Meet Our Partners: Mercanta

Meet Our Partners: Mercanta

前回のcores に続き、今回のMeet Our Partners では、Standart Japan 10 号をサポートいただきましたコーヒー商社のMercanta について、ご紹介します。

お話を伺った Stephen Hurst さんは、Mercanta の創設者・CEO で、コーヒーにまつわる教育サービスを提供する London School of Coffee の創設者。また、カップ・オブ・エクセレンスを主催するAlliance for Coffee Excellence のボードメンバーを 8 年間、その内の 2 年間はチェアマンも務めました。さらに、Specialty Coffee Association of Europe(後に Specialty Coffee Association of Americato と合体し、Specialty Coffee Association に名称変更)のボードメンバーも務めていました。

今年 10 月には、カップ・オブ・エクセレンスの 20 周年記念品評会にも参加した Stephen さんにMercanta についてだけでなく最近ニュースでよく見かける生豆の価格問題などについてお話を伺いました。

 

- Mercanta 設立までの背景について簡単に教えていただけますか?

コーヒー業界での仕事をスタートしたのは 1985 年のことでした。当時ゴールドマンサックスのグループ企業であるコモディティコーヒーの商社に在籍しており、1980 年代後半から1990 年代初頭にかけて、北米で新しい流れが起きつつあることをロンドンから感じていました。小・中規模ロースターが求める生豆の品質が、当時広く流通していたものより、ずいぶん上がってきていました。これがスペシャルティコーヒームーブメントの始まりでした。

それから間もなく 1996 年ゴールドマンサックスがコーヒー事業から手を引くことが決まったことをきっかけに、Mercanta を設立しました。北米の様子をみていて、ヨーロッパにもその波が来ると考え、ヨーロッパの(後に世界の)スペシャルティロースターに高品質な生豆を届けるためにサービスを提供しようと考えました。 

 

- コモディティ市場とスペシャルティ市場両方に身を置いてきた方として、現在の価格危機をどのように見ていますか?

かれこれ 35 年近くコーヒーに関わる仕事をしており、1990 年代にも価格下落を目の当たりにしましたが、その頃からインフレがかなり進んだことを考えると、現在のコモディティコーヒーの価格は恐らく過去最低の水準と言えると思います。

供給過多が主な原因と言われていますが、これは 30 年前とまったく状況が変わっていないことを意味しています。つまりこれまで実施された対策やプログラムは機能しなかったということになります。

コーヒーを栽培できる環境にある国はたくさん存在しますが、生産量をコントロールするような取り組みは効果がありません。というのも、「コーヒーを生産するな」と強制することは誰にもできませんので、生産者の事を考えた価格改善プログラムであっても、短期的な見通ししか立っていなければ、単に市場をかき乱すだけで、供給過多の状況を変えることはできないのです。そのような状況は、現在のコモディティコーヒーの価格を見れば明らかです。 そのため Mercanta は、他社と比較してかなり早い段階から、倫理的な調達やダイレクトトレードを推進し、コーヒー市場について現実に即した意見を発信してきました。

London School of Coffe の設立も、価格危機の解決に向けた取り組みの一つです。状況を改善するには消費者に向けた教育・情報の提供、啓蒙が欠かせません。裏を返せば、広く浅く倫理的調達を目指すようなラベルには、そこまで効果がないと考えています。スペシャルティコーヒー業界における品質と価格の関係性はとても複雑なため、パッケージに貼ってあるステッカーに書かれた一言では要約することはできません。

 

- それでは Mercanta ではどんな形で生豆の値付けを行っているんですか?

Mercanta では、NY 市場のコーヒー価格をベースに仕入れ値を決めることはありません。これは私たちが仕入れる全てのコーヒーに共通しています。

仕入れ値は直接交渉で決めており、アラビカコーヒーの最低価格は、品種を問わず FOB US$ 1.80 /ポンドと決めています。例外なく全てです。他社を見てみると、高い価格で仕入れた一部のコーヒーについて情報を開示することはあっても、私たちのように全てのアラビカコーヒーを例外なく US$ 1.80/ポンド以上で仕入れていると言い切れる企業はほぼ存在しないと思います。この価格は、生産コストを US$ 1.50/ポンドと想定し(多くの生産地における生産者コストはこれ以下と理解しています)、その 20%を加算した値です。

それだけでなく、現在 1520 ほどいる生産者パートナーから仕入れるコーヒーは全てキロ単位で管理しており、平均US$ 2.252.50/ポンドの金額を支払っています。

 


- 生豆のインポーターとしてどのようなことを意識していますか?

インポーターというより、「コーヒー商社」もしくは「コーヒー商人」という名前の方がMercanta には合っていると考えています。というのも、私たちのサービスやコンセプトは、「インポーター」という言葉に含まれるもの 以上だと信じているからです。Mercanta という社名も merchant(英語で商人)という言葉からきており、その言葉には遥か遠くの異国から人々がまだ目にしたことのない素晴らしい商品を届けていた昔の商人のような姿を目指すという意味が込められています。

商人は販売する物品の品質を担保するのが普通ですが、多くの人はこの点を誤解しているように思います。商人である Mercanta は新しいコーヒーを発見し、バリューチェーンの各地点での品質を管理し、さらには輸入、関税処理、ファイナンスなどの実務を行うだけでなく、品質と季節感を勘案しながら、世界 40 ヶ国以上の何百という数のスペシャルティロースターに私たちの商品を提案しています。生産者から顧客に コーヒーが届けられるまでのプロセス全てに関わるというのは、実はスペシャルティコーヒーの世界では珍 しいことです。しかしこれこそが、Mercanta     のコンセプトの根幹であり、日々手元のリソースを駆使して最高の商品とサービスを届けられるように努力しています。

- 教育サービスを提供する London School of Coffee についても教えてください。

消費者や企業が、原材料である生豆の品質とカフェで出される飲み物との複雑な関係を理解するためには、教育や状況、コンサルテーション、そして意識の向上が不可欠です。London School of Coffee は、消費者やコーヒー業界の様々な分野で仕事をしている人たちに向けて教育サービスを提供し、彼らの意識に変革を起こすため、10 年以上前に設立されました。

それぞれのフィールドのプロを講師として集め、今年SCAJ より SCA より Q グレーダーのプレミア・トレーニング・キャンパスに認定されました。世界中から集まった生徒は 24 人毎のクラスに割り当てられ、世界トップレベルのコーヒートレーニングを受けることができます。

 

- 日本のマーケットはどのように見ていますか?

2000 年代初頭からは SCAJ に参加し、これまで 15 年以上にわたって日本の顧客にも世界中のコーヒーを提供しています。

日本は、ダイレクトトレードで仕入れた高品質なコーヒーが喜ばれるとても理想的なマーケットと言えます。その一方で、一部の生産国については輸入の障壁が高く、言語の問題や、国内企業との取引を好む文化的な差異など乗り越えなければならないハードルもあります。それでも Mercanta は、多文化企業としての特徴を活かし、それぞれのマーケットの特徴や好みの理解に努めています。企業としての規模は小さいです   が、世界中に点在する7 つの倉庫をハブに、40 ヶ国以上のスペシャルティロースターに生豆を供給しているため、そのカバー範囲はとても広いです。

 

- ちなみに Stephen さんはどんなきっかけでコーヒー業界に入ったんですか?

これはかなり長い話になってしまうので、今度 Standart で取材してくれるのを楽しみにしています(笑)。

 

- コーヒー業界にいなければ今頃何をしていたと思いますか?

セーリングかサッカーチームのマネージャー、ビールの醸造所かウィスキーの蒸留所のオーナーというのオプションも捨てがたいですね! 趣味という意味では、旅行も大好きでこれまでに 60 か国以上を旅しました。あとは読書、バルコニーで海を見ながらカイピリーニャを飲むの好きです。

 

- 最後に Standart Japan の読者へのメッセージをお願いします。

特にロースターの方々にお伝えしたいのが、「正しいことをする」ということです。Mercanta ならきっとそのお手伝いができるはずです。世界中の数百ブランド同様、私たちコーヒーハンターとコーヒーの世界を変えていくことができたら嬉しく思います。