#72: 作家、アナログシンセ、コーヒー

#72: 作家、アナログシンセ、コーヒー

おはようございます。今週はどんな一週間でしたか?

今週、この数十年のコーヒー業界の動向が詳しく分かるレポートをComunicaffe Internationalが公開しました。「コーヒー業界はこの10年間、M&Aの嵐の中にいる。世界のビッグプレーヤーがコーヒーに注目しているということは、これからもっと成長が期待できるということなのか?」という問題提起から始まるこのレポートは、シモネリグループのマーケティング&コミュニケーションチームを率いるマウリツィオ・ジュリ氏が執筆したもの。

さまざまな参照先から得られるデータ・統計をもとにこの数十年を総括するような内容で、非常にしっかりとまとまっています(コーヒー関連のフォーラムなどでお金を払って聞くようなレベルの情報量と質で、驚きました)。大枠としては、生産人口の増加、収入増加、文化変容という三つの大きなファクターによってコーヒーの消費が伸び、その傾向は今後も続くだろうとのこと。お茶の文化がある地域はコーヒー文化を受け入れて消費パターンが変容しやすいという結果も頷けるものがありました。また、従来のコモディティとスペシャルティの違いは、その中間層(それなりの品質で手の届きやすい価格)の拡大で徐々になくなっていき、スペシャルティはニッチに留まるという気になる考察も。最終的な結論では、市場は拡大していくだろうと予測されているものの、サステイナブルな未来を作っていく上で環境や社会的かつ経済的な問題が大きな壁になるのは間違いないと締め括っています。これから10年、20年先のコーヒー業界を(また我々を含む業界にいる人たちは自分たちの未来を)考えるきっかけになりそうです。

今週のStandart Japanは、月曜日に最新号のサンプルコーヒーを提供してくれたMocha Originsのオーナーであるタレクさんと、インスタライブをやりました。イエメンのコーヒーやMocha Originsの取り組み、タレクさんの日本での生活についてなど、いろんなお話を伺うことができましたよ。IGTVにアーカイブがアップされているので、お時間ある方はよければぜひ。

それでは良い週末を。

編集長 Toshi

 

 

 

This Week in Coffee 
世界のコーヒーニュース

余白が彩る多様性

以前のニュースレターで紹介した「分身ロボットカフェDAWN ver.β」が、2021年度グッドデザイン大賞に選ばれました。「分身ロボットカフェ」というフレーズは、難病や重度障害などで外出困難な人が、遠隔操作ロボットOriHimeを操作する「パイロット」として自宅から接客を行っていることに由来します。またOriHimeの開発元であるオリィ研究所は、労働意欲のある外出困難者の雇用創出と共に、テクノロジーを活用して人々の社会参加を妨げる課題の解決を目指しています。

興味深いのが、OriHimeのパイロットの中には重度障がいを持つ人々以外に、メルボルンに住む子育て中の女性も含まれているという点です。開発者である吉藤 オリィさんのコメントによると、同社は「障害」を障害手帳の有無ではなく、「したいことがあるのにできない状態」と考えているのだそう。外出困難者たちの労働機会の創出はもちろん、さまざま機会へのアクセスが制限された人たちの生活範囲が広がっていくことは、社会全体にはびこる抑圧的な規範やステレオタイプをほどいていくことに繋がっていくかもしれません。

「多様性」という言葉を耳にする機会が増える一方で、そこには目に見えない範囲が設定されているように感じられることもあります。単に枠組みを押し広げるのではなく、むしろその外側に出て積極的に余白をデザインすることこそ、誰にとっても心地よい世界を創造するうえで大切なのではないでしょうか。

その他の気になるニュース

▷ ブルーボトルの南カリフォルニア全店舗で、オーツミルクがデフォルト提供されることに。以前数店舗限定で行ったパイロットプログラムで、ラテ系オーダーの約75%が植物性ミルクで提供されたことを受け、今回の導入に至ったようです。


▷ ブラジル・ベトナムのコーヒー産業が苦境に立たされる中、ウガンダ産コーヒーの輸出量・額が増加中。2021年10月時点で輸出額は約742億円に達しており、この数字は前年比28%増に当たります。

▷ 英国在住者の約75%が公衆トイレではなく、コーヒー代を払ってでもコーヒーショップのトイレを利用するという報告が。衛生面、立地、設備面などの不備が主な理由だそうです。コーヒーショップと公衆トイレの話題については以前のニュースレターをどうぞ。

▷ 以前期間限定生まれた飲む文庫本「珈琲文庫」が、新たに指定されたテーマに沿った400字弱の私小説を書いてくれる作家を募集中。〆切は12/30。ご興味のあるコーヒーラバーは是非 :)

▷ マイアミ・アートウィークで、なんと1杯約1130万円のコーヒーが販売中。このコーヒーを買うと、アーティストのダニー・カサーレが、カップにオリジナルデザインを描いてくれるそうです。緊張でカップを持つ手が震えること間違いなし。

 

 

What We're Drinking
今週のコーヒー

 

Pessoa Coffee Roasters 石川(地図

肥沃な大地と生産者の丁寧な仕事が生み出す、素晴らしい香味と豊かな個性。そんな、世界の拡がりを感じさせてくれるスペシャルティコーヒーをもっともっと多くの人に楽しんでもらいたい。みなさんの世界が拡がる 「きっかけ」になる。そんな場所を目指しています。コーヒーのラインナップは浅煎りから深煎りまで幅広く、コーヒーやプアオーバーに関する情報も惜しみなく発信しています。 コーヒーを通じて、新しい世界を一緒に感じませんか?

コーヒー情報:

生産者:天空農園 農園管理者 曾さん

生産地域:中国 雲南省 保山市 ルジャンバ(地図

品種:カティモール

精製方法:嫌気性酵母菌発酵 ナチュラル

テイスティングノート:チェリーやマスカットのような瑞々しいフレーバーが百合のような香りを伴って、アガベシロップを思わせる軽やかな奥行きへと運んで行きます。重奏的かつ肌理細かい風味をお楽しみ下さい。

編集長のコメント:

The Weekend Brew初登場となる中国。雲南といえばプーアール茶ですが、中国では近年、雲南で素晴らしいクオリティのコーヒーが生産されています。今回のコーヒーもそのひとつでした。お湯を注いだ際に湯気と共にムワッと鼻奥に上ってきたのは、まさしくいちごジャム。いい焼き色のトーストにたっぷりいちごジャムを塗り、一口頬張った時のよう。アナエロビック特有の、ナチュラルやウォッシュトでは感じることのできない香りが漂います。一口含むと、刺激的なフレーバーが口の中が驚かせるような感覚。小学生の時に好きだった、わたパチ グレープ味を思い出しました。鼻に気持ちよく抜けていくのは金木犀の香り、そしてフランボワーズを口の奥で感じます。奇抜で香水のような香りの中にも、カカオや麦チョコのようなニュアンスが心地いいです。2年前くらいに飲んだっきり雲南のコーヒーは飲めていませんでしたが、改めてコーヒー新興産地の中国の成長ぶりに驚かされました。



Artists in Residence
Standartを彩るアーティストたち

アーティスト: 

フィリップ・リンデマン ウェブサイト Instagram

プロフィール:

オランダ出身のイラストレーター。彼の描くシーンやテーマには、まるで日常切り取ったかのような悲劇や神秘主義、ユーモラスな状況が内包され、作品の内に架空の現実を連想させる

最新の掲載記事:

Standart Japan第17号
ボリビア

Inspiration
おすすめの本、映画、音楽、アート

利他とは何か』- 伊藤亜紗編、中島岳志、若松英輔、國分功一郎、磯崎憲一郎

人文社会系の研究拠点「未来の人類研究センター」のメンバーによる共同著書。本書は美学者、政治学者、批評家、哲学者、小説家という異なるバックグラウンドを持つ5名の研究者が、「利他」を巡る思考を展開しながら、私たちの日常に潜む利他的な関係性について問いを投げかけます。

同書の中で繰り返し用いられているのが「委ねる」という言葉です。一見「利他」という話題からは連想しにくい言葉かもしれませんが、著者の一人である伊藤亜紗さんは「ケア」の観点から、利他について考える上での大原則は、「自分の行為の結果をコントロールできない」ことであると述べています。相手のことを思った行動に対して、相手に「こうなってほしい/こう感じてほしい」とリターンを求めるとき、そこには実質的な支配関係が生じていると言えます。だからこそ相手を信頼し、委ねる。それはつまり、常に相手が入り込める/相手に合わせて自分が変わることができる「余白」を持つことこそが、特にケアの現場において重要であると語っているのです。真の「利他」がどこまでも受け身な行為であるということは、人の間を生きると書く私たち人間の本質的なあり方が、利他という行為と深く結びついていることを示唆しているように思えます。

また個人的に印象に残っているのが、ヒンディー語では「私はうれしい」という文章が、「私にうれしさがやってきてとどまっている」と表現されるということです。英語で「〜と思う」と表現するには「I think~」、つまり「私は意思的にそう思っている」という立場が前提となっていますが、考えてみると、湧き上がってくる思いや感情の源泉が常に自分の意思なのかという疑問が浮かび上がります。大切な人への思いは、大切な人の存在があってこそ育まれる。だからこそ、常に大切な相手の存在への感謝と、「思いが宿る」という感覚を大事にしたいものです。



Brewing with…
あの人のコーヒーレシピ 

 

千葉 大樹

2019年にオーストラリアのメルボルンへの留学をきっかけにコーヒーにハマり、バリスタとしてのキャリアをスタート。現在は、Allpress Espressoと銀座のカフェで働いている。最近は古着屋巡りにハマり中。1日飽きるまで回ってることも。

セットアップ:

抽出器具:ハリオ V60
豆量:18g
湯量:240g
挽き目:中細挽き
湯温:90℃
抽出時間:2:10

手順:

  1. お湯を30g注ぎ、30秒程蒸らす
  2. 徐々に湯量を増やしながら少しずつお湯を注いで切るを40秒程繰り返す
  3. 湯量が240gになるまでゆっくりお湯を注ぐ
  4. 2分10秒程で切る

    ポイント:

    粉全体から抽出というよりは、フィルター部分の大きさと同じだけの円を描きながら抽出するようにしています。 毎度、注ぎ終わりはフィルター部分に道を作るようなイメージで真ん中で注ぎ終わるように意識しています。

    コメント:

    今後も、自分のお店を持つ事を目標に一緒に働いてるスタッフの皆さんと助け合いながらバリスタとして、人として成長できたらなと思います。


     

    今週の The Weekend Brew はいかがでしたか?

    今日のShoutout!は、Standartについてとっても詳しくご紹介してださったコーヒー豆研究所さんと、最新号についてくるMocha Originsのサンプルコーヒーをゴキゲンにドリップしてくれた@pmf7_さん。ありがとうございました〜!

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    今週の The Weekend Brew は Standart Japan 第18号スポンサーのブルーマチックジャパン、パートナーの Victoria Arduino x トーエイ工業The Roast Expert by PanasonicFAEMA x DKSHのサポートでお届けしました。

    LOVE & COFFEE✌️
    Standart Japan
    (執筆・編集:Takaya & Atsushi)