おはようございます。今週はどんな一週間でしたか?
数日前に福岡で開催された兼松株式会社のカッピング会に参加してきました。そこでコロンビアのグリーンエクスポーターであるCLEAR PATHの取り扱うインフューズドコーヒーをテイスティングする機会がありました。
インフューズドコーヒーというのは、精製過程の生豆をフレーバー液に漬け込み、フレーバーを染み込ませて生産されるコーヒーのことです。フレーバー液は、イチゴやマンゴー、ココナッツやウイスキーなどのさまざまな素材が使用されていて、コーヒーの精製時に一緒に発酵させたりすることで素材のフレーバーをコーヒーに付与することができます。焙煎されたコーヒー豆を抽出すると、その素材の特徴が顕著に現れます。(インフューズドコーヒーについてはこちらやこちらのブログでうまくまとめられています。)
インフューズドコーヒーについては課題や賛否両論あるものの、今回のカッピングのように一度に種類の異なるインフューズドコーヒーをテイスティングしたことがなかったので、とても良い経験になりました。
CLEAR PATHが扱うインフューズドコーヒーには、精製された農園から生産者、そしてそれぞれのコーヒーがどんな素材と共にどのように精製されたかが明示されていました。全て計算され「設計」されたフレーバーで、なおかつ想像するような人工的な味わいではなく、付与された素材由来の自然な味わいがコーヒーに備わっています。どれもとても美味しかったです。
最近では発酵をコントロールしたり、精製処理を工夫してさまざまなフレーバーを持つコーヒーが生み出されていますが、インフューズドコーヒーも少しずつ市民権を得てこれからもっと目にする機会が増えていくかもしれません。個人的には、生産者の努力やチャレンジ精神を感じ、とても面白い取り組みだなと感じています。
スペシャルティコーヒーにのめり込んだきっかけがインフューズドコーヒーだった、なんて未来も近いのかもしれません。そんな人が、ウォッシュトのコーヒーを飲んだ時に物足りないと感じるのかどうか気になるところですが。どこかで見かけることがあれば、ぜひ試してみてくださいね。
最後に、先週友人たちと家族と一緒にキャンプに行ったのですが、キャンプファイヤーでマンカシャカシャを使って焙煎し、コーヒーを飲んで楽しみました。揺れ動く炎を見ながら体でその熱を感じ、香りと音をみんなで楽しむ時間はとてつもなく幸福に包まれていました。ちなみに、マンカシャカシャを販売しているガルテンビさんの「壮絶なるマンカシャカシャ物語」が面白かったのでシェアします!
それでは今週も良い週末を。
編集長 Toshi
This Week in Coffee
世界のコーヒーニュース
スペシャルを混ぜ合わせて
近年競技会やコーヒーショップでは、シングルオリジンコーヒーを使った「スペシャルティブレンド」をよく見かけます。「安価・大量」という長年ブレンドにつきまとっていたイメージとは異なり、生産者との顔の見える関係性を維持しながらも、高い品質と新たなフレーバー表現を探求するスペシャルティブレンド。直近だと、本誌20号のサンプル豆を提供してくれたベルヴィルのブレンドも記憶に新しいのではないでしょうか。シングルオリジンの潮流を経て、今改めてブレンドに注目が集まる背景には、一体どのような要因があるのでしょうか。
こちらの記事によると、スペシャルティブレンドの場合、昨今の物流コスト・物価高騰の中でも品質を担保しながら、ロースターは豆の原価率を調節できるという点が大きな魅力とのこと。さらに生産国での天候不順やそれに起因するコーヒー豆の品質の変化、国際情勢の悪化による物流不安など、今日のコーヒー生産は常にあらゆるリスクと隣り合わせ。そんな状況だからこそ、シングルオリジンの一本足打法ではなく、コスト面、パフォーマンス面での柔軟性が高いスペシャルティブレンドにも注目が集まる理由は明白と言えます。また競技会においては、新種のコーヒー豆を使用する際にフレーバーバランスを整えるために、他の豆をブランドすることが多いのだそう。同記事で述べられているように、ブレンドとシングルオリジンは対極に位置するのではなく、むしろ相互補完的な関係にあるということが、これらの事例からも明らかとなっています。
スペシャルティブレンドが内包する、まだ見ぬコーヒー体験の可能性。その特別な味わいに胸が高鳴ります。
気になるニュース
▷ ワールドコーヒーリサーチ(WCR)が、コーヒーの育種に向けたグローバルネットワークの立ち上げへ。気候変動の危機に対して業界全体でコーヒーの遺伝子的改良を促進すべく、WCRおよび生産国9が国が中心となって運営されます。
▷ 焙煎機メーカー・ベルウェザーが、シェアロースターを開設。元々同社は、ウェブサイト経由でコーヒー豆の注文を受け付け、届け先に最も近いベルウェザー焙煎機の保有ロースターに焙煎を依頼することで、売上をロースターとシェアする仕組みを導入していました。今後シェアリングハブの拡大も計画中だそうで、新たな経済圏が生まれる予感。
▷ 台湾マクドナルドが、現地のマックカフェで阿里山産コーヒーの販売を開始すると発表。元々同社がレインフォレスト・アラインアンス認証付コーヒーの100%利用を公表しているからか、このコーヒー農園は先日台灣国内で初めて同認証を取得済。お値段は1杯約550円で、10万杯の数量限定販売を予定しています。
▷ デロンギが英国のコーヒーサブスクサービス「Beans Coffee Club」との連携を発表。今年3月には競合他社のブレビルもコーヒー豆の販売に着手しており、マシンの購入にとどまらない一貫したカスタマージャーニーの設計を目指している模様。
▷ 「危ない、そんなに傾けたらせっかくのエスプレッソマティーニがこぼれちゃう!」、と巷を騒がせること間違い無しのハンドバッグが数量限定でローンチ予定。道端で他の持ち主と遭遇した場合は、迷わず乾杯を。
物足りないあなたへ
European Coffee Tripがコマンダンテ新商品「X25 Trailmaster」のレビュー動画を公開。ラ・マルゾッコのホームエスプレッソマシンシリーズにニューライン「Linea Micra」が登場。今年もSprudge Awardのノミネーションが始まりました!皆さんの清き一票を、是非STANDARTに!
What We're Drinking
今週のコーヒー
KCOFFEE 奈良(地図)
2014年、奈良県大和郡山市にオープン。元々コーヒーが飲めなかった店主が飲みやすい、淹れやすいをコンセプトにしているコーヒー自家焙煎店です。2017年からオランダ製ギーセン焙煎機を使う事により様々な焙煎人と交流。日々刺激を受けながら焙煎技術を高め合ってます。
生産者: デイビッド・ルワンザンガボ
生産地域:ルワンダ フイエ ガコ(地図)
品種:ブルボン
精製方法:ウォッシュト
テイスティングノート:アップルティー、チェリー、オレンジ
編集長のコメント:
久しぶりのルワンダ、そして南部のフイエ地域のコーヒーは初登場です。挽いた豆からは柑橘系の皮のような香りがするなと思いながらお湯を注ぐと、みかん風呂に入った時のような、ほわりと暖かい蒸気に柑橘類特有の爽やかな香気を感じます。すでに気持ちよくリラックスしてくるようです。一口目から強く感じたのは煎茶のような爽やかな緑茶感。ライムやブラッドオレンジも感じます。きりりとした飲み口で、オレンジワインのような心地よい渋みとジューシーさがとても魅力的です。と同時に、黒糖のような甘さも味わいの後半にかけて感じることができます。プールサイドでスプリッツを飲んでいるような情景が浮かび、頭の中ではブルーノ・マーズの24K Magicがかかっていました。とにかく最高に気持ちがよくなるコーヒーでした。ごちそうさまでした!
What's New in the Community?
Standart Communityで起きていること
今週のStandart Communityでは、コーヒー専門映像クリエーターのKEIJI MORIYAさんが、SCAJ2022のダイジェストをシェアしてくれました。先日は、スイスMAMEの深堀絵美さんをゲストに開催された大阪Barista Map Coffee Roastersでのコラボイベントの様子も共有してくれ、まるで現地に足を運んだかのような高揚感を覚えました。コーヒーのお供に是非チェックしてみてください!
※Standart Japan定期購読者の皆さんにはCommunityへの招待状をメールでお送りしています。まだの方はぜひご参加ください!
Inspiration
おすすめの本、映画、音楽、アート
へそ
知人が読んでいた本の内容を聞いて興味を持った本。しばらく積読していましたが、部屋の片付けを機に手に取りました。新型コロナウイルス感染拡大後に誕生した「社会彫刻家基金」がテーマ。この基金は、アートを切り口に人や場所の可能性を可視化させていく活動を行うアーティストたちを認知・支援していくことを目的としています。社会彫刻というのは、ドイツの芸術家ヨーゼフ・ボイスが提唱した「誰もが自らの創造力によって芸術家になりうる」という概念で、教育活動、政治活動、環境保護活動、宗教なども含めた拡張された意味での芸術活動・芸術作品のこと。本書では、第一回目の開催となった「社会彫刻家アワード2021」の受賞者である、オルタナティブスペースコア、ボーダレスアートスペース HAP、マユンキキの3組への取材、そして調査選考委員たちの思考を辿りながら、これからの社会や社会彫刻について考えていきます。それぞれの受賞者に共通している土地と作品・活動との関係性は、地域コミュニティ(つまりは社会に)に良い影響を与えていて、それがアーティストの役割・仕事であるとするのであれば、地域のコーヒーショップが持つ役割もよく似ているんじゃないかなと感じます。社会彫刻という概念を初めて知りましたが、一個人が社会との結びつきや関わり方を改めて感じる/考える視点を与えてくれました。また読み返したい本が一つ増えました。
Brewing with…
あの人のコーヒーレシピ
稲田 拓実 aka INA
THE INY COFFEEオーナー。コンセプトは"MAN WITH COFFEE AND PHOTOGRAPHY"。珈琲と写真を軸に、アートやファッション、音楽、様々なカルチャーを独自の感覚でMIXしたインディペンデントなコーヒーショップを奈良県葛城市で営む。
5 questions
今気になっている問いは?
「3つめのスペシャルは?」
珈琲と写真、あともう1つぐらい何かの分野のスペシャリストになりたいなと。ここ数年ぐらい模索、自問自答しています。
お気に入りの場所は?
「自分の店」
色んな場所や、お店、好きな場所はたくさんありますが、やっぱり1番は自分のお店! 好きな音楽聴きながら珈琲飲むひと時は最高です。
譲れないこだわりは?
「ハット」
少し前に思い立って坊主にしたんですけど、夏は暑いし、冬は寒いでハットは欠かせませんね!最近はトレードマークです。
今誰と一緒にコーヒーを飲みたい?
亡くなった祖父母達や友人。叶うなら好きなミュージシャンや著名人。一緒に飲みたいし、飲んでもらいたいです。
あなたのギルティプレジャーは?
APEXシーズン0からやってるけど全く上達しません笑
Fancy a refill?
編集後記
テクノロジーとカルチャーがテーマのニュースレター「The Convivial Society」で先日取り扱われていたテーマは「Antivirals(反バイラル)」。
エピソードの一つとして著者のマイケル・サカサは、とある友人の話を紹介します。知人と一緒に街中を歩いていた件の友人は、見ず知らずの人に親切な行いをしましたが、誰もその様子を見ていなかったそう。その友人はすぐさま自らの行いを知人に伝えようとしたものの、そうすることで善行が台無しになるような気がし、結局胸のうちに留めておいたそうです。
そして著者はソーシャルメディア上を日々流れるバイラルコンテンツと対比し、友人の行為を「アテンションエコノミー」とも称される経済圏への抑圧に対する抵抗という観点から捉えます。
誰からの称賛も期待せず、後からそれを求めることもせず、当事者間だけにとどまる行為(とその根底にある思い)には、どこかロマンチックでワクワクするものを感じるとともに、他者からの承認以上に自己を養ってくれる力があるような気がします。
Atsushi
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今週の The Weekend Brew は Standart Japan 第22号スポンサーのCROWD ROASTER、パートナーの Victoria Arduino x トーエイ工業、TYPICA、ETZINGER x BREWMATIC、Philocoffeaのサポートでお届けしました。
LOVE & COFFEE✌️
Standart Japan
(執筆・編集:Takaya & Atsushi)