兼松が明かす、コーヒー生豆の商品開発の裏側

コーヒーの「商品開発」と聞いて、どんなイメージが頭の中に浮かんできますか? 異なる産地・品種のコーヒーを掛け合わせて作るオリジナルのブレンドコーヒーや、既存商品の焙煎プロファイルやパッケージに手を加え新たな魅力を引き出したシングルオリジンコーヒーなどを思い浮かべる人もいるかもしれません。では焙煎される前の生豆についてはどうでしょうか。

幅広い品質・産地のコーヒーを 40 年以上取り扱ってきた兼松株式会社(以下、「兼松」)は、生豆の商品開発のプロフェッショナル。コーヒー危機やリーマンショックなどを背景に、これまで幾度となく将来を見据えたコーヒー事業の改革を取り入れてきた同社は、その商品開発力や農園との協力関係を活かし、困難を乗り越える度に自らのビジネスだけでなく、生産者や農園、さらには生産国の成長に寄与してきました。 以下では、そんな兼松の商品開発の裏側をご紹介します。

 

魅力の「作り方」 

今から遡ること30年前、まだ「スペシャルティ」という言葉がそれほど認知されていなかった頃、兼松株式会社のコーヒー事業の中核を担っていたのは、大量生産、大量消費用のコモディティコーヒーでした。

そんな同社が目の当たりにしたのは、過剰供給などを背景に1999年頃から始まったコーヒー相場の大暴落、いわゆる「コーヒー危機」でした。それまで世界のコーヒービジネスの中心的存在であったコモディティコーヒーを生産する人々が徐々に疲弊していく様子に危機感を持ち始めた兼松の面々は、生豆に自分たちなりの付加価値をつけ、品質価値や今で言うSDGsに掲げられた行動目標に繋がるような社会的意義を通じて価格の安定化を図ることの重要性に気づきます。折しもその頃はフェアトレード認証をはじめとする公正な取引を経た商品や生産国の自然環境、労働環境に注目が集まりつつあった時代。そこで同社はスペシャルティ、サステイナブルといった観点を重視したコーヒーの取り扱いに大きく注力していくことになりました。

しかし、新たな付加価値を持ったコーヒーが次第に市場でも認知・普及していく最中のタイミングで発生したのが、サブプライムローンの焦げ付きを発端とする2008年のリーマンショックでした。当初目指したサステイナブルの方向性からブレることなく、刻々と変化する市場環境に対応するためには、同じ商品を同じ価格で販売するだけでなく、別のアプローチも取りいれる必要がありました。

スペシャルティとはまた別の切り口で、購入しやすい価格で、品質を確保しつつ、さらにオリジナリティを併せ持つような商品を開発するにはどうすればいいのか。

議論を重ねた結果、社内で注目を集めたのがキャッチ—な「〇〇マウンテン」という商品名でした。「『トロピカルマウンテン』はどうだろう?」そんな発言から商品開発がスタート。「トロピカル」という言葉にマッチする生産地や味わいを求めて、さまざまな地域を比較検討した結果、産地として選ばれたのがパプアニューギニア(PNG)でした。

しかし単にPNGのコーヒーを輸入し、トロピカルマウンテンという名称を付けたところで、当初の目標であった価格、品質、オリジナリティという条件を満たすことはできません。そこで同社は現地の政府関連機関であるコーヒー協会(CIC)と協働し、栽培地の標高やスクリーンサイズ(生豆の大きさ)などの規格基準を独自に設定。また品質を安定させるための取り組みとして、外部機関に品質検査を委託し、その検査をクリアしたコーヒーをさらに自社のカッピング検査にかけるという二重の品質管理体制を築き、文字通りPNG産コーヒーの「売り」と独自の付加価値を両立させていきました。

兼松が運営する、主に自家焙煎店を対象とした生豆の販売プラットフォーム「Coffee Network」(coffee-network.jp)を利用し、トロピカルマウンテンを定期的に購入している豆ポレポレ(沖縄県)オーナーの仲村良行氏は、その価格と品質の安定性を評価しており「いわゆるプレミアムコーヒーの価格帯は通常品質のブレが多いものの、トロピカルマウンテンは品質が安定しており、欠点豆や異物の混入もありません。強烈な個性というよりも寄り添うようなフレーバーで、ハウスブレンドや卸売り商品、さらにはカフェオレのベースなどにいつも使っている」と言います。

またプラットフォームとしてのCoffee Networkの魅力についても「開業時に生豆の購入先を検討していたときは、ボリュームを理由に断られることも多かったのですが、Coffee Networkだと小ロットでの販売も行われているので助かりました。買う側の心理としても、ネット注文だと例えば継続利用するかまだわからない段階で、一回使ってみようという気になりやすい。メールや電話でのオーダーだと、そこまで気軽にはお願いし辛いと感じることが多いんですよね」と語る仲村氏。 

 

二人三脚で切り開く新しい道

消費地からの要望に応えるだけでなく、生産者や農園が主体的に新たな価値を提案すべく商品開発に取り組むケースもあります。過去15年以上、兼松でコーヒー事業に携わってきた全ての担当者をもってして「兼松のコーヒー事業の魂」と言わしめる、ブラジルのDaterra農園もそんな革新的な農園のひとつです。

Daterraと兼松の出会いのきっかけは2003年、同園がレインフォレストアライアンス認証を取得したときのことでした。環境を守りつつ、従業員が誇りを持ってコーヒー生産に携われるような経営を画策していたDaterraの哲学に共感し、兼松は同園に直談判し日本における総代理店に就任。兼松との取引開始当初こそ、コモディティに近い品質と価格帯の商品を主に生産していたDaterraですが、スペシャルティコーヒー市場の拡大を受けて、特徴のない素朴な味わいと評されることの多かったブラジルコーヒーのイメージを変えるべく、次々と新しい施策を打ち出していきます。

2000年代終盤からはそれまでの安価なコーヒーに加え、高単価、高品質なコーヒーの栽培に更に注力し、日本では兼松がCoffee Networkを通じて新商品の販売をスタート。さらに展示会やイベントへの参加を通して、他の生産国の情報が入ってくるようになった結果、2014年からは新しい精製方法の導入や機械に頼らない収穫、プライベートオークションの開催、全栽培エリアの1%ほどを使って手間暇をかけて栽培される最高級ライン「マスターピース」の開発など、多面的なアプローチをとるようになりました。そして常に前を向いて進むDaterraを支えるべく、兼松は日本のマーケット情報の共有や、日本で行われる展示会やイベントでのサポートに注力してきました。

両社の繋がりはビジネスだけに留まりません。Daterraで市場開発マネージャーを務めるGabriel Agrelli氏が2013年に初めて日本を訪れたときのことを思い返し、当時の兼松担当者は次のように語ります。「休日に築地を自転車で訪れ、夕食の食材を調達がてら、市場を紹介して回っていました。するとGabrielさんは自転車であちこちを回るという体験をそれまでしたことがなかったようで、いたく感動してくれたんです。それ以後、彼は誰かがDaterraを訪問すると自転車で園内を回るようになったそうです」

そんな近しい関係にある両社が届ける生豆を利用しているTRUNK COFFEE(愛知県)オーナーの鈴木康夫氏は次のように語ります。「マスターピースのようなトップロットの品質は、深堀絵美さん(2018年世界ブリュワーズカップチャンピオン)が証明したようにパナマゲイシャにも引けを取らないし、1つ下のグレードでも本当に良いものが多いです。ブラジルは消費者や業界の中でも少し下に見られることが多いですが、ブラジルの印象を変えたのがDaterra。価格面については、Daterraだけの企業努力ではなく、兼松の力もあると思います。コマーシャルもスペシャルティも扱う同社だからこそ、輸送時にさまざまな豆を混載することで輸送コストを下げられますからね」

 

名誉挽回の二手

コーヒー好きでなくとも、一度は耳にしたことがあるであろう「ブルーマウンテン」という名前。ジャマイカにあるブルーマウンテン山脈の標高800~1,200mのエリアで栽培されたコーヒーのみがその名を冠することを許され、日本では希少かつ高価なコーヒーとしてのイメージが根付いています。1953年から国内での流通がスタートし、兼松もコモディティコーヒーがメインの取り扱い商品であった頃から、「プレミアムライン」としてブルーマウンテンを輸入・販売し、1981年に日本で誕生したジャマイカコーヒー輸入協議会にも早い段階から参加しています。

しかし先述のようにブルーマウンテンの高級なイメージが広まり過ぎた結果、過度なブランド化が進み、2000年頃からのスペシャルティコーヒーの普及と相まって、「ブルーマウンテンは価格と品質に不均衡が生じているのではないか」という声が徐々に聞こえるようになりました。そこに追い打ちをかけるようにして、2008年のリーマンショックの影響により、ブルーマウンテンの活躍の舞台であったギフト市場が縮小。以後、日本におけるブルーマウンテンの市場は徐々に縮小していき、日本のあちこちで余剰在庫が生まれました。その結果、次第に古い生豆が市場に出回り始め、ブルーマウンテンと名の付いたコーヒーの評判がさらに下がるという悪循環が生まれてしまったのです。

そんな状況の中、40年近く付き合いのあるジャマイカのパートナーJamaica Coffee Corporation社(JCC)と従来通り取引を継続することが難しくなりつつあり、スペシャルティコーヒーと同じようなサステイナブルの観点が必要だと感じた兼松は、ブルーマウンテンの再起をかけた商品開発に取り組み始めます。当時流通していたブルーマウンテンは、グアテマラやコロンビアで生産された4分の1以下の価格のコーヒーにも品質面で劣ると評されることがありました。一体どこに違いがあるのか——その疑問への答えを渇望するJCCの熱意を受け、兼松の担当者は同社のStephen Shirley氏と一緒に、グアテマラとコロンビアを訪れることにしました。しかし訪問の結果分かったのは、人為的な取組ではなかなか克服しづらい、栽培エリアの標高をはじめとする自然環境要因が最大の違いだという厳しい現実でした。

そこで両社は角度を変え、次は生豆の選別プロセスに目を向けることに。現在のブルーマウンテンの最高等級であるNo.1の輸出規格はスクリーンサイズが17以上とされていますが、現地の関係者に話を聞いたところ、かつてはスクリーンサイズ19以上が規格として適用されていたことがわかったのです。実際に現在の輸出規格に適合した生豆をふるいにかけたところ、19以上が約20%、18以上が40%、17以上が40%弱、17未満が1%以下と生豆のサイズにばらつきがあることが判明。そこでスクリーンサイズ19だけを選別したところ、フレーバーに統一感が生まれ、見た目にも美しい商品——ブルーマウンテンの復興の願いを込めた、その名も「Re-Discovery」が誕生しました。

一方、商品開発に兼松の顧客が参加するというケースもあります。同社から長年ブルーマウンテンを購入していた小川珈琲株式会社は、先述のような状態にあったブルーマウンテンの存続を危惧し、兼松の社員と共に2016年にジャマイカを訪問します。その発端は、兼松が取引を行っていたGold Cupというもうひとつの農園の生産者から、自分達の農園の中でも、一部の区画で育ったコーヒーは他のエリアのものよりもおいしく感じるという話を耳にしたことでした。生産者の声を信じ、標高別に区画を分けて比較したところ、確かに味わいの違いが感じとれたのです。

ブルーマウンテンの栽培エリアはもともと限られていたため、それまで農園指定、ましてや区画指定が行われることはありませんでした。また、ある区画で育ったコーヒーだけを選り分けるとなると、当然その分コストも増加します。しかしそれでもブルーマウンテンというブランドを存続させるため、そしてこれまでブルーマウンテンを栽培してくれた生産者のためにも、コスト増は仕方がないと考えた小川珈琲は対象区画の全量買い取りを決断しました。当時の背景について同社常務の宇田吉範氏は次のように語ります。

「私たち小川珈琲にはポリシーがあります。いろんなコーヒーをカッピングして、おいしいものだけを買うという企業やバイヤーは一定数存在し、そのやり方を否定するつもりはありませんが、私たちの考えはそうではないんです。大切にしているのは、長い取引を通じて産地の将来を作っていくという意味でのサステイナビリティ。コーヒーは農産物ですので、その年の作柄によって品質にブレが生じます。でもそれも含めて責任を持ち、そこでできるものはすべて買い、そして売る努力をする。このような私たちの考え方を理解し、一緒に汗をかいてくれるから兼松と一緒にブルーマウンテンに再度真剣に取り組もうと決めたんです」

 

「あの農園のコーヒー」という選び方 

ここまでにご紹介した通り、兼松は生産地のパートナーや顧客を巻き込んでこれまでさまざまな商品を開発してきましたが、そこに込められた思いやストーリーを伝えるためであれば、B2Bの枠組を越えることもいといません。

先述のDaterra農園のAgrelli氏がSCAJワールド・スペシャルティコーヒーカンファレンス・アンド・エキシビション(SCAJ)を目的に再来日した2015年は、東京コーヒーフェスティバル(TCF)が初めて開催された年でした。独立系の新興ロースターのブースに長い列ができる様子を目にしたAgrelli氏は興奮し、兼松に翌年の参加を提案。生豆を取り扱う兼松にとって、一般消費者が主なターゲットである同イベントへの参加は短期的なメリットがあるとはいえませんでした。しかしより多くの人に同園の魅力を伝え、ゆくゆくは「Daterraのコーヒーが飲めるあの店に行こう」という新たなカフェやコーヒーの選び方が生まれれば、長期的には兼松、Daterra双方に喜びとメリットをもたらすだろうという考えから参加を決意。当日はブース前に長蛇の列が作られ、潜在顧客以外の人たちにもDaterraのことを知ってもらうことに成功しました。

SCAJやTCFといった大型のイベント以外にも、顧客の依頼に応える形でカフェや焙煎所で一般消費者に向けて農園や生産地の情報を共有するといった取り組みを行う兼松。そこには自分たちが生産国と消費国を結ぶ存在でなければならないという使命感に加え、「売り続けることで買い続けられる」というビジネス関係のサステイナビリティを重視する姿勢が表れています。 

 

兼松が明かす、コーヒー生豆の商品開発の裏側

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