#27:映り変わる景色

#27:映り変わる景色

おはようございます。今週はどんな一週間でしたか?

先週、アメリカのコーヒーニュースメディアSprudgeが開催する2020年Sprudgie Awardの結果が発表されました。今回から雑誌と本のセクションが統合され票が分かれたこともあってか、残念ながらStandartの4年連続の受賞には至りませんでしたが、Standartに投票してくださった方のおかげで、また今年もファイナリストに選出していただけました。この場を借りて、皆さんに感謝を伝えたいです。

受賞はできなかったものの、とても誇らしいこともありました。Standart Japan 14号に掲載されたFabiana Carvalho執筆の長編記事「色と知覚の関係」が2020年のベスト・コーヒー・ライティング賞を受賞しました。また、 Noa Berger執筆による「パリ」(Standart Japan 10号のシティプロフィール)も同カテゴリーでファイナリストに選出されています。これらの記事はStandartを通じて紙媒体でしか読むことができないので、世界中のコーヒープロフェッショナル&コーヒーラバーが読んで投票してくださったことを考えると、実はこれはかなりすごいことだと思っています。彼女たちのクリエイティビティをStandartを通じて発信できたことを嬉しく思います。まだ読んでないよという方は、この機会にStandartをサブスクしているコーヒー屋さんで読んでみたり、お取扱店やStandartのサイトでチェックしてみてください。

そしてこれは毎年SNSなどでも発信していることですが、このSprudgie Awardの他カテゴリーの受賞者やファイナリストをチェックするだけでも世界のコーヒー業界の今を垣間見ることができます。気になるものはどんどん掘ってみてくださいね。

来週は、1月27日(水)の日本時間21:00~22:00にStandart Japanの編集長Toshiと制作統括のAtsushiが久しぶりにインスタライブをやります。昨年7月から始めたこのWeekend Brewについて、皆さんからの質問にお答えしながらゆるくやりたいと思いますので、お時間ある方はご参加いただけると嬉しいです。

Team Standart Japan

 

 

This Week in Coffee 
世界のコーヒーニュース

わかりやすさの不透明性

農家との関係構築とサプライチェーンの透明性向上を図るダイレクトトレード。しかし私たち消費者とはどこまで透明性の高い関係を築いているのでしょうか?
 
前提として、ダイレクトトレードは認証ではなくそのアプローチを指していることから、明確な基準は存在せず、ロースターへのインタビューによれば生産者と買い手の二者単独の取引自体が稀との指摘も。なぜなら二者単独の場合、関係性だけでなく、支払いや物流、生産国/消費国とのネットワーク構築といった高度な知識が両者共に必要とされるからです。加えて、実際はトレーサビリティが不十分にも関わらず企業のマーケティングに利用される事例や、国境封鎖などのあらゆるリスク管理もこの取引モデルの障壁とのこと。これらを踏まえ、こちら記事ではコーヒーに関する高い知識や人脈・リスク管理力等を兼ね備えた(かつては批判対象だった)仲介者こそ、ダイレクトトレードの浸透には必要であると語られています。
 
ここで重要なのは手段と目的の区別のように感じます。「サプライチェーン全体の透明性と公正性の確保」という目的の手段として認証や取引モデルは存在しています。私たち消費者を含む社会全体が本当の目的について考え、その上でより良い手段を選択する習慣が必要とされているのではないでしょうか。そして私たちが目的を追求した先には、いつも他者の存在があるように感じます。なぜなら本当に美味しいコーヒーの先にはいつも、届けたい存在がいるのですから。

 

パナマからのニュースレター

昨年11月、映画コンペ Los Angeles Film Awards(LAFA)でBest Inspirational Film Awardを受賞したパナマコーヒーのドキュメンタリー『Higher Grounds』。そのストーリーは1989年、新自由主義を掲げる米国のICA (International Coffee Agreement)脱退から始まります。米国脱退は協定全体の崩壊を招き、ICAの輸出割当制度に基づいて管理されていたCプライス(コーヒー市場価格) が大暴落する苦境の最中、パナマはコーヒー生産を継続しました。その後高品質コーヒーの需要の高まりやSCAP (Speciality Coffee Association of Panama)の発足を皮切りに、世界を熱狂させる今日のパナマコーヒーに至るまでの歩みが本作では描かれています。
 
全体を通じ、「世界の中のパナマ」、「コーヒー産業における米国」という2つの文脈が感じられ、あらゆるシングルオリジンの物語は一つの大きなコーヒー史の中に存在していると改めて気付かされます。またコーヒーの品質向上に際して「まずはカッピングを知ること」と作中で語られるように、生産国側が官能評価を理解し、市場が求めるフレーバーを知る必要を、パナマが一丸となってコーヒー生産に取り組む姿勢からも感じられます。そして後半のパナマ・ゲシャ種の登場はアクション映画を彷彿させる盛り上がりで、お世辞抜きでカッコいい。
 
ちなみに同映画内のアートワークは、本誌最新号のパートナーロースターVerve Coffee Roastersが発行する会報誌とそのイラストレーターから提供されているそうで、広くも狭い世界の繋がりを感じてなりません。現在日本からはこちらで有料視聴が可能です(PayPal決済推奨)。皆さんの週末のお供にいかがでしょうか?

 

その他の気になるニュース

▷ ネスレが2025年までに取り扱う全てのコーヒーのトレーサビリティを確保すると発表。今後同社はサステナビリティ領域に巨額投資を計画中で、農家の所得向上、CO2削減、リサイクル・リユーザブル包装への移行が最優先事項とのこと。

▷ ドイツのコーヒーマシンメーカーWMFが、同社製品を体感できるバーチャルショールームを開始。ショールーム内のスムーズな移動に加え、ワンクリックで機器詳細や動画視聴も可能な新感覚のバーチャル体験。ショールームを覗いてみたい方はこちらから。

▷ 12年間コーヒー好きの同僚たちに囲まれ、遂に自作エスプレッソマシンの製作を始めたMorseさん。入門機でも$800はくだらないエスプレッソマシンですが、制作費用はなんとたったの$550。彼の名が世界に広まる日も、そう遠くないかも?

▷ 日本にもファンの多い『Espresso Coffee』著者のDavid Schomerさんがトレーニング動画を有料配信中。プロだけでなくホームバリスタ向けの実践的な知識や技術も盛りだくさんです。

▷ ソーシャル(社交的)ディスタンスを確保しつつも、行くだけで笑顔になれるドイツのとあるカフェ。規制緩和後も要望があれば帽子貸出は継続するそうで、今後も来店される人々の笑顔と距離の確保に努めるそうです。

 

 

What We're Drinking
今週のコーヒー

OORT CLOUD COFFEE
静岡

遠い異国の高地の農園、そんな少しだけ宇宙に近い場所で栽培収穫された農作物に私達は心を奪われ続けています。その多様な風味特性から遠い彼方の風景を想起できるのもスペシャルティコーヒーの素晴らしさのひとつ。OORT CLOUD COFFEEという名前は、理論上の天体群「オールトの雲」に由来するのだそう。

生産者
 
エドゥアルド・エステべ

生産地域
メキシコ チアパス州パヴェンクル(地図
品種
スターマヤ種
精製方法
ハイドロファーメンテーション (フリーウォッシュド+ソーキング)
テイスティングノート

レモン、ローストアーモンド、三温糖、明るく綺麗な酸味、しっかりとフレーバーを感じられます。それでいてどこかしら可愛らしい印象を受けるのは心地よいローストアーモンドの優しい風味が効いているからでしょうか。


Standartの感想:

香りにほんのり甘さやスパイスを感じさせるコーヒーで、豆を挽いた時はハーバルなトニックウォーターのような、お湯を注いだ時はきな粉やチャツネのような。飲み口は鮮やかでフレッシュ、スターフルーツのような香りが口から鼻にぽわんと広がり、ミカンの甘酸っぱさを感じました。殻ごと茹でた落花生を剥いた時に閉じ込められていたナッツ香が鼻の奥に昇っていくような感覚、そしてピーナッツを薄皮ごと口に入れて噛み締めた時にジワジワ〜っとくるナッツのほっこり感も。温度が下がるとどんどん甘みが強くなっていき、これはいくらでも飲めそうだと感じたコーヒーでした。しかも品種名のスターマヤって、もうそれだけでなんか美味しそうな雰囲気醸し出してます。

 


Inspiration
おすすめの本、映画、音楽、アート

三つ編み | レティシア・コロンバニ
詳細


フランスでベストセラーとなったいわゆるフェミニズム小説。32か国で翻訳されていて、世界的にも有名な作品です。現代のインド・イタリア・カナダに住む3人の女性が主役で、各々に苦しみを抱えた彼女らがそこから解放されるまでの人生を交互に語りながら物語が進みます。この3人の女性の人生が「髪」をテーマに絡み合って繋がって行くんですが、著者が映画監督ということもあってか、シーンや登場人物の心境が映像に浮かぶような語りと、その編集と構成に魅了され、ページをめくる手にも力が入りました。コロンバニさんがHUFFPOSTのインタビューで「私にとってフェミニズムとは、アンフェアな性差別のある社会に異を唱えること。それを行う人がフェミニストであり、男性か女性かどうかは関係ない。性差別のない社会を作るために、男女が対立する必要はありませんから」と語っていて、ストーリーや男性や女性の登場人物にその考えが反映されているなと感じます。女性が自由や自立を勝ち取るような物語やフェミニズムを女性が主張する際には、男性との対立というパターンで語られることが多い中で、フェミニズムは男と女を対立させるものではなく、「性差別からの解放と両性の平等とを目指す思想・運動」という本来の意味で捉えている彼女の考えに深く共感しました。この本は、原作がフランス語の本とスペシャルティコーヒーを扱うブックカフェNautilusで紹介してもらいました。コーヒーがまた、素晴らしい本との出会いを作ってくれたことに感謝。

muute | アプリ
ウェブサイト

Standartがニュースレターを始めるにあたって多くのインスピレーションをもらった、世界中の情報を集めキュレートする週間ニュースレターLobsterr。そのファウンダーの一人である岡橋惇さんがプロダクトデザインを手がけているAIジャーナリング・アプリ『muute』がおすすめです。要は日記なんですが、書いた文章から自分の思考や感情をAIが分析してフィードバックをくれるというもの。SNSでは本音が言えないと考えているデジタルネイティブなZ世代を意識して開発されたアプリだそうですが、日々いろんなことに追われて自分自身の考えや想いなどを整理する時間が取れていないなと感じていたこともあり、その時間を意図的に確保するという目的で使用し始めました。使い始めてまだそんなに経っていませんが、誰にも見られることのないデジタル空間で自分と向き合う毎日の時間が、想像以上にマインドフルネスの効果をもたらしてくれています。これまで気づかなかった新しい自分を発見できそうな予感。余談ですが、以前、代官山 蔦屋書店で京都の大山崎 COFFEE ROASTERSさんとご一緒に岡橋さんとイベントをさせていただいたのも良い思い出

 


Brewing with…
あの人のコーヒーレシピ 

堤 蓮(つつみ れん)
aka Renja Ninja

12歳から9年間ニュージーランドに単独留学。オークランドでフラットホワイトに出会いコーヒー沼にハマる。相方と共にhano coffeeを運営。 最近日本のhip-hopを聴き始めたのでオススメある方は是非教えて下さい!

セットアップ:

抽出器具:Aeropress
豆量:18g
湯量:240g
挽き目:中粗挽(みるっこで#5.5)
抽出温度:89℃
抽出時間:蒸らし1:30、プレスに30秒


手順:

  1. フィルターとサーバーを湯通しする
  2. インバートでセットアップし(ラバー部分だけ収まるくらい)、粉を入れる
  3. お湯を全量回しかけ、1分30秒蒸らす
  4. 10回優しく撹拌する
  5. フィルターを付けて30秒かけてプレス

 

ポイント:
▷ ペーパーフィルターでもメタルフィルターでも美味しく抽出できます

一言:

以前こちらのコーナーに登場したりんたろうさんの蜃気楼珈琲でポップアップカフェを開いています。 近くにいらした際にはふらーっと遊びに来てください。 色々と大変な時期ですが、皆んなで頑張って乗り越えましょう!

 

 

今週の The Weekend Brew はいかがでしたか?

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今週の The Weekend Brew は Standart Japan 第14号スポンサーの Victoria Arduino x トーエイ工業、パートナーの MiiR JapanBarista Hustle JapanSucafina のサポートでお届けしました。

LOVE & COFFEE✌️
Standart Japan