Standart Japan第20号のパートナーを務めてくれたTYPICA。麻袋1袋からダイレクトトレードできる、すべての生産者とロースターに開かれたオンラインプラットフォームを運営する同社に、今年3月に公開された「ブラインドオークション機能」について伺いました。
今年TYPICAに実装された「ブラインドオークション」とはどんな機能なのでしょう?
生産者が販売価格を決め、ロースターがそのサンプルを精査してから購入するというのがTYPICAにおける一般的な取引の流れです。一方、今年3月に公開したブラインドオークションは、一定の基準を満たしたコーヒー(全体の10〜20%程度)をオークション形式で取引する機能です。コーヒーの選定にあたっては、私たちが受け取ったサンプルをもとに生産者に出品を提案する場合もあれば、生産者が出品したいと希望を伝えてくれる場合もあります。
「エルサルバドルの生産者からは、ブラインドオークション機能の存在によって、モチベーションが上がったという声をいただいたほか、エチオピアでは、オークションボーナスで、シェカ、シダモ、イルガチェフェの学校に教科書や学用品を贈ることにしたという連絡をもらいました」
「ブラインド」という言葉の通り、オークション開催中は「誰が」「いくらで」入札したかは見えない状態で入札が進んでいきます。購入希望者は自らの評価基準に基づいて最適だと思われる価格を入札し、入札価格順で落札者が決まる、というのが大まかな仕組みです。
「ブラインド」であることにはどんな意味があるのでしょうか?
主な狙いは、過度な価格競争を抑制することです。コーヒーのオークションに参加したことがない方でも、ネットオークションを思い浮かべてもらえば分かると思うんですが、オークションの終了時間間際に入札が殺到して、新たな入札が入ると終了時間が延長され、さらに価格が上がっていくことってありますよね。それから、たとえ素性は分からなくとも、ユーザー名などで入札競争の相手が把握できてしまうと、「負けたくない」って気持ちが芽生えることも珍しくありません。
でもそれは誰のための仕組みなのか、という点に疑問があったため、私たちは購入希望者それぞれがベストだと考える価格を提示してもらい、それに基づいて落札者を決めるルールを作りました。
価格に関して唯一の条件と呼べるものは、オークションの開始価格です。これは生産者のコストを反映したもので、スタート価格を上回った部分についてはすべて生産者に還元されるようになっています。つまり高値が付くと、余剰分がそのまま生産者に支払われるため、より品質の高いコーヒーを生産するインセンティブが生まれるということです。
コーヒー業界では大小さまざまなオークションが開催されていますが、TYPICAのブラインドオークションはブラインドであること以外にどんな違いがあるのでしょうか?
まずはパブリックである点です。従来のコーヒーオークションは、特定の団体に所属していないと参加できないものが多く、そのためにロースターは会費を支払わなければなりません。一方TYPICAの場合は無料の会員登録さえすれば、規模の大小や営業年数にかかわらず、オークションに参加できます。
物流面に関して言えば、ブラインドオークションと通常の予約販売が同じタイミングで行われるので、通常の取引で購入した生豆とオークションで落札したものを同時に配送しています。そのため、参加ロースターはオークションロットのために別途配送コストをかけずにすみ、配送に伴う環境負荷の軽減にも繋がります。
またTYPICAのウェブサイトでは、個々の生産者のインタビューを掲載しているので、ロースターは農園や栽培されている品種、精製方法といったハードな情報だけでなく、人となりを知ったうえでオークションに参加できます。
ブラインドオークション機能の公開から数か月が経ちましたが、これまで実施されたオークションの結果について教えてください。
3月8日から15日に開催された第一回のブラインドオークションでは、タンザニアのコーヒー農園「アカシアヒルズ」から10ロットが出品され、世界9か国のロースターが参加、49件の入札がありました。最も人気の高いロットではスタート価格の2.5倍、その他も大多数のロットに1.5倍を超える価格がついたうえ、それ以降に実施したエチオピアとエルサルバドルのブラインドオークションでも、軒並み開始価格を上回る結果となりました。
オークション実施後、エルサルバドルの生産者からは、ブラインドオークション機能の存在によって、モチベーションが上がったという嬉しい声をいただきました。エチオピアでは、オークションボーナスで、シェカ、シダモ、イルガチェフェの学校に教科書や学用品を贈ったという生産者もいて、当初想定していなかった方向への発展に、私たちのモチベーションも高まりました。
ブラインドオークション機能を今後アップデートされていく予定はありますか?
現時点では入札金額に応じて落札者が決まりますが、今後は生産者がロースターについて知る場を用意し、考え方や構築したい関係性、つまりは価格だけでなく価値感も考慮しつつ販売先を選べるような機能の開発も予定しています。ちなみにこのアイディアは「価格だけでなく信頼し合える相手と長期的に取引がしたい」という生産者の声から着想を得ました。
TYPICAでは新しいコーヒーの販売が開始されるタイミングで、「Meet the Producers」という生産者とロースターが意見交換する場を設けているので、今後もそこで両者の意見をききながらより良いコーヒー取引のありかた、そしてコミュニケーションの方法を模索していきたいです。
この記事は、Standart Japan第20号のパートナーTYPICAの提供でお届けしました。