
旅とコーヒーの思い出
初めて訪れた街で飲む朝一番のコーヒー、現地のバリスタとの会話、カフェでの偶然の出会い——旅はコーヒーの新たな思い出を生み、コーヒーは旅をより豊かにしてくれます。今回は、旅とコーヒーをテーマとしたStandart Japan 第37号の記事『カップが示す方角へ』に合わせて、日本を代表するコーヒープロフェッショナルたちに、自身の旅とコーヒーの思い出を聞きました。
記事の全文はこちらから「カップが示す方角へ」
質問
①コーヒーにまつわる思い出が深い旅先(国や地域)
②その旅の目的や、旅に出た理由
③その旅で出会ったコーヒーやコーヒーショップ、バリスタとの会話など、コーヒーにまつわる思い出
④そのほか、旅のなかで心に残っているエピソード

小島賢治Kenji Kojima
nexpect coffee Founder & Director
①コーヒーにまつわる思い出が深い旅先(国や地域)
ノルウェーのオスロ
②その旅の目的や、旅に出た理由
現地のカフェに広がるローカルなコーヒータイムを体験するため。
③その旅で出会ったコーヒーやコーヒーショップ、バリスタとの会話など、コーヒーにまつわる思い出
オスロの中心から少し離れた場所にある大好きなカフェで、朝に飲むカプチーノ。朝の喧騒とは裏腹に、店内では近所の人たちがバリスタとの会話を楽しみながらコーヒーを飲んだり、テイクアウトしたりしていました。言葉は理解できなくても、自分もノルウェーで暮らしているような気分になれたことが、とても心地よかったです。犬の散歩がてらコーヒーを飲んでいた女性と話すと、彼女はこの店が世界チャンピオンのカフェだと全く知らずに毎日来ていたことがわかりました。こうしたエピソードも、この街のコーヒー文化が好きな理由のひとつです。
④そのほか、旅のなかで心に残っているエピソード
知らない都市のコーヒーショップに行くときは、期待値をできるだけ下げるようにしています。コーヒーが美味しければもちろん嬉しいですが、それよりも、そのカフェに差し込む朝の日差しが綺麗だなとか、バリスタと常連客の挨拶が素敵だなとか、小さな幸せを見つけることを心がけています。どんなに小さくても「素敵だな」と思えることを見つける気持ちが、カフェでの時間をより一層楽しくしてくれると思っています。

須永紀子Noriko Sunaga
MANLY COFFEE 代表、ロースター、バリスタ
①コーヒーにまつわる思い出が深い旅先(国や地域)
2011年に訪れたロンドン、コペンハーゲン、オスロの旅
②その旅の目的や、旅に出た理由
「コーヒーで世界一になる!ならばその現場を知らねば!」と、2011年にロンドンで開催されたWBCへ行き、あわせてコペンハーゲンとオスロも訪れました。
③その旅で出会ったコーヒーやコーヒーショップ、バリスタとの会話など、コーヒーにまつわる思い出
コペンハーゲンのCoffee Collectiveで初めてエアロプレスを飲み、その美味しさに衝撃を受けました!笑顔で楽しそうにコーヒーについて話してくれたバリスタの雰囲気も印象的でした(もしあのとき、不機嫌そうにコーヒーを渡されていたら、今頃エアロプレスをしていなかったかもしれません)。それからオスロへ移動し、最初に向かったのがJAVA。そこのバリスタに「ナイスな日本人がいるから行ってみて!」と紹介されたのがFUGLENで、そこにいたのが、後に一緒にジャパン・エアロプレス・チャンピオンシップを主催することになる、“エアロプレスの父”こと小島賢治さんでした。
④そのほか、旅のなかで心に残っているエピソード
最初のコーヒーの旅、シアトルです。まだスターバックスでバリスタをしていた頃、本社を訪れ、当時CEOだったハワード・シュルツさんとお話しする機会がありました。「Big Dream!(視野を広く持ち、大きな夢を持ちなさい)」といただいた言葉は今も胸の中で輝いています。

鈴木樹Miki Suzuki
株式会社BrewPeace/珈空暈 GM・コーヒーマネージャー
①コーヒーにまつわる思い出が深い旅先(国や地域)
台湾
②その旅の目的や、旅に出た理由
2025年、休暇をとって訪れました。仕事以外の目的で海外を旅するのは久しぶりで、時間にも心にもゆとりのある旅でした。旅のリサーチを始める前から、私のGoogleマップには、珈空暈を訪れたゲストたちが教えてくれた台湾のコーヒーショップが、すでにひしめき合っていました。
③その旅で出会ったコーヒーやコーヒーショップ、バリスタとの会話など、コーヒーにまつわる思い出
私が働く珈空暈には、海外から多くのゲストが訪れます。約90分のコースを通して、私たちは日本の食材や文化、コーヒーの楽しみ方を紹介していますが、実際には、ゲストからその人の国の文化や、お気に入りのコーヒーショップについて教えてもらうことも少なくありません。台湾ではそのリストを頼りに、ゲストたちが勧めてくれたコーヒーショップを巡りました。その人が普段どのようなコーヒーに親しみ、何を好み、そのうえで日本での体験をどのように楽しんでくれたのか。実際にその土地を訪れることで、店で交わした会話の背景を知ることができました。
④そのほか、旅のなかで心に残っているエピソード
ゲストから教えてもらった場所を自分の足で訪ねることは、珈空暈で始まったコミュニケーションの続きを体験するような時間でした。私たちが一方的に日本を紹介しているのではなく、ゲストもまた、自分たちの国や文化を私たちに伝えてくれていたのだと思います。その足跡をたどったことで、店内での接客に一つの往復が生まれ、ようやく完成したように感じました。コーヒーを通じてその人を知り、その人を通じて土地を知る。台湾での時間は、これまで珈空暈で交わしてきた会話の「答え合わせ」のような旅になりました。

石井康雄Yasuo Ishii
株式会社LEAVES COFFEE ROASTERS代表取締役
①コーヒーにまつわる思い出が深い旅先(国や地域)
パナマ、リオ・セレノ
②その旅の目的や、旅に出た理由
コーヒーの買い付け
③その旅で出会ったコーヒーやコーヒーショップ、バリスタとの会話など、コーヒーにまつわる思い出
パナマとコスタリカの国境付近にあるEYLA COFFEE 365 Farmでのことでした。彼ら一家のコーヒーはまだアジアに流通しておらず、どんなコーヒーと出会えるのかとてもワクワクしていました。ダビッドから車で走ること数時間、温かく迎えてくれた彼らのなかで、一人の青年Abnerから、まるで子どもがヒーローに会ったときのような熱い視線を感じました。「どこかで会ったことがありますか?」と尋ねると、「君のドリッパーを買うためにサンディエゴのWOCに行ったんだ!」と一枚の写真を見せてくれました。そこには、私とORIGAMIが共同開発したドリッパー「PINN」を片手に、僕と満面の笑顔で写る彼の姿がありました。僕は、世界のどこかで自分たちのコーヒーが飲まれていることを「コーヒーが一人歩きする」と表現しますが、それがドリッパーでも、しかもパナマで起きるなんて想像もしませんでした。
④そのほか、旅のなかで心に残っているエピソード
AbnerのPINNドリッパーを使って、彼のためにコーヒーを淹れたことは一生忘れない思い出です。あの時の彼の表情が今でも忘れられないです。

畠山大輝Daiki Hatakeyama
Bespoke Coffee Roasters 代表/ロースター
①コーヒーにまつわる思い出が深い旅先(国や地域)
イタリア・ミラノ。
②その旅の目的や、旅に出た理由
2021年、World Brewers Cupに日本代表として出場するために訪れました。当時は旅行ではなく、完全に「競技をしに行く」という感覚でした。渡航前から大会のことで頭がいっぱいで、街を楽しむ余裕はあまりなかったように思います。ただ、今振り返ると、競技そのものだけでなく、その期間に出会った世界中のバリスタや、ミラノの日常の中で触れたコーヒー文化や街並み、人々まで含めて、とても思い出深い旅になりました。
③その旅で出会ったコーヒーやコーヒーショップ、バリスタとの会話など、コーヒーにまつわる思い出
大会期間中、バックヤードでは他国のバリスタが淹れたコーヒーを飲ませてもらったり、自然と交流が生まれていました。アメリカ代表でONYX COFFEE LABのエリカがウイスキーを持ってきていて、競技後の結果発表までの間にみんなで乾杯したこともよく覚えています。世界大会なので、ステージの上では当然ライバル同士ですが、バックヤードでは同じコーヒー好きたちが集まっている、という雰囲気がありました。国も言葉も違いますが、一杯のコーヒーがあるだけで自然と会話が始まる。そのことがとても印象に残っています。
④そのほか、旅のなかで心に残っているエピソード
もう一つ強く記憶に残っているのが、会場の近くにあったガソリンスタンドです。周囲には何もないような場所だったのですが、店内には当たり前のようにエスプレッソを提供するバーカウンターがありました。「こんなところにまでエスプレッソ文化が浸透しているのか」と驚いて、思わず1ユーロを探し出して注文しました。砂糖を入れて飲んだそのエスプレッソが、想像していた以上においしくて、さらに驚かされました。有名なコーヒーショップや特別な一杯だけではなく、ガソリンスタンドのような日常の場所にまでエスプレッソが当たり前に存在している。その光景を見て、イタリアではコーヒーが「特別なもの」というより、生活そのものの一部なのだと実感しました。世界大会のバックヤードで飲んだトップバリスタたちのコーヒーと、ガソリンスタンドで砂糖を入れて飲んだ1ユーロのエスプレッソ。その両方が、今でも同じくらい強く記憶に残っています。

