています。フランスを拠点とする研究者モンタノン氏が主導した本研究は、エチオピア、イエメンなどから採取した555種類ものアラビカ種の遺伝子情報を分析し、栽培用アラビカ種の遺伝子グループと地理的な伝播経路の特定を目指すというもの。モンタノン氏いわく、「エチオピアとイエメン両方の遺伝的多様性を網羅した最初の研究」でした。

その結果、現在世界中で栽培されているアラビカ種は6つの主要な遺伝子グループ(コア・エチオピア1、コア・エチオピア2、エチオピア・レガシー、ティピカ-ブルボン、ニューイエメン、ハラール)に分類できることが分かりました。これにより「アラビカ種はエチオピアで生まれ、その後イエメンで商業的に栽培され世界中へ伝わっていった」というコーヒーの歴史が遺伝的な観点から改めて確認されただけでなく、それぞれの遺伝子グループの地理的なバラつきについても新たな情報が分かってきました。ちなみに2020年にイエメンで発見されて話題を呼んだ品種「イエメニア」はニューイエメングループにあたり、(モカ港から遠い)北部で栽培されていたことから国外に伝播しなかったそうです。また本研究で新たに得られた情報は、遺伝的距離のある品種を掛け合わせた新たなハイブリット種の生産にも活用される可能性があります。

 

気になるニュース

▷  ギルトフリー(罪悪感がない)を謳う培養コーヒーブランド、ゼロコーヒーが誕生。一方コーヒーメディアSprudgeは、そもそも培養コーヒーがコーヒー農家の支援につながっていない点に対し批判の声を挙げています。

▷ 今月3日、エクアドル政府は中国との自由貿易協定(FTA)締結。コーヒーを含む農産品や加工食品など、中国向け輸出の99%がカバーされる見通しで、本協定により約10億ドルの輸出拡大を見込んでいます。

▷ 既存の競技会規格に囚われない、より身近で愉快なコーヒー競技会を主催する「ザ・バリスタ・リーグ」は、2023年に4大陸で計12のイベントを開催予定競技者だけでなく、オーディエンスも無料で参加できるため、イベントに合わせて旅行日程を組むのも楽しそう。

▷ スターバックスは、イラクの首都バグダッドで無許可で営業するスターバックス3店舗提訴しましたしかしニセ店舗のオーナーがスタバ側弁護士を脅迫し、現在裁判は滞っているそう(オーナーは自らの関与を否定)。ちなみにカップを含む商品は、オーナーのツテを使ってトルコやヨーロッパから輸入した”本物”のよう。

▷ 少し前のThe New Yorkerの記事で、コーヒーショップにいそうな、クスッと笑える人々の様子がイラストにお気に入りのカフェで周りを見渡せば、そこには思うがままの時間を過ごすお客さんの姿。一度きりのその景色には、何度だって心惹かれますよね。

物足りないあなたへ

マルケニッヒ EK43 S の限定色「THE ICON」が公開されました。名古屋在住の素材デザイナー村上 結輝さんが、コーヒーの出がらしと消費しなくなった牛乳を用いた新素材「カフェオレベース」を開発。

 

 

What We're Drinking
今週のコーヒー

 

SHIKISHIMA COFFEE FACTORY 群馬地図

群馬県有数の広大な敷地を持つ敷島公園に隣接する焙煎所兼コーヒースタンドです。日本の美意識「KISSA」を再解釈した店舗デザイン、海外発祥ながら日本の喫茶文化を象徴するサイフォンでの抽出をメインに、空調管理された焙煎室に大小3つの焙煎機とカッピングペースを有する店舗となります。キャッチコピーは「日常を豊かにするコーヒーロースター」。素晴らしいコーヒーは日常をより豊かにすることができるという想いを込めてました。コーヒーを通した新しい発見や、刺激的なコーヒー体験をごお客様に提供できるよう日々精進しています。

 

生産者 Tamiru Tadasse (ALO Coffee PLC)

生産地域エチオピア 南部諸民族州シダマゾーン ベンサ(地図

品種74158

精製方法ダブルアナエアロビック

テイスティングノート
マスカット、マンゴー、ラズベリー、フローラル、コンプレックス

編集長のコメント:

The Weekend Brew #97以来のTamiruさんのコーヒー。挽いた豆にお湯を注ぐとレモングラスやクローブのようなスパイスの香りがします。一口目にすぐさま感じたのは桃。質感も面白く、ピチピチつるんっとした丸みや張りがあります。思わず「わぁお」と声が出るほど、淀みのないクリーンな液体。旨みが沁み渡ります。甘さや酸味のバランスがとにかくちょうど良すぎて、とてつもなく心地よく感じます。頭には色とりどりのドロップが浮かんできました。ワクワクするような感覚。いろんなフレーバーの香りが混ざった力強いアロマも印象的です。チャーミングでもあり、エレガントでもあるような、二面性を感じます。そして、甘くフローラルなフレーバーは、昔小学校帰りによく摘んでは吸っていたつつじの蜜を思い出させてくれました。(調べたら毒があるツツジもあるので吸うなと書いていました笑)温度が下がってくるとさらに甘く感じ、するするするする喉奥に吸い込まれていきました。あぁ、これはたまらない! ごちそうさまでした。飲んでみたい方はこちらから

 


What's New in the Community?
Standart Communityで起きていること

 

今週のStandart Comuunityでは、今年2月に京都で開催予定のコーヒーイベント「COFFEE HOLIC #3 - 同じ生豆で淹れる理由」についての告知が行われました。参加店舗である京都市内計13のコーヒー屋で、同じミャンマー産の生豆を提供する機会を通じ、焙煎や抽出技術、一つの生豆の味わいの広さについて体感できるという同イベント。各店舗での提供期間は2/1~3/12、また2/26には参加店舗が一同に集う限定イベントも開催予定だそうです。近隣の方はもちろん、京都観光の目的の一つにいかがでしょうか?詳細はイベントアカウントのTwitterInstagramから。

※Standart Japan​定期購読者の皆さんにはCommunityへの招待状をメールでお送りしています。まだの方はぜひご参加ください!

 

Inspiration
おすすめの本、映画、音楽、アート

オールド台湾食卓記 - 祖母、母、私の行きつけの店

急遽年末年始に台湾に行くことが決まってから、おなじみ東京・田原町のReadin' Writin' BOOKSTOREの店主落合さんに、旅行前の一冊としておすすめしてもらいました。グラフィックデザイナーを本業とする著者洪愛珠氏が、母の闘病と早世をきっかけに過去の食卓や市場の光景を文字に起こし始め完成したのが本書。読み進めるうちにまず感じるのが、これは「読む」よりも「味わう」という言葉が近い読書体験であるということ。著者の味覚に宿る家族との思い出を追体験しながら、自然と自分の食と家族の思い出が蘇ってくる。味覚とは私的な歴史そのものであるという大切な気づきを本書は与えてくれるはずです。

著者は家族との別れを前に、食の記憶を文章にするだけでなく、実際に祖母と母の料理の復元を始め、その様子を自身のSNSにも投稿されています。思い出の味を再現することは、味覚が故郷へ帰る時間を作ることと同義。本書完成への過程の中で、食べることを通じて、自らの生と向き合おうとする著者の姿がここからも明確に感じとれます。本書の一説である「人生は台所から台所への旅だ」という一文が示すように、考えてみれば、私たちはどこへ行っても、何をしても、人生のあらゆる局面を「食べること」とともに過ごしている。普段何気なく過ごす台所での時間は、まさに私的な歴史そのものです。マーティン・スコセッシ監督の言葉を借りるとすれば、「最も個人的なことこそ、最もクリエイティブである」という事実を、日々の台所でのひとときは私たちに語りかけてくれているのかもしれません。あまりに美味しい描写が続くため、夜中に読むと夜食の誘惑に耐え切れないこと間違いなし。ギルティープレジャーと共にお楽しみください。

 

Brewing with…
あの人のコーヒーレシピ 

 

橋本 さくら 

千葉県出身。両親の影響で、学生のころからコーヒーをよく飲むように。東京農業大学に進学し、よりコーヒーに興味を持ち、在学中はPaul Bassett新宿店とドトールコーヒーショップ船橋駅南口店で勤務。20歳のときに出場したJHDCで決勝進出。その後Philocoffeaの立ち上げから参加し、大学卒業後そのまま就職。現在、焙煎業務を担当。

5 questions

今気になっている問いは?

コーヒーに関わる人々がみんな笑顔になるために何ができるのか」

『コーヒーのまわりに幸せしかない』世界を作る、Philocoffeaで新しく定めたミッションです。この”コーヒーのまわり”には消費者、従事者、生産者、自分自身のすべてが含まれています。どうしたらハンドピッカーが適正で安定した収入を得られるようになるのか。都市部へ出稼ぎにでる若者に対して、農業に希望を持ってもらえるのか。持続可能なコーヒー産業とは。今一緒に働いているスタッフの労働環境をよりよくするためには。スタッフの夢や理想を叶えるために、一緒になにができるのか。今よりももっともっと美味しいコーヒーを届けるためには。今届けられていない方にどうやったら特別な体験を届けられるのか、などなど。コーヒーで笑顔になる人を増やしたいので、その理想のためにバリスタ・焙煎士である自分には何ができるのだろうと日々考えてます。

お気に入りの場所は?

「“親しい人の隣”です」

家族や学生時代からの友人など、みんな変わってて面白くて素敵なので。「どこ」より「誰」の方が大切で、好きな人といる場所がお気に入りです。

譲れないこだわりは?

「わくわくする方を選ぶこと」

何かを選択するとき、面白いかどうか・わくわくするかどうか、で選ぶこと。自身が楽しんでいるときが一番行動力があり、周りにもポジティブな影響を与えられると思っています。たとえしんどいことだとしても、周りに気にかけ支えてくれる人たちがいるので“大丈夫どうにかなる、やってやろうじゃないか!”と踏み出すことが多いです。孫悟空に近いものを感じます笑。

今誰と一緒にコーヒーを飲みたい?

「“TOMODACHI “を作ってくれた農家さんと、”TOMODACHI”を飲みたいです!」

“TOMODACHI “は親しくなった現地農園と台湾のエクスポーター(Tri-Up Coffee)と粕谷(Philocoffea)の3社で手を取り合って最高のコーヒーを作ろうというプロジェクトによって生まれたコーヒーです。粕谷自らが考案して提案した精製方法で作ってもらっている特別なロットで、一度試してみて終わり、というものではなく、毎年試行錯誤を繰り返し、設備投資を行い、いつかは世界一のコーヒーにするぞ!という意気込みで作っています。今までにエチオピア、エクアドルとコスタリカの“TOMODACHI “を作ってもらっています。各国の“TOMODACHI “を飲みながら、とびっきり美味しいコーヒーを作ってくれてありがとうという感謝と、日本のお客さんからの感想やこれからの期待を伝えたいです。友達の輪、いつか実現したいですね。

最近のやらかしエピソードを教えてください。

昨年のクリスマスイブ、駅の階段から落ちました笑。10段ほど滑り落ちたので膝下がサツマイモみたいに紫色に腫れてしまい…スタッフにそれを見せたら「どうせさくらさんのことだからお酒飲んでたんでしょ」ってあきれられました。素面です。しっかりものを装った、ポンコツです。

 

Fancy a refill?
編集後記 

今年の年末年始は人生初の台湾へ。隣のお客さんから注文したけど食べれない一皿をもらったり(手をつけていたのかは不明)、コンビニで水を買おうとするとなぜか店員さんのメンバーカードを使って安くしてもらったり。行く先々で出会う適度なテキトーさに、台湾の人々の温かさを終始感じてばかりでした。食との距離が本当に近いこの国は、以前読んだ『縁食論』を彷彿させる、食を介するコミュニケーションに溢れる空間。一体このイスはどこの出店の所有物で、この空間はどこの店に属しているのかもよくわからない。しかし人々は食を介して、このあやふやな境界線を軽々と行き来する。いや、食べることを通じて、境界線そのものを曖昧にしているのかも知れません。食べることは、共同体の一部であることなのかもしれないと感じるほど、旅行客ながら現地の人々の生活の一部に紛れた感覚がどこまでも温かかったです。またここにすぐ戻ってきます。あぁ、とりあえず葱油餅が食べたい。

Takaya

 


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今週の The Weekend Brew は Standart Japan 第22号スポンサーのCROWD ROASTER、パートナーの Victoria Arduino x トーエイ工業TYPICAETZINGER x BREWMATICPhilocoffeaのサポートでお届けしました。

LOVE & COFFEE✌️
Standart Japan
(執筆・編集:Takaya & Atsushi)